Episode 020
今日は姫ヶ崎女学園との初合わせの日。
曲輪田高校内は朝からその話題で持ち切りだった。
「おはよう未亜。遅刻ギリギリなんて珍しい。いつもはギリギリ遅れて来るのに」
「俺は朝練組みんなよく起きれるなと毎日思ってる」
怜もサッカー部に所属しているから当然朝早くに登校し、朝練に励んでいる。
前にも言った気がするがうちのクラスは運動部が大半なのもあり、朝遅刻してくるやつが滅多にいないのだ。
なので謎に俺は目立つことがある。
「もしかしなくても眠らなかったみたいだね」
おそらく側から見た顔からして眠そうなのだろう。
「あぁ、文字通り一睡もしてない。おかげでRPGの超大作をクリアしてしまった。時間をかけてゆっくりやるつもりだったのに」
「その割にはまだ元気そうだけど」
「まぁ、電車の中で寝たしな」
「10分程度の睡眠じゃあんまり変わらないと思うけど?」
「そうか?」
「……未亜はいつもどのくらい寝てるの?」
「2時間だけど?」
そう俺が平然と答えると怜は少し驚いたような顔をした。
「夜更かししてそうだとは思ったけど……」
「夜更かしってのは今日みたいに寝ないで夜が明けることじゃないのか?」
「そう思ってるのは未亜だけだよ。よく体壊さないね」
「俺からすれば睡眠なんて1時間半で十分だ。2時間すらいらないな。授業中はたまに退屈で眠くなるし寝るけど」
そこで睡眠時間を稼ぐまである。
「未亜のような人をショートスリーパーっていうんだね」
「でも一睡もしてないってなると、やっぱキツいものがあるな。少し寝る」
「一睡もできなかったのはやっぱり」
「言わなくても分かるだろ?」
俺は自分の席に座り、机に伏して寝た。
そして担任からゲンコツ食らってしまった。
なんとも慈悲がない。
「文化祭実行委員。今日は姫ヶ崎女学園と初合わせがあるから放課後に例の教室な。詳しい時間を言っておくと16:30に集合だから遅れるなよ」
頼むぜ神様。2万円も献上したんだから俺の微かな願いぐらい叶えてくれ。
なんやかんやで6限まで授業が終わり、謎の緊張による腹痛でトイレにこもっていたら集合の時間になっていた。
このままずっと引きこもってやろうかと思ったが、怜からSNSで『来なかったら後で困るのは自分だよ』と正論かまされたので仕方なくトイレから出た。
そして初合わせが行われる教室で俺は怜の隣の椅子に座った。
机と椅子の配置が変わっており、この無駄に広い教室の真ん中を境にして机と椅子が互いに向き合うカタチになっている。
教室の左側が俺たちで、右側が姫ヶ崎女学園のようだ。
椅子の数を見るに、今日来るのは10人ぐらいか。
そして俺はどうやら合同企画班のリーダーなので右側最前列に座らされた。怜に。
各班のリーダー以外は後ろにテキトーに座っている。
そこには俺をリーダーにしたてあげてくれた後輩の姿もあった。
「各班のリーダー全員そろってるみたいだし、軽く打ち合わせしようか」
生徒会長にそう言われ、席を立って空いている教室の中央で各班長と生徒会長や実行委員長も円になるように並ぶ。
「今日は初合わせだけど、やることは主に2つです」
「えーっと。たしかこっちの中心メンバーの紹介と連絡先の交換、あとは大まかなスケジュールの確認だったかな?」
「はい。自分が全体を仕切ることになっているので、こちらは梅ケ原先輩が引っ張ってくれるとありがたいです」
「それはオッケーだけど、困ったら助けてね?」
「大丈夫ですよ。今年の実行委員は優秀な人が多いですから。ちゃんと先輩のことも助けてくれるはずです」
なぜこちらの方を見るんだ生徒会長。
いや、見てるのは隣の怜か。
「そっかぁ!なら安心安心!」
俺は不安だがな。
「それじゃあ、あと少しだけ時間あるので配った資料にもちゃんと目を通しておいてください。それでは皆さんよろしくお願いします」
生徒会長も大変だな。
前例のない他校との合同文化祭。
しかも相手は敷地に男子が立ち入ることができないほどの超お嬢様学校。
気苦労は半端ないだろう。
まぁ、俺もそうなるんだろうけどな。
そして、数分後。
コンコン
教室の扉がノックされた。
