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Angles-アングルスー  作者: 朝紀革命
9/14

目覚める最強兵器と私

暗黒壁の欠片を採取することに成功したニュースは瞬く間に世界中へと知れ渡った。

その出来事を切欠に今まで以上にチーム・ブラック・バーンの存在感が増し始めている。

各国の国営テレビ局を始め、多くのメディアから取材の殺到が相次いだ。

始めはチーム・ブラック・バーンの事務所で対応していたが、あまりに多い問い合わせに対処できなくなった。

そこで急遽アルゼンチンの研究施設にあるロビーの一室を使用し記者会見を開く事となった。


ミッション前から現地に詰め掛けていた世界中の報道陣が既に会場中を埋め尽くしていた。

更に、新たに駆け付けた報道陣が詰めかけると会場に入れない報道陣で溢れ返っていた。

多くのカメラが向けられる中、会場に白衣を羽織ったアニカが姿を現すと眩いフラッシュの嵐とシャッター音が沸き起こる。


一頻りのシャッターが落ち着いたところでアニカがマイクを取り、今回のミッション内容について改めて説明を始めた。

その中で「ゼロスはオリジナル・メシアのデータを基に開発された兵器」と前置きをして「その性能の高さは暗黒壁に傷を付ける事に成功した事から今までの兵器よりも優秀である事が証明できた」と自信を持って説明する。

そんなアニカが一言話す度に眩いフラッシュを浴び、この会見を切欠に世界中からゼロスへの関心が強まった。

もちろん、アニカはゼロスの適性に関する情報は一切公表していない。それは既に誰でも一定の能力を引き出せるプログラムを完成させていたからだ。

何とか、大量生産に向けての目途も立っている。後は需要がどれだけ高まるかだが… うまく進めば大量生産の話に現実味が出て来る……

そんなアニカの思惑は見事に的中する。


会見直後、日本と同盟を結ぶアメリカがゼロスを大量購入する打診が入る。

更に、アメリカは自国でゼロスを製造する権利も要求し、その為の資金を既に準備していると公言した。

しかし歓迎する日本とは対照的に、ゼロスの共同開発をしていたドイツ政府は難色を示す。

また他国からはイタズラにアメリカの軍事力を増す事に反対する声明が続々と上がった。

今や自国の領土はアラスカ州だけとなり、かつての大国アメリカの姿は見る影も亡くしたように写る。

それでも今も尚、世界中の権力者たちの中にアメリカの影響力の高さを警戒する者が多く居た。

その理由は、世界各国に散らばった“Re;アメリカ系思想”と呼ばれる『TV発生前の大国アメリカが世界を掌握していた時代こそが最も平和だった』という思想を持った者たちが潜伏しているからだ。

普段は戸籍上の出身国を名乗り、平然と様々な仕事に就いているが、その思想はあくまでアメリカ復活を願う愛国者。その中から、年間数百名単位で過激な思想に染まり、ニューアメリカ暫定政府と名乗るテロリスト集団に加わる者も出てきた。

そんな世界が睨み合いを続ける中、もうひとつの世界が注目する案件があった。それが暗黒壁の欠片についてだ。

長らく暗黒壁には傷の一つも付けられない状況が続き、何の調査もできていなかった。

それが今回、暗黒壁の欠片を採取できた事は、今後の分析結果次第では暗黒壁に関する多くの謎が解き明かせていける可能性が出て来た。

ゼロス以上に、先進国の各研究機関が暗黒壁のサンプルを欲しがった。

しかし、今回は日本とドイツの2カ国でそれぞれ分析する方針に決まり、大谷ミナミも暗黒壁の欠片の一部を持って日本に帰国していた。


暗黒壁の欠片を群馬にある専門機関・解析センターに無事届け終えると、今日の予定は済んでしまった。その後は自由行動になるのだが…

――久々の休日だ。

腕時計を見ると午後2時を過ぎていた。何をするにしても中途半端な時間帯だ。

――そういえば、私服を着るのもの久々ね。

東京まで戻った大谷ミナミは道沿いのお洒落な服を展示しているディスプレイのガラス越しに反射する自分の私服姿を確認する。

白衣が無い分、何処か落ち着かない。そんな自分の背後には多くの人々が楽しそうに行き交っている。

渋谷だから、とあまり気にはならなかったが、今日は土曜日という事もあってか、いつもよりも人通りが多いようだ。

――今日も何処かで争いが起き、多くの尊い命が犠牲になっている。そんな混沌とした世界は今、欲望と絶望の輪郭が徐々に姿を見せ始めている。それなのに、渋谷は、日本は、今日も何事も無かったように平和な日常を平和とも思えず謳歌する人々で溢れている。

「能天気というか、逆に逞しいというか」

溜息と共に宛ても無く灰色の都会を歩き始める。

――ンンンンンッ…んっ?

