Episode 030
2年1組とバスケ部のエキシビションマッチ、勝利したのは未亜たち2年1組だった。
体育館の中は勝者を讃える拍手やまさかの敗者に驚愕する声など様々である。
「よう、羽山。約束は覚えてるよな?」
「テメェ……」
未亜が羽山の元まで歩き、悪い笑みを浮かべながら言う。
そんな羽山は床に手をついており、未亜の顔を見上げている。
他のバスケ部の面々も負けたことに動揺を隠せない様子だった。
「無様を晒したのはどうやら、そちらだったようで」
「クソッタレがっ!」
「未亜!」
近くで見ていた怜がいち早く気付く。
「やめろ羽山!」
そしてバスケ部の部長もだ。
なんと羽山は起き上がりざまに未亜に殴りかかったのだ。
しかしその拳を未亜は左手で受け止めた。
「おいおい、俺が避けなかったら明日から停学もんだぞ。まぁ、もうそろ夏休みだけどな」
「っ!」
「お前、もしかして何で自分たちが負けたか分かってないのか?」
羽山は何も言わず拳を引っ込める。
「……なるほどな。あそこまで露呈しておいて分からないとは、ここまでくると呆れを通り越して憐れだよホント」
「んだとテメェーっ!」
「お前のせいだよ、羽山」
「は?」
「お前のせいでバスケ部は俺たちに負けたんだよ」
羽山は未だ信じられないといった表情だ。
「オレのせい、だと?」
「その通りだ、羽山」
そこに現れたのは高身長が特徴的な40代ぐらいの男だった。
「か、監督!どうしてここに……」
バスケ部の部長がたしかにそういった。
「全く、賭けのこともそうだがお前たちは随分と恥ずかしい試合をしたな」
バスケ部員たちは気まずい顔をする。
「特に羽山、今までのツケがまわってきたな」
「そりゃどういうことだ?」
「相変わらず監督に向かってタメ口とは、本当に甘やかしすぎたようだな。俺は所詮この学校に雇われた身だ。問題児がエースだろうがなんだろうが部を強くし、結果を残すことが仕事だ」
監督はため息まじりに続ける。
「問題児の更生は仕事に入っちゃいないし、結果を出すならと黙認していた俺も甘かったよ。いくら桑田たちが相手とはいえバスケ部じゃないやつらにまさか負けるなんてなぁ」
「くっ……!」
「羽山、こっち来い」
「はっ!?ちょっ……」
監督は羽山を無理矢理引っ張りながらコートの中央まで歩き、体育館全体を見渡した後、
「今までご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
体育館にいる生徒が皆聞こえるほど大きい声で監督は頭を下げながらそう言った。
これには誰もが驚いた。
「羽山、お前も謝れ」
「は!?意味わかんねーよ!なんでオレが」
「勝負に負けたんだろ?逃げるんじゃねぇ」
体育館が静寂に包まれている中、羽山は屈辱そうな表情を浮かべる。
空気的に謝らなければ収まらない。
それだけは自明だった。
「……すいませんでした」
羽山は小声でそう言う。
「声小せーぞ。あと申し訳ございませんでしただろ、監督を見習え」
未亜が羽山に対してヤジを飛ばした。
「桑田、テメェ……」
「それと土下座な?」
羽山は怒りと屈辱が入り混じり、歯を強く食いしばった顔をしながら片足ずつ膝をつく。
その様子を見て怜は未亜に耳打ちする。
「(土下座は僕たちが負けた場合じゃなかったっけ?)」
「(これ以上悪さをしない宣言じゃぬる過ぎるだろ)」
「(もしかして監督を呼んだのって……)」
未亜はこれ以上答えない。
その間にも羽山は正座になり体育館の床に手と額をつけ、
「今まで、申し訳ございませんでした……」
静寂の間が続き、監督が口を開く。
「この場にいるバスケ部集合」
バスケ部員たちは慌てている。
「集合!今体育館にいるやつ全員だ」
監督によって集められたバスケ部員たちは整列させられ、
「お前たちもだ。この場で謝罪しろ、いいな部長」
「はい……」
部長が深く息を吸い、
「今まで本当に申し訳ございませんでしたっ!」
それに他のバスケ部員たちも続いた。
「「「申し訳ございませんでした!!」」」
「バスケ部全員球技大会終わったら部室に集まれ。分かったな?」
「「「はい」」」
こうして波乱なバスケの球技大会が終わった。
体育委員たちが表彰式の準備を始まる。
といっても結果を発表するだけなのだが。
ちらほら観戦していた生徒たちも体育館から帰り始めた。
ちなみに羽山は恥ずかしいのか、すぐに体育館からいなくなった。
「桑田、やってくれたな」
「監督」
バスケ部の監督が未亜に話しかけた。
「やってくれたって言い方はどうなんですか?」
「実際そうだろう。あんなんでもうちは全国クラスのチーム、それをあっけなく打ち負かされたんだから」
「あっけなくはないですよ。ギリギリでしたし」
「全盛期のお前たちなら果たして勝負になってたか?」
監督は未亜だけでなく、怜や諒平たちにも目を向ける。
「なぁ、桑田。やっぱりバスケ部に入らないか?」
「監督!?」
すぐ近くで聞いていた部長が驚く。
「やめておきます。自分、これでも忙しいんですよ」
「そう言うなよ。お前、一応うちの部のスポーツ特待生で入学したんだぞ」
