Episode 028
球技大会当日。
今日は一日を通して球技大会が行われ、学年関係なしにどのクラスが1位かをトーナメント形式で争う。
そして各球技1位のクラスはその球技の運動部とエキシビションマッチをし(例えばサッカーで1位のクラスはサッカー部と戦う)、勝てば食堂で使える割引券がもらえるらしい。
ちなみに部の方は負けると監督や顧問の先生に厳しい練習が課せられるらしい。
なぜ『らしい』なのかと言われると今まで球技部側が負けた例がないからだ。
「未亜、調子はどうだい?」
怜が体育館で靴紐を結んでいる俺に話しかける。
「ん?まぁ、ぼちぼち良好だな」
「なるほど、バッチリみたいだね」
「ぼちぼちって言ってるだろ」
「僕にはそうは見えないかな。昨日の夜に大分仕上げたみたいだね。それにそのシューズ」
怜は俺の足元を見る。
「中学のときに使ってたシューズだね」
そう、これは俺がかつて履いていたバスケのシューズだ。
「あぁ、体育委員のやつに聞いたらオッケーらしいからな」
「そうなんだ。未亜がそこまでするなんてね」
「俺はいつだって本気だよ」
「そうだね、そうだった」
「そんじゃまぁ、軽ーく優勝してあのバカを叩きのめすとしますか」
そして一回戦目、俺たち2年1組は2年2組と当たった。
ちなみにメンバーは俺、怜、海斗、諒平に加えて加藤雅人だ。
雅人はバドミントン部で、県大会にも出場しベスト8になったほどであり運動はかなりできる。
「なぁ、お前ら?さっきの話マジ?」
雅人が苦笑いしながら訊ねてくる。
ついさきほどバスケ部との賭け?のことを話したばかりだ。
「残念ながらな。諒平が啖呵切っちゃったんだからしょうがない」
「おぉい、未亜だって最後は乗り気だったじゃねーか」
「ま、とはいえ雅人には関係ない話だからテキトーに楽しんでやってくれりゃいいよ」
俺は雅人の背中を叩いた。
「そう言われてもよう、流石にやりづらいんだけど……」
「未亜の言う通り、気軽にやって大丈夫だよ。勝つのは僕たちでやるから」
「神坂まで、はぁ、足引っ張らないよう頑張ります……」
やっぱり話すべきじゃなかったか?
でもどうせ俺たちのモチベーションと気迫の違和感には流石に気づいてただろうし、後から言うよりは良かったか。
巻き込んで悪いが、その代わりといっちゃ何だしまだできるか分からないが優勝という名誉と割引券がもらえるってことで納得してもらおう。
そして2年2組の面々と対する。
「それでは2年1組と2年2組の試合を始めます」
審判を務める体育委員がボールを持っており、その両脇に二組とも並んでいる。
ちなみに分かりやすいよう2組の方がゼッケンを着ている。
「うわっ、初っ端から1組かよ」
「ついてねー」
その反応も当然だろう。
なにせ怜と諒平がいるのだから勝ち目がないと思っても仕方ない。
「桑田、お前らのところズルくないか?」
対面してる2組のやつが俺にそう言ってきた。
「悪いが勝たせてもらうぜ」
「お手柔らかに頼む……」
結果は24-4で俺たちの勝ちだった。
「まさかここまでボッコボコにされるなんて」
2組のやつが膝に手をつけてへばっている。
「悪かったな。その代わりついでにバスケ部の野郎共もぶちのめしてやるから」
「おいおいマジかよ……。いくらお前らでも、だけどあいつらウザいしせっかくならかましてやれよ」
「あぁ、任せろ」
その後も俺たちは順調に勝ち上がり、決勝戦まで来た。
決勝戦の相手は3年1組だ。
結果はというと……
「試合終了!27-15で優勝は2年1組!」
決勝戦の頃には結構な生徒が体育館に観戦しに来ていた。
聞くところによればサッカー以外はエキシビション含めて終わったらしい。
「おい羽山、ここまで来てやったぞ」
諒平は当然とばかりに羽山を見ながらそう言った。
「イキがるんじゃねぇ。実力差ってやつを教えてやる」
「おいおい、こちとらバスケ部じゃないんだぜ?せいぜいお手柔らかに頼むわ」
「はっ、ビビってんのか?」
羽山は嘲笑うかのようにこちらを見てくる。
「素人相手に実力差を教えてやるとか言ってイキがってるやつにビビるわけねーだろバーカ」
「テメェっ!」
羽山が俺に掴みかかろうとする。
「おっと」
俺は掴みかかろうとしてきた羽山の手を逆につかみ、力を入れた。
「イテテテッ!」
「試合前にその大事な手が使えなくなるかもな」
俺は程々にして羽山の手を放した。
「クソが!覚えてろよ!」
「あー、汚ねぇやつの手に触れちまったじゃねーか。誰か消毒液もって来てくれ」
「この野郎!」
羽山は怒り心頭だ。
「未亜、煽り過ぎだよ」
「この幼稚な煽りに乗って感情的になるやつはよっぽどのバカしかいないと思ったんだが、どうやらあいつはそうらしい」
「テメェっ!」
「未亜」
「悪かったって。だけど怜、こんなクズバカにされて当然だろ?」
「!」
「っ!」
怜と羽山2人とも黙り込んでいる。
「まっ、正々堂々勝負しといこうか」
「ゼッテー許さねーからな!」
「随分と嫌われたものだ」
「そりゃそうだよ」
怜には呆れられてしまったようだ。
こうして負けられない戦いの幕が上がった。