胸ポケットに入れていた携帯電話が震える。

今日は何の用事も入れていない。だから、誰かから電話が来る覚えもなかった。

不審に思いつつも、携帯電話を取り出し着信相手を確認すると、そこには“東京研究所”と表示されていた。

――研究所から?

研究所に在籍して5年目になるが、研究所から着信があるのは今回が初めてだ。ますます不信感を抱きながらも、大谷ミナミは恐る恐る電話に出る。

「はい、大谷です」

「緊急招集です。至急、研究所に来てください!」

危機迫る女性の物言いに、何か重大な事が起きている事を察する。

その“何か”を尋ねようとしたが、既に電話は切れていた。

突然の出来事に思考が停止しそうだった。しかし、今ここで何を考えていても仕方が無い。とにかく、今は電話で言っていた通り急いで研究室に向かおう。

こうして、大谷ミナミの久々の休日は何の前触れも無く突然の終わりを迎えた。

――まぁ、特にやる事もなかったし、別に構わないのだけれど…それよりも。

東京研究所は日本橋にある。現在地の渋谷から向かうには、電車よりもタクシーの方が早いだろうと大通りに出る。しかし、新宿環状線は長い列を成して大渋滞を作っていた。

――事故でもあったのかしら?

タクシーでの移動を諦めた大谷ミナミは頭を切り替えて、次に電車で向かおうと新宿駅まで小走りで向かったのだが…

――事故じゃなさそうね。

新宿駅でも先ほどの環状線同様に多くの人で混み合っていた。まるで台風で交通機関が麻痺した際に見られる光景だ。

電子掲示板が現在全てのダイヤが乱れている事を知らせていた。

その中でも、日本橋がある東京駅方面に関しては全線が運行停止となっていて“復旧の目途は立っていない”という赤字のメッセージがスライドして通り過ぎる。

混乱した客が殺到している窓口に大谷ミナミも歩み寄り、対応に追われる駅員を捕まえる。

「何かあったの?」

「それが、東京研究所で爆発事故があったみたいで、一部の地域で停電しているんですよ」

――爆発事故?

電話で言っていた“緊急招集”と何かしらの関係がある事はすぐに理解できたが、やはり詳しい事は何も分からない。

もっと情報が欲しいところだ。しかし駅員に再び尋ねようとしたが、他の客の対応に追われ、詳しい話しが聞ける余裕は無さそうだ……

――仕方が無い。

溜め息交じりに公共機関の利用を諦めた大谷ミナミは頭の中で周辺の地図を思い描く。

大谷ミナミは高校を卒業し、ドイツの大学に留学していた事もあり、この辺の土地勘は随分と乏しくなっていた。

しかし、大凡の目測で渋谷から日本橋までの距離を測り、“大体10㎞程かしら?”と徒歩で向かう事に決めた。


表参道から皇居を目指して進むにつれて、道路の渋滞は激しさを増し殆どの車が完全に停車していた。有楽町に着く頃には交差点の信号は完全に消灯していて、その為に警察が交差点の中心に立って赤い誘導灯を振りながら車を誘導していた。

公共の電力に影響する程の爆発規模となると、単純に考えても研究所は無傷では済んでいないだろう。そんな悪い予感を巡らせながら日本橋方面を眺めていると、遠くの方から白い一筋の煙が立ち上がっているのが見えた。

――ちょっとヤバいかもしれないわね。

大谷ミナミは自然と小走りになり、研究所まで急いだ。

「大谷君! こっちだ!」

京橋を過ぎた辺りで、不意に聞き覚えのある老いた男の声が大谷ミナミの足を止める。

「田中博士! 無事でしたか?」

そこには見事な白髪をしたゼロス開発時の主任を務めた田中誠博士が白衣姿のまま立っていた。こんな街中での再会に大谷ミナミは思わず目を丸くして驚いた。それは田中誠博士が研究の虫で、衣食住の全てを研究所で済ませてしまう生活を送っているからだ。研究所以外で会った記憶は無く、恐らく今回が初めてだ。

「博士が研究所の外に居るって事は…やはり、何かあったんですね?」

大谷ミナミは思わず表情を曇らせる。

すると、田中博士は周囲を警戒しながら大谷ミナミの耳にそっと口を近づける。

「実は今朝早くにベルリンの研究所から連絡が入ってな。保管されていたオリジナルのメシアが何者かに盗まれたらしい」

「メシアが!?」

思わず声を上げる大谷ミナミに田中博士は慌てて人差し指を立てる。

「声がデカイ!」

「あっ、すみません」

自ら口を塞ぐ大谷ミナミだったが、周囲に聞かれて不味い内容という事は未だに公にされていない情報なのだと察する。田中博士は周囲を気にしながら小声で話を続ける。

「それで我々の研究所に保管されているもう一つのメシアも狙われている可能性があるという情報が入ったのじゃ」

「それでは、あの煙は?」

「我々が先手を打ち、意図的に火災を起こしたのだが…手遅れだった。既に複数の不審者たちが研究所内に侵入していた。恐らく、その不審者たちの狙いもベルリン同様に東京研究所で保管されているオリジナル・メシアじゃろう」