部長は更に驚愕する。
「そのくせに入学してから入部しねーとか、そんなことすんのはお前ぐらいだろうな」
「もう特待生ではないので」
「当たり前だ。それにしてもあのノールックパスはどうやってんだ?視界の外の味方を完全に把握してるとしか思えないんだが」
「そもそもそれが間違いですよ」
「なに?」
「俺はただ敵のいないところにただ投げてるだけです」
「いや、それだけだと味方がいなかったら意味ないだろ」
「うちの運動バカ共を見てくださいよ。特に怜ならテキトーなところにパス出しても間に合いますから」
「……なるほどな。あいつらの視点から尚更訳わかんなかっただろうな。神坂たちにもぜひうちの部に入ってもらいたいぐらいだ」
「それこそ羽山とはどうするんですか?馬が合うわけないですよ」
「それもそうだな。天才がいすぎるとそれはそれでバランスが取れん」
「それにしても今日は本当に来てくれるとは思いませんでしたよ」
「あの子から連絡きたのはやっぱりというか、お前だったのか。ま、良い引き締めになったよ」
「それなら良かったです」
「入部届けはいつでも受け取るからな」
こうして監督はそう言って帰っていった。
「僕はこれからサッカーのエキシビションに行ってくるよ」
「お前マジか。そういやサッカーはようやく決勝が終わったぐらいなのか」
「うん。まだ間に合いそうだから」
「いや、ホント。お疲れ」
「未亜もね。クラスで打ち上げするだろうから終わったら教室で待っててよ」
「今日はソッコーで帰りたいんだが」
「帰るにしてもね。それじゃあ」
怜はサッカーのエキシビションマッチに出るためにグラウンドへ向かった。
「あー、それにしても疲れた。表彰式は面倒だし、着替えて教室で寝てよ」
廊下にて。
「あれ?桑っちじゃん」
「高柳か」
「表彰式これからじゃなかったっけ?」
「面倒だから帰ってきた」
「優勝してバスケ部にも勝ったのに?」
「それが表彰式に出る理由にはならないだろ」
「いや、出ればいいのに。それにしてもホントに勝っちゃうなんて思わなかったよ」
「高柳には今回少し世話になったな」
「ホントだよ。いきなり男子バスケ部監督と連絡取れないかって」
「バスケ部の知り合いが高柳しか思いつかなくてな。それでも本当に連絡取れるとは思わなかったんだけど、どうやったんだ?
「部長さんに教えてもらったの」
「……なるほど、流石だ。あとで何か奢るよ」
「う〜〜〜ん、そうだなぁ」
「そんなに悩むことか?」
「じゃあ、うちと付き合って」
………
………………
………………………
「うむ。それは買い物にってことか?」
「ううん、桑っちが一番最初に思った方」
「じゃあ買い物だな」
「嘘はよくないと思う」
「心臓に悪い冗談もよくないと思う」
「うち本気なんだけどなぁ」
「俺は怜のことが好きだって聞いてたんだけどなぁ」
「それとこれとは別」
「いや一緒だと思う」
「桑田くんにだけは言われたくないかな?」
「桑田くん、ね。ちなみにそれはどういう意味かな?」
「心当たりあるんじゃないかな?」
「さぁ、なんのことやら」
「シラを切ってもいいけど証拠あるよ?ほら」
美紅は未亜にスマホの画面を見せる。
「………………これだから女は信用できない」
「時代不相応な発言だね」
「ちなみに男も簡単に信用しちゃダメだが」
「それはいわゆるブーメランってやつ?」
「いてこますぞこら」
「いてこますってどういう意味?」
「大阪弁で一発かますぞって意味」
「へぇ〜」
「話を戻すが、なんの冗談のつもりだ?」
「だから冗談じゃないって、今日の桑っち見てたらなんか良いなぁって」
「俺は大した活躍はしてないけどな」
「それは無理あるよ。あれは完全に桑っちの作戦勝ちだもん」
「偶々だ」
「否定しないんだ」
「面倒になった」
「それにしても桑っちバスケやってたんだね」
「中学のときに少しかじっててな」
「ところで返事はくれるのかな?」
「間接的に断ってるつもりだったんだが」
「はい以外の答えは聞こえないかな」
「あーもう、何企んでんだよお前。怖すぎるわ」
「企んでるなんてそんな、うちはただ良いなぁと思う男子に告白しただけだよ?」
「可愛い顔して言っても信じないからな」
「うちら相性いいと思うけどな〜」
「それはないということがすでに自明なんだが」
「付き合ってくれないならさっきのやつばら撒いちゃうよ?」
「うわ、脅しかよ。好きにしろ。これ以上悪評が広まったところで変わらん」
「じゃあうちが今桑っちに襲われたーって叫び回ったらどうする?」
「……………………負けだ負け。ホントに退学とかになりかねない」
「それはオッケーってことかな?」
「お好きなように解釈してください……」
「やった!今日からよろしくねっ」
「…………今年の俺は女難の相が出ているのかもしれないな」
「何かいったかな?」
「その言い方怖いからやめてくれ」
未亜は最後にボソッと「もうやだ……」と呟き、教室に戻るのだった。
ヒロインの一人称バラバラ事件(特に美紅)が起きているので気づいたら教えてクレメンス。