「どうやらお見えになったようだ」
生徒会長が扉を開ける。
「お待ちしてました。姫ヶ崎女学園の皆さん。どうぞ中へお入りください」
当たり前だが入ってきたのは皆んな女子。
「おぉ……」「マジか」「さすが」
男子は特に驚いただろう。
入ってくる女子皆んな可愛いもしくは綺麗な顔立ちをしており、芸能界にいてもおかしくないのが複数いるのだから。
そして、最後に入室してきたのは。
「皆さん初めまして。姫ヶ崎女学園の生徒会長を務めております。聖川翔子です。これからよろしくお願いします」
姫ヶ崎の女生徒全員から気品は感じられるが彼女は群を抜いている。あと容姿も。
「あのコヤベェな」「綺麗……」「由紀子に匹敵するレベルの大和撫子だわ」「オーラは柏原先輩レベル」
そんな声がちらほら聞こえるほどだ。
…………そしてというか、やはりというか、こうなるのか。
あの神社へは二度と金を落とさない。
彼女の目がこちらへ向く。
「……ようやく、またお会いできましたね」
出来れば会いたくはなかったよ。
「神坂と知り合いなのか?」「神坂くんって姫ヶ崎の生徒会長と知り合いなの!?」「マジか、すげぇな」
後ろのやつらからの声が聞こえてくる。
「久しぶりだね。翔子」
怜がそう返すと、
「名前呼びだと!?」「2人ってどんな関係!?」「もしかして、まさかの?」「名前呼びくらいじゃまだ分かんないでしょ」
うむ、後ろがうるさい。
一応ね、姫ヶ崎の人たち来てるからね。
「佐々木君もお久しぶりですね」
「覚えていてくれたんですね」
「えぇ、中学生のとき同じクラスだったのですから当然です」
「聖川さん。彼と話したいことがあるかもしれませんが今は」
「大丈夫です。まずはお互いの自己紹介をしましょうか」
「そうですね。まずは自分からさせていただきます。曲輪田高校の生徒会長を務めている佐々木一也です。どうぞよろしくお願いします」
拍手が起きる。
そっか、するんだったな忘れてた。
「うちは文化祭実行委員長の梅ケ原京子です!初の合同文化祭ですけど、お互い頑張りましょー!」
よく臆せず言えるものだ。
そして各班のリーダーが自己紹介をしていく。
「ステージを担当する神坂怜です。よろしくお願いします」
どうやら怜のイケメン具合はお嬢様方にも好評なようだ。
あれ、1人もうおちてませんか?
そして次は俺だ。
「合同企画班の班長の桑田未亜です。よろしくお願いします」
波風立てたくないので無難に済ます。
そしてこちら側の自己紹介が終わり、あちら側が自己紹介する番になる。
ちなみにこちら側には班のリーダー以外にも来ているが長くなるのでしていない。
「わたくしはさきほども名乗った通りですが、姫ヶ崎女学園の生徒会長である聖川翔子です。わたくしたち側からしましても初の試みですので、皆さんのお力を貸していただけたらと思います。どうぞよろしくお願いしたします」
彼女が椅子に座ったとき、彼女と目が合った。
彼女は少し微笑んだ。
…………あぁ、心臓に悪い。
そして姫ヶ崎側の自己紹介も終わるとさっそくスケジュールの確認に入った。
資料を見るかぎり、合同文化祭であるからか例年より規模が大きい。
だからその分夏休み前から準備を進める必要があるようだ。
うわっ、夏休みが地味に潰れる。
「スケジュールはこのようなかんじなんですけど、問題ないですか?」
これだけのスケジュールを短期間で作ったのか。
生徒会やるなぁ。
「はい。わたくしたちの事情も汲み取ってくださったようで。本来ならばわたくしたちがやるべきなのに、ありがとうございます。スケジュールはこれで問題ありません」
「分かりました。こちらから少し確認したいことがありまして」
「はい、なんでしょうか」
こうしてスケジュールの大まかな確認は主に生徒会長どうしで進んでいった。
怜も含めて誰も口を出さないほどには順調だった。
たしかによくできたスケジュールで、ある程度余裕も持たせているのも凄い。
「今日はこんなところでしょうか?」
「そうですね。来週も話し合う機会がありますし、連絡先を交換して終わりましょうか」
連絡先の交換って言っても、俺誰と交換すればいいんだ?