そう言いながら、田中博士は懐から大切そうに鍵を取り出して大谷ミナミに手渡す。

「この鍵は?」

「オリジナルのメシアが保管されている保管庫の鍵じゃ。幾ら、不審者たちが強力な武器を持っていても、あの頑丈な保管庫はそう簡単に破壊されないはずじゃ。お前には申し訳ないが、これからメシアを回収して来て貰う」

「私が! 何故ですか?」

「忘れたのか! お前専用に調整した試作用ゼロスがあるじゃろ!」

「…あー」

田中博士の言葉で思い出した。まだゼロスが完成形を迎える前の最終テスト段階の時に、データを取り終えたプロトタイプがそのまま研究所に保管している。

「今の時点で、あのゼロスを扱える者はお前しか居らんのじゃ。恐らく、不審者たちもゼロスに対抗できる程の武器は持っておらんはずじゃ。頼んだぞ!」

こんな展開が待っているのなら、今日は終始休日であってほしかったものだ。それに、田中博士の話しを聞いた大谷ミナミの脳裏には、ドイツ研究所に居るアニカたちの顔が過った。

――アニカたちは無事なのだろうか?

そんな心配をしていると自然と溜め息を漏らしてしまう。しかし、今は自分がやるべき事をやらなければならない。

大谷ミナミは頭を切り替える様に、頬を軽く叩き気合を入れると、未だに混み合っている人混みを縫って研究所まで急いで向かった。


もちろん、研究所の内部構造は把握している。

地上4階、地下2階建の東京ドーム2つ分の面積を誇る施設だ。問題は不審者が何処に居るのか分からない点だ。迂闊に侵入して鉢合わせになろうものなら、丸腰の大谷ミナミに勝ち目は無い。

今の時点で、唯一の望みである試作用ゼロスは研究所の中心部近くにある試験室に保管されている。

――さて、どうしたものかしら?

大谷ミナミは目を閉じて、自分が仮に不審者の立場だったら、と考えてみる。

侵入する際、まず確保するのは逃走経路だろう。

入口は全部で6か所ある。一般的に出入りする際に使用するのは正面にある正門だ。東と西に各1ヵ所ずつに搬入専用の出入り口。残りは裏口が2か所と、研究施設から移住スペースを直接繋いでいる扉が2か所だ。

侵入する第1条件は人目に付かない入口だろう。ならば、大通りとは反対側の人通りが少ない裏口から侵入するはずだ。

博士が外に避難できたという事は、外に不審者の仲間は居ないと考えて良いのだろう。そして目的であるオリジナル・メシアが保管されている保管庫は正門から近い位置にある。

この条件下から考慮した大谷ミナミは、まず不審者が侵入経路として第1候補から外すであろう正門から侵入する結論に達した。

息を切らせながらやっとの思いで研究所に到着するが、既に多くの警察車両やマスコミ関係の車で正門は完全に囲まれていた。おまけに警察による黄色いテープで規制線が張られ、一般人の立ち入りは禁止されている。

「ここの者です!」

大谷ミナミは規制線の前に立っていた警察官に研究員証明書を提示する。

「研究所の人ですか。ご苦労さまです」

そう言いながら、帽子に手を添えて歩み寄る警察官は大谷ミナミが提示する証明書を確認する。すると、警察官はあからさまな渋い表情を浮かべる。

「残念ながら現在、研究所内は大変危険な状況なので、安全が確認されるまで立入りは全面的に禁止されているのです。申し訳ありませんが、お引き取り願います」

そう言い終えた警察官は再び帽子に手を添え、何故か不自然な苦笑いを浮かべた……

そんな警察官の表情に妙な違和感と共に大谷ミナミの直感が何かに触れ、そっと震えた。

「そうですか…」

証明書を仕舞い、大人しく帰ろうと大谷ミナミはそっと警察官に背を向ける。すると、警察官も再び所定の配置に戻ろうと移動する。

――今だ!

その瞬間を狙っていた大谷ミナミは一目散に入口へと全力疾走した。

「ちょっと、待ちなさい!」

完全に不意を付かれた警察官が後を追って来るが、大谷ミナミの足の方が速く内部構造を知っていた。

しばらく後を追っていた様だが、大谷ミナミは関係者しか知らない非常階段を使い一旦地下まで降りて”警察官を装った”不審者を何とか振り切った。

――あの不自然な苦笑いは何かを知っている犯罪者の目だ。恐らく不審者の仲間。

だとすれば、随分と手の込んだ相手だ。それに自分が侵入した事を中に居り不審者たちにも知らされたと考えるべきだろう。

地下まで降りた大谷ミナミは階段を見上げて誰も追って来ていない事を確認する。

潜入には成功したが、想定外だった現在地を考慮すると、当初の作戦は変更するしかない。

試作用ゼロスがある試験室に行き、再び正門まで戻る手間とリスクを考えると、試作用ゼロスを諦めて、一目散に近くにある本命のオリジナル・メシアが保管されている保管庫を目指した方が無難で確実に思えて仕方が無い。

