Episode 027
それは日が暮れ、まさに夜になろうとしている時間。
ここはバスケのコートのある公園。
その公園のベンチで1人スマホをいじりながら待っていた。
「やっほー、ミアちん。待たせちゃってごめんねー」
「いや、いきなり呼び出して来てもらっただけありがたい」
ベンチで待っていたのは未亜。
未亜が待っていたのは高身長なイケメンだがどうにもチャラそうな男だった。
そのチャラそうな男はバスケのボールを持っている。
「いや〜、それにしても久しぶりだねミアちん」
「できればその呼び方はやめてほしいんだが。まあ、さっきLI○Eで送ったとおりだ」
2人はコートに入った。
「ボクちん驚いたよ。まさかミアちんからバスケを教えてくれだなんて」
「色々あってな。バスケといったらやっぱお前だろ。去年のバスケ全国優勝校のエース洞木颯さん」
「どうも」
「まさか1年生でもう全国優勝するなんてな」
「元から全国常連の強豪校だったしね。………そこに入れたのも優勝できたのもミアちんのおかげだよ」
颯はそういってボールを未亜にパスする。
「俺は別に何もしてないだろ」
未亜は受け取りそのままゴールへとボールを放ったが、リングにあたりはじかれてしまう。
「そんなことないさ。ミアちんたちがボクちんのためにバスケ部に入ってくれたおかげで、ボクちんは」
颯はボールを拾い、また未亜にボールをパスする。
「それはたしかに要因の1つかもしれないが、結局のところお前に実力があったからだ。それに俺も恩恵に預かったしな。現にこうしてお前に教えをこうことができる」
未亜はまたゴールの方へボールを放った。
今度のそれはシュートではない。
颯はジャンプし、空中でボールを片手でつかみダンクを決めた。
これはアリウープと言われる難易度の高いダンクである。
「ありがとう、っていうべきかな?」
「やっぱスゲェわ」
「ミアちんもナイスパス。まだまだ鈍ってないみたいだね」
「そうでもないさ。中学のときと比べて遥かに動けなくなってるよ」
「そーなの?そういえばミアちん痩せた?」
「まぁな。やっぱ使わねーと自然と筋肉ってのは落ちるみたいだ」
「やっぱり。中学のときもスゴいガタイが良かったってわけじゃないけど、なんていうかね」
「そんなことはいいだろ。訳あって明日全国出場のバスケ部に勝たなきゃいけないんだ。時間はない」
「はいはい、相変わらずせっかちだなぁ。じゃあ早速基本から遡ろうか」
そして2時間以上、彼らは休憩を挟みつつもひたすらバスケに打ち込んだ。
「ハァ、ハァ……」
未亜はその場に座りこんだ。
「ふー、大体の感覚は取り戻せたんじゃない?」
「おかげさまでな。だけど、まだまだ足りない。これじゃあ勝てない」
「もうこの辺にした方がいいんじゃない?ミアちん、前よりスタミナも落ちてるでしょ?無理のしすぎはかえって毒だよ」
「んなことは分かってる。でも俺にできるのは無茶することだけだ」
「いーやダメだね。ここでホントに倒れたら元も子もないでしょ」
「……しょうがないか」
「うん。ところで対戦相手は曲輪田高校バスケ部だっけ?ならミアちんたちは勝てるよ。しかも余裕でね」
「そりゃあ、どういうことだ?」
「エースの誰だったかな?ちょっと名前思い出せないけど、彼はたしかに天才だ。でもそれだけだよ」
「へぇ、お前が天才って認めるのか」
「不本意だけどね。試合したことあるけど、正直もったいないって思ったね。なんでその才能が彼にあるのかってね。曲輪田のバスケ部もたしかに強いけど、強豪校は他にもあった」
「……なるほど、言いたいことが何となく分かった」
「うん。彼ほどの天才が全国常連の強豪校から声がかからなかったのはつまるところそういうことだね。他の選手がどうかは知らないけど、彼を抑えることはミアちんなら簡単にできるはずだよ」
「それをお前から聞けて安心した」
「この後一緒にご飯でもどう?」
颯は座りこんでいる未亜に手を差し伸べる。
「そうだな。お礼と言っちゃあなんだが奢ってやる」
未亜は颯の手を掴み、そのまま立ち上がった。
「ところで」
「なんだ?」
「どうしてここまでして勝ちたいのかな?」
「ん?別にいいだろ」
「ボクちんにここまでさせたんだ。それぐらい教えてくれたっていいんじゃない?」
観念したかのように未亜はため息をついた。
「飯食いながらでも教えてやるよ」
「オッケー。ボクちん行きたいファミレスあるんだよね。最近めっちゃ可愛いバイトの女の子がいるって噂のファミレスなんだけど」
「多分だがそのファミレス知ってる」
「マジ?さっすがミアちん、押さえてるね〜」