怜のやつ、相変わらず人気だなぁ。
3人から勢いよく聞かれている。
その他の面子も関わりそうな子と交換しているみたいだ。
SNSのグループチャットでいいだろと思ったりもしたが、姫ヶ崎の面々の中にはガラケーの子もいたのでこの連絡先交換会はそのためのものなんだろう。
「ねぇ、君。合同企画班の班長さんだよね?」
「あぁ。えーっと」
急に話しかけられると困る。
「うちは本郷咲奈。同じく合同企画担当なんだ」
お嬢様学校の姫ヶ崎女学園のイメージとは少し違う少し長めな茶髪の女の子だった。
童顔というか幼く可愛いらしい顔立ちとは裏腹に脚が長くモデルのようだ。
「そうなのか。よろしく頼む」
「君が噂の未亜くんかぁ」
「もう誰かに聞きました?」
「たしかに何人かの女の子から気をつけろみたいなこといわれたけど、君なんかしたの?」
「少なくともその女の子たちには何もしてないよ。てかタメ口で話しちゃってるけど何年生?」
これで先輩だったら生意気にもほどがある。
「同じ2年生だから大丈夫だよ。とにかく連絡先だけ交換しちゃおっか」
そして俺たちはSNSの連絡先を交換した。
「実は君のことは知ってたんだよね」
「まさか……」
「うん。うち翔子と仲いいから」
まぁ、こうなることを予見できるわけもないし仲のいい友人に話してもおかしくはないか。
「他言無用で頼む」
「……それは無理じゃないかなぁ〜」
おい、なぜ少しずつ俺から離れようとしてるんだ?
「え?なんでだ?って……グハァっ!」
俺は急に前から来た衝撃に耐えられず倒れる。
その衝撃は何か?
それは勢いよく抱きつかれたからだ。
「イッテ!頭打ったぞ!」
俺は上半身を起こす。
「ようやく、ようやく会えましたね」
するとそこには俺の胸に顔をうずめている姫ヶ崎女学園の生徒会長の姿があった。
しかも若干涙目だし。
周りを見渡すと皆んな唖然としている。
「おい、翔子。こんなところで……」
「そ、そうでした。わたくしとしたことが」
彼女は起き上がり、ハンカチで涙目を拭く。
俺も起き上がり、後頭部を押さえる。
未だになんかゴーンとしている。
「久しぶりだな」
出来ることなら会いたくなかった。
「お久しぶりですね」
「あの〜」
こんな状況の中、割って入ってきたのはうちの実行委員長様だった。
「お2人ってどんな関係なんですか?」
この人すげぇな。
俺も周りと同じ立場だったら絶対に聞けない。
てか、それ訊いちゃう?
「えーっと、なんといいますか、そのー」
え、答えるの?答えちゃうの?
「わたくしたちは恋人同士だった関係です」
「それってつまり。聖川さんは桑田くんの元カノで、桑田くんは聖川さんの元カレってこと?」
「そういうことになりますね」
頰を赤らめ、照れながら彼女がそういうと、
「「「えぇ〜〜〜〜!!」」」
あぁ、やっぱりそういう反応になりますよね。
てか姫ヶ崎の皆さんは驚いてないようですけど、まさか来てる人全員知ってたかんじ?
ようやくというか、本来はもっと後の予定だった主人公の元カノの登場です。
ここから物語が大きく動くことになります。
今後ともよろしくお願いします!