しかし、そうなると万が一に不審者と接触した場合、抗う術を持ち合わせていない事になる。

――考えるよりも早急にメシアを回収しましょう。

再び1階まで戻り、そっと周囲を見渡すがフロントには誰も居なかった。研究所内はいつも以上に静まり返ってはいたが、目で見て分かる程の破損等は窺えない。

――荒らされた様子が見えない。不審者はまだ来ていないのかしら?

大谷ミナミは周囲を警戒しつつ、オリジナル・メシアが保管されている2階を目指す。

曲がり角を迎える度に不審者が居ないか壁にピッタリと張り付きながら前後左右を確認する。

しかし、不審者どころか、研究員の誰とも出くわさなかった。

――無事に避難したのだろうか?

そんな不安を抱きつつも2階まで昇り切った大谷ミナミは結局最後まで誰とも出くわす事無く、目的地だったオリジナル・メシアが保管されている保管庫に到着した。

――やはり不審者はまだ来ていないようね。

警戒心を抱きつつ、そっと扉を開くと部屋の中には銀色の頑丈そうな保管庫が待ち構えていた。高さは3m程で、奥行きも随分と広く部屋の中にもう一つの部屋はある程の大きな保管庫だ。

――まだ扉を開けられた形跡は無い。何とか間に合ったようね。

大谷ミナミは安堵した様子でホッと息を漏らすと、早速、田中博士から託された鍵を取り出し、重厚な保管庫の中央にある鍵穴にそっと差し込んだ。

鍵をゆっくり回すと、保管庫の扉が重々しくも徐々に開き始める。急いでいる大谷ミナミは途中まで開いた扉の隙を縫うように通り抜け保管庫の中に入る。

「これかしら?」

保管庫の中は薄暗かったが、中にはエレキギターが入りそうな大きさをした黒いハードケースが1つだけ入っていた。それ以外には何もない事から間違いないだろうと素早くハードケースの取手を握る。

メシアという物を映像で見た事はあるが、実際に持つのは今回が初めてだった。だから、持ち上げた時に思いのほか軽い事に大谷ミナミは思わず驚いてしまった。大袈裟では無く、このハードケースだけの重さなのではないか? と錯覚してしまう程の軽さだ。

「本当に、このケースの中にメシアが収納されているのかしら?」

いや、今はそんな事に驚いている場合ではなかった。すぐに、このオリジナル・メシアを田中博士の元に届けなくては……

大谷ミナミがハードケースを持って保管庫から出て来た、その時だった。

―ガチャンッ!

部屋の扉が勢い良く開く音と共に、顔まで覆い隠した全身黒装束姿の不審者たちがなだれ込むように侵入し、気が付くと大谷ミナミは完全に包囲されていた。

もう充分な程の黒装束が部屋に侵入して来たにも関わらず、今も尚、黒装束はぞろぞろと保管室に侵入し続けている。

「施錠解除の方、ご苦労さま。ここで待ち伏せていれば君みたいな正義感の強い者が必ず来ると思っていたよ」

不審者のリーダーと思われる男が前に出る。

男の台詞とこの絶望的な状況から察するに、今までの全てが罠だったのだろう。

冷静に考えてみれば上手く行き過ぎていた。研究所内に誰も居なかった事も、正門の警察官を装った男を簡単に振り切れた事も、全て不審者たちの計画通りに仕組んだ事なのだろう――

そうだとすれば、思っていた以上に手が込んでいる。

これは裏社会のチンピラ程度の組織という可愛らしい規模では無さそうだ。或いは、どこかの国が裏で関与している事も考えられる。

もはや不審者などという名称では済まされない程の大人数の黒装束をした工作員が保管庫を完全に占拠していた。

思い当たる節はある。最近、国連で正式に認定されたニューアメリカ暫定政府と名乗るテロリスト集団だ。

彼らは、強くて美しいアメリカを再び取り戻す事を理念に掲げ、各国で裏工作をしていると噂されていたのだが……大谷ミナミは今の今まで自分とは全くの無関係だと思っていた。

今はそんな事を考えている場合では無い。やはり始めに試作用ゼロスの元に向かうべきだったと後悔している時間も無さそうだ。絶体絶命の大ピンチ。

メシアの入ったハードケースを大切そうに両手で抱える大谷ミナミは周囲を見渡し、逃げ道を探すが――完全に包囲された保管庫の出入り口には逃げ道どころか、蟻1匹も通れる隙が無かった。

ざっと見積もって黒装束の工作員は50人を裕に越えている。そして工作員の全員が一斉に銃を大谷ミナミに向けて構えている。

そんな異様な光景に大谷ミナミは些かの違和感を抱く。素顔が見えないから表情まで読めないがどこか警戒しているように感じる。

――丸腰相手にこれほどの銃を向ける理由なんて……丸腰?