「その前にシャワー浴びてぇな」
「ボクちんのデオドラントシートあげるよ」
2人は公園から出てそのファミレスへと向かった。
「いらっしゃいま……せ……」
そのファミレスとは未亜の予想通り葛西由紀子がアルバイトしているところだった。
由紀子は少し驚いている様子だ。
「よう葛西」
「桑田くん……っと、隣の方は?」
「あれ?ミアちん彼女と知り合い?もしかして曲輪田高の娘?」
「そうだよ。やっぱりここだったか」
「葛西さんだっけ?ボクちん洞木颯、よろしくね」
「は、はい。お席の方ご案内いたしますね」
2人は由紀子に案内され席についた。
「こちらメニューになります」
「ありがとね葛西ちゃん」
「ちゃん?え、あ、はい」
突然のちゃん付けに由紀子は戸惑った。
「こいつナンパ野郎なんだ。気安くて悪いな」
未亜は由紀子から受け取ったメニューを早速開いた。
「ナンパ野郎とは失敬だなぁ。それにしても葛西ちゃんホント可愛いよね〜」
「えーっと……」
「あんまり困らせるなよ。悪いな葛西、もう大丈夫だ」
「あ、はい。ご注文お決まりでしたらそちらのボタンでお呼びください」
由紀子は別の卓へと向かった。
「もしかしてミアちんの彼女だったりする?」
「そんなわけないだろ」
「でもあの子、ミアちんのタイプだよね?」
「どうしてそう思うんだ?」
「雰囲気翔子ちゃんに似てる」
未亜は颯を睨んだ。
「ごめんって。そういえばさっきの話してよ」
「あー」
未亜はためらいつつも事のあらすじを話し始めた。
「くくくくっ……」
颯は声を抑えながら爆笑していた。
「だから話したくなかったんだ」
そういいながら未亜はドリンクバーで注いだ野菜ジュースを飲んだ。
「いやー、まさかここで翔子ちゃんが出てくるなんて。それにしても、ミアちんが……」
笑いをこらいきれないようだ。
「そんなにおかしいか?」
「おかしくはないけど、というより少し安心したかな」
「どういうことだ?」
「みんな変わってないんだなって。ミアちんも結局変わってない。それがまたおかしくって」
まだ颯は笑っている。
「いい加減殴るぞこの野郎」
「まぁまぁ落ち着いて。ボクちんは嬉しいんだよ」
「嘘つけ、バカにしてるだけだろ」
「バカになんてしてないよ。いやー、あとミアちんの話を聞いてボクちんが彼を天才だって言ったことが恥ずかしくてね。試合したときもたしかに態度悪かったけど、そこまでとは思わなかったよ。曲輪田って意外といい噂聞かないよね」
「それについては否定できねぇなぁ。まぁ、実績つくるのも大変ってことだろ」
「ならレイちん含めてキミたちの入学は大歓迎だったろうね」
2人がそんな会話をしていると、由紀子が料理を持ってテーブルに来た。
慣れた手つきで料理を2人の前に置いた。
「カットステーキとチキン南蛮定食です。ご注文の品は以上でよろしいですか?」
ちなみにカットステーキは颯、チキン南蛮定食は未亜である。
「あぁ大丈夫だ」
「うん、ありがとね葛西ちゃん」
「ごゆっくりどうぞ」
彼女は笑顔で礼をして戻っていった。
「やっぱ可愛いわ葛西ちゃん」
「手出すのはいいが葛西は怜のこと好きっぽいぞ」
「マジかー、そりゃ無理だわー。てか手出してもいいの?」
「どうせ引っかからないだろうしな」
「それミアちんが引っかからないようにするとかじゃなくて?」
「……お前は女子を甘く見過ぎだよ」
「ミアちんから言われると説得力あるなぁ〜。話を聞く限りまだ翔子ちゃんには手を焼いてるみたいだね」
「頼むから翔子の話はやめてくれ……」
「相当やられてるみたいだね。別れても結局そうなるんなら、ヨリを戻してもいいんじゃないの?ちょっと重いことを除けばあんな子、そうそう出会えないよ?」
「んなことは分かってんだよ。その上で別れたんだからな。あとちょっとじゃなくてちゃんと重い」
颯はまた爆笑した。
2人は食事を終え、いろんな雑談した後ファミレスを出た。
「ホントに奢ってもらっちゃって悪いね」
「気にするな。コーチ代とでも思ってくれ」
「そうなるとちょっと安いかな?」
「これでも金欠なんだ」
「冗談だよ。それじゃあ明日頑張って。全国一が教えたんだから負けないでよ?」
「あぁ、分かってる。ホントにサンキューな、今日部活途中で抜けてきてくれたんだろ?」
「偶にはね。今日の分は明日取り返すさ。それに久しぶりにミアちんの顔見れてよかったよ」
「あぁ、今年も全国一取ってくれ」
「もちろん。それじゃあこの辺で」
「あぁ」
2人は道すがら別れ、それぞれ帰宅するのだった。
このキャラ出すか迷ったんだよなぁ。