そう思った瞬間、大谷ミナミは自分が持っている物を思い出した。そして黒装束たちが必要以上に大人数で立ち向かっている理由が何となく分かった。

――この人たち、メシアを恐れているの?

しかしメシアを扱える者など、世界中の何処を探してもアマリリス部隊以外に存在しないはずだ。

だから例外無く、一般人である大谷ミナミもメシアを扱える訳が無い。

それはこの世に生を受けて間もなく、全ての人間が受ける事が義務化されているメシア適正検査が証明している。今の時点で世界中の誰もが“適正ナシ”と判断され続けているのだ。

――何を恐れる必要があるのかしか?

詳しい理由は分からないが、この状況下を切り抜ける為には、このメシアという存在を最大限に利用する他にこの危機的状況を打破する事はできないようだ。

――しかし、どうしたものか…今も尚、多くの黒装束がこちらに向かい拳銃やらライフル銃やら様々な種類の銃口が漏れなくこちらを向いている。ちょっとでもメシアの入っているこのハードケースに手を掛けようものなら即射殺、私の全身は蜂の巣にされてしまうだろう。下手をすれば原形を留めない程のグロテスクなオブジェになり兼ねない。

大谷ミナミと黒装束の間でしばしの沈黙が流れるが、すぐに黒装束のリーダーが沈黙を破るように話を始める。

「今、あなたが抱えている物を大人しくこちらに渡してくれたら、危害は加えない」

そんな穏やかな交渉とは裏腹に未だに大谷ミナミを取り囲んでいる黒装束たちは銃を下ろさない。

「まずは銃を下ろして貰えないかしら?」

大谷ミナミの要求に対し、黒装束のリーダーは何度か首を横に振る。

「そのケースをこちらに渡す方が先だ」

やはり要求は通らなかった。しかし、素直に相手の要求に従った所で、本当に命が救われる保障は何処にもない。そんな微妙な判断に迷っている所だった。

――パンッ!

不意に乾いた銃声音が保管庫の外から響くと、黒装束が一斉に銃声が鳴った方を向く。

「大谷さん! 早く逃げてください!」

部屋の外から男の声が聞こえる。自分の名前を呼んだと言う事は知り合いだろう。恐らく、研究所内の人間だ。しかし…

――この状況でどう逃げろというの?

咄嗟の判断というか、唯一の選択肢というか、大谷ミナミは今の自分が置かれている立場の中で精一杯の答えを導き出すように、抱えていたハードケースを素早く床面に置くと、3箇所あるロックを急いで解除して開く。

――これが…

ケースの中には青色をした透明材質で出来た日本刀のような形をしたメシアが収納されていた。

大谷ミナミも何度か研究の際に写真や資料で見た事はあったが、実際に見るのは初めてだ。

想像していたよりも随分と美しく、大谷ミナミは思わず息を呑んだ。

――これがメシア…

大谷ミナミが恐る恐るメシアを手に取ると、その瞬間にメシアが一気に輝き出す。その輝きは写真で見るよりも遥かに妖艶な瑠璃色で、大谷ミナミの心を完全に奪い取っていた。

メシアの意思が乗り移った微熱が大谷ミナミの右手から全身へと流れ込む。

その瞬間、心拍数は一気に上がり、耐え難い過呼吸へと陥る。

心臓が溶けそうな程に熱い。

肺が軋むように痛む。

胃が焼けそうな程にもたれ、全身の細胞が暴走するように掻き立てられる。

その全ての原因がメシアに触れた事による事実に疑う余地は無かったが、このままの状態が続くと不味い。

一瞬でも気を緩めたら、その瞬間に意識が飛んでしまいそうだ。意識が飛んでしまっては逃げる以前の話だ。

――一旦、メシアを手放すべきか?

そんな朦朧とする意識の中で、メシアを強く握っている右手を緩めようとするが…先ほどメシアが放った輝きに気付いた黒装束たちが警戒心を高めて、こちらに銃を向けている。

――いや、メシアを手離せば、或いは身体は正常に戻るかもしれない。しかし、その瞬間に、私は不審者たちに射殺される。

…だったら!

大谷ミナミが戦う決意をすると、それに応えるようにメシアから放たれていた妖艶な瑠璃色が今まで以上に輝きを増す。

その輝きがメシアの声なのか、大谷ミナミの脳に直接何かを語りかけて来る。

…………それが、あなたの名前なの? ……お願い。少しの間で良いから、この状況を打開して……

「メシア・スノードラゴン!」

大谷ミナミの叫び声に答えるように、右手に握られていたメシア・スノードラゴンは一瞬にして粉々に砕け散って原形が無くなってしまった。

「撃てーーーーーー!!!」

尋常ではない光景に恐れを成した黒装束のリーダーが大声で指示を出すと、大谷ミナミを囲んでいた黒装束たちは躊躇う事無く銃を乱射するが――

砕け散ったはずのスノードラゴンは名前の如く、白い竜へと豹変し保管庫一帯を取り囲むよう優雅に舞う。

気が付くと保管庫だった室内は極寒の雪国と化している。

更に大谷ミナミの周囲を取り囲んでいた黒装束は銃を構えた体勢のまま見事に氷漬けとなり、誰ひとり動ける者は存在しなかった。

大谷ミナミに向けて、放たれたはずの無数の銃弾は途中で全て落下していた。

恐らく、スノードラゴンの能力が銃弾の威力を無効化したのだろう。

誰より驚いているのは大谷ミナミ本人だった。目を見開き、オリジナル・メシアの真の威力を目の当たりにして言葉を失う。

――これがオリジナル・メシアの能力!? データ以上に強力じゃない! アマリリス部隊はこんな武器を持っていたというの?

しかし、この能力を知れば、或いは体感してしまえば、短期間でTVを駆逐した伝説も納得できる。

その反面で、何故、自分はメシアを扱えたのか? という疑問が浮かぶ。

――メシアの適性検査は私に“適正ナシ”と判断を下した。

明らかな間違いだ。それは結果報告に不備があったのか、或いは、適性検査自体の精度が低いのだろうか。或いは、意図的に仕組まれた事なのだろうか?

様々な疑問や憶測ばかりが生まれる。しかし今は何を考えるよりも先にメシアを守り切った事実に安堵しよう。同時に、メシア・スノードラゴンの犠牲になった素性も分からない黒装束たちの冥福を祈る事にしよう……

大谷ミナミの意識が徐々に遠退き、その場で派手に崩れ落ちると、メシアの青い輝きは既に治まっていた。



ドイツでのメシア強奪事件直後からヨーロッパ全域で新たなテロに対する厳重警戒態勢が続いていた。

その間、メシアを強奪したルーシーは事件のほとぼりが冷めるまでオランダの田舎町で姿を隠していた。

ところが、事件から3週間後。

今度は日本で同類のメシア強奪事件が発生し、世界の注目はドイツから日本へと切り替わりつつあった。


ようやくヨーロッパ全域の警戒態勢が解けたタイミングで、ルーシーは直属の上司に呼ばれてロンドンのとある商業ビルまで訪れた。

上下白いスポーツジャージ、それが彼女の普段着と決まっている。

だから、スーツ姿のサラリーマンが殆どを占める商業ビルの中では随分と目立つ格好となっていた。

更に、肩まで伸びた癖毛のある赤髪はそのままで、大きめのサングラスに、大きめのヘッドホンを付け、背中には長い槍状のメシアを背負っているものだから、余計に通り過ぎる人目を惹いていた。

そんな周囲の視線を気にする事も無く、ルーシーは颯爽と混み合っているエレベーターに乗り込むと上司の待つ階を目指した。


最上階の44階でエレベーターの扉が開くと、その瞬間から商業ビルとは思えない程に豪華なデザインをした迎賓館のようなフロアがルーシーを出迎えた。

ある意味では英国らしき伝統が引き継がれた造りをしているのだが、やはり1階の商業ビルの質素で無機質な造りとのギャップに毎度の事ながら違和感を抱かずにはいられない。

そんな豪華な廊下に自分の服装の不釣り合いを承知しつつも、今はそんな事よりも一刻も早く上司の元へと向かう事を優先させるルーシーは足早に目的地である一番奥にある部屋へと足を進める。

「相変わらず… この雰囲気は嫌いだ」

ルーシーがこの扉の前に立つのは今日で3回目になるが、いつも自分を見下すように高級感を撒き散らしているようにしか思えて好きになれない。

少し強めにドアをノックすると相手の反応も確かめないままルーシーは躊躇う事無く扉を開く。その途端、室内に充満していた煙が解放されるように溢れ出てきた。

葉巻の甘くも苦い燻製された匂いがルーシーの鼻に刺さる。

そんな充満された煙を掻き分けながら部屋の中へと入ると、テレビの前で険しい表情を浮かべる白髪の老人が茶色いソファーに腰を深く降ろしていた。

手には火の付いた葉巻が遠慮する事無く煙を出し続け、足を小刻みに揺らしながら苛立ちを露わにしていた。

そんな老人の横には爽やかな藍色のスーツを着た若い男がニヒルな顔で立っていた。

『続いて、大谷ミナミに関する情報です…』

テレビの画面にはアナウンサーが表情を殺して、淡々と原稿を読み続ける。

――また、大谷ミナミか…

ルーシーも内心で飽き飽きしてしまう程に、今やテレビを点ければ、どのチャンネルに変えても“大谷ミナミ”に関するニュースで持ち切りとなっていた。

その理由は、3日前に各国営放送が、日本に保管されていたオリジナル・メシアが大谷ミナミの手によって起動した事実を一斉にトップニュースで報道したからだ。

そうなると、当然ながらオリジナル・メシアを起動させた張本人に関心が集まる訳で、メディアは否応無しにメシア使い“大谷ミナミ”に関する情報を掻き集めては、我先にと挙って放送している訳だ。

彼女一人の存在が、ただでさえ不安定な世界の秩序に更なる大きな変化を起こしてしまう可能性が十二分にあり得る。

だから、今まで大谷ミナミに全く無知だった一般人でさえ、大谷ミナミの祖父がTV発生時に現地へと赴き、唯一こちら側の世界に帰還した“大谷博士”だという事や、母親も優秀な研究者で、暗黒壁の調査中に行方不明になった“クリストファー・ブラウン・オオタニ”という事も、既に皆の中では常識として浸透していた。

それ以外にも、強力な兵器であるメシアが誤作動しないようにメシアは常に特殊な場所に保管されていて、現在は大谷ミナミ本人の独断では扱えない状況になっている事や、彼女の生誕から今までの経歴、根も葉もないプライベートな噂などのゴシップ関連も公に晒されていた。

そんな特集が延々と続いているものだから、この数日間で熱烈なファンが続出する事態にまで発展し、彼女の虚像が独り歩きし、過熱した世間を冷ます薬液は今のところ何処にも見当たらない状態だった。

同時期にドイツに保管されていたメシアが盗まれた情報も大々的に報道されたのだが、現在の世間の関心は完全に“大谷ミナミ”に奪われ、いつの間にかドイツでのメシア強奪事件は何処のニュース番組でも取り扱わなくなっていた。

そんな状況を複雑な心境を抱いているのが、今も尚、険しい表情でテレビを観続けているニューアメリカの出資者であり、現・暫定アメリカ政府のビル・マーシャル国防長官だった。

ビルは大きな溜め息を付き、何度か首を横に振る。そして小刻みに震える手で、深い皺だらけの頬を摩る。

「ご覧の通りだ。お前が強奪したメシアに関して世間は既に忘れ去っている事態は喜ばしい状況だ。しかし日本のメシア強奪作戦は失敗、お前と共にメシアを扱う予定だった者も、犠牲になってしまったようだ」

そう言いながら、ビルは持っていたリモコンでテレビを消すと、今まで微かな音量で流れていたワーグナーのタンホイザーがはっきりと聞き取れるようになる。

――どうして、危険な思想を持つ男共はワーグナーをこよなく愛するのだろうか……

そんな事を思ったルーシーは歴史上に残る独裁者たちの顔を順に思い浮かべる。そして最後に思い浮かべた顔は自分自身だった。私は男じゃないのに…

「残念だが、今後の任務はお前一人で遂行して貰う事になる」

老いた声で淡々と話すビルは今年で83歳を迎え、見た目でも分かるほどに随分と衰退していた。そんな自らの老体に鞭を打って、今も現職で働いている理由はただ一つ。母国・アメリカ復活の悲願を叶える為だった。

老人の言葉にルーシーはひとつの不安を抱く。

「任務に関しては問題無いのですが、日本のメシア使いをこのまま野放しにしておくつもりですか?」

「心配無い。幸いにも大谷ミナミは日本人だ。日本は昔からアメリカの犬だ。日米同盟を振りかざして日本政府にも協力させる」

その言葉を聞いたルーシーは表情こそ変えないものの、内心で存分に残念がる――メシア同士で戦える良い機会だと思っていたのに…

「随分と不満そうな顔をしますね」

表情を殺していたはずのルーシーの内心をニヒルな顔を崩さない男は全て見透かしていた。

ルーシー以上に表情を崩さないニヒルな男は本当に心が読めなかった。そんな男に対してルーシーは不気味さを感じ、随分と毛嫌いしていた。

だから、男の言葉に対してもルーシーは当然のように無視する。

「まぁ、良いでしょう。それでは今後の計画について説明します」

肩を竦めた男はそれ以上は何も言わずに、まずは持っていた書類をルーシーに手渡す。

何も言わずに奪い取るように書類を持ったルーシーは眉を顰める。

書類の表紙には“ニューアメリカ領土拡大作戦”と銘打ち、その上からトップシークレットと赤印が押されていた。あからさまな作戦名にルーシーは思わず溜め息を漏らし、興味無さ気に1枚ページを開く。

――何処だ?

ページを開くと1枚目には馴染みの無い地域の地図が記されていた。

眉を顰めるルーシーを気にする事無く、ニヒルな男が説明を始める。

「近いうちにアメリカはイギリスと新たな同盟協定を結びます。イギリスの目的はEU領土を拡大する事。そしてアメリカは拡大したEU領土の数%を頂き、その土地に新たなアメリカ圏の州を作る。至ってシンプルな利害の一致という訳です」

「政治的なものに興味は無い。それで、私は何をすれば良い?」

「判り易い人で助かります。この地図の場所に覚えは?」

「ない」

即答するルーシーに対し、男は再び肩を竦める。

「ロシアとの国境近くにあるベラルーシのオルシャという街です」

「オルシャ?」

名前を聞いてもピンと来ない。やはり、ルーシーにとって全く無関係な街だった。

「ロシアの首都・モスクワから直線距離にして800㎞程の場所にあります…と説明すれば今回の作戦を理解して頂けますか?」

男の放つ感情の無い乾いた言葉に、ルーシーの口元は僅かに緩む――またメシアで暴れられる…

初めてメシアを手にした瞬間からルーシーは殺戮の衝動に駆られる。或いは、あの時に頭の中で流れていた“破滅のメロディー”を再び聴きたいのかもしれない。

どちらにしろ、メシアを発動した際に得られる、あの爽快感は安いドラッグよりもハイに成れる。依存性がとても高い、かなり危険な代物だ。それを承知の上で尚も、ルーシーはメシアを扱える機会を欲していた。

しかし同時に、先ほどの話しに対して引っ掛かる部分がある。

「モスクワの奪還は理解した。しかし、EU圏は良いのか? 強引過ぎる手段は世論を敵に回すのではないか?」

政治的なものに興味が無いと言っておきながら、どうしても無視できない規模の話しだ。

「はい、その辺の政治的な話はこちらにお任せ下さい。ただ、アラブ諸国連合も何やら不穏な動きをしているという情報も入っているので、その辺はお気を付け下さい」

結局、男は最後までニヒルな表情を崩さず、詳しい内容は話さなかった。

その代わりに今まで黙っていたビルがゆっくりと立ち上がる。

「世界の秩序を保つ為にも、母国・アメリカが再び強烈なリーダー湿布を取らなければならない。その礎になるのがお前だ、ルーシー」

「了解」

ビルの思い感情の籠った台詞に、ルーシーはやる気のない敬礼を残して部屋を後にした。




それから1週間が経ち、ルーシーが住むリバプールの自宅に召集令状が届いた。

何の変哲のない封筒には1枚の手紙と1冊のパスポートが入っていた。

手紙を開くと、事務的な文字で“ミンスクの駅に集合”とだけ書かれていた。

――ミンスク?

あの男からオルシャという街の名を聞いていただけに、ルーシーはてっきりオルシャに直接集合するものとばかり思い込んでいた。

ただ流石のルーシーでもミンスクという名前は知っていた。ベラルーシの首都だ。

そうなると移動手段は空路に限られる。

手紙と一緒に入っていたパスポートの内容を確認すると自分の写真と偽名が記されていた。

――これを使えという事か…

ルーシーは白いスポーツジャージに着替え、槍型のメシア・ビッグアーサーを手にする。

いつも通り必要最低限の食料と日常品は現地で支給されるであろうと他の荷物は持たなかった。

しかし――恐らく、コイツは飛行機に乗り込む際に搭乗検査で引っ掛かるだろう。

そう考えたルーシーはビッグアーサーをすっぽりと覆い隠せる大きな白い布を引っ張り出して少々乱暴にグルグル巻きにした。


ロンドン・ヒースロー空港では多くの便が中露戦争の影響で休航が続き、乗客の姿は疎らで空港ロビーは閑散としていた。

その為、普段は公共の場に出ると浮いてしまうルーシーの白いジャージも、今回は通り過ぎる人々の注目をあまり集めなかった。

それが逆に落ち着かないルーシーだったが、大きめなヘッドホンを耳に掛けると、お気に入りのコールドプレイを大音量で流す。


「パスポート!」

偉そうな物言いで不機嫌そうな表情を浮かべる小太りの入国審査官が手を差し出す。

「どうぞ」

ルーシーは手紙と同封されていた偽装パスポートを手渡すと、無精髭を擦りながらパスポートを開く。すると、パスポートの写真と実際のルーシーの顔を見比べる。

「目的は?」

「旅行よ」

「いつまで滞在するつもりだ?」

「1週間よ」

そんな他愛も無い質問を返すと男は溜め息交じりにパスポートの空白を開き、乱暴な手付きでスタンプを押し当てルーシー目掛けて投げ捨てるように返す。

どうやら、偽装はバレなかったようだ。

カウンターに預けていたメシア・ビッグアーサーを受け取ったルーシーはミンスク第2国際空港を後にした。


ベラルーシの空はどんよりとした雨雲に覆われ、今にも降り出しそうな不機嫌な顔でルーシーを出迎える。

――あまり歓迎されていないようね。

街に出てもメイン通りに人々の姿は少なく、古い教会や大聖堂が雨雲によって灰色に染められ、まるでシャガールが描いた絵画みたいだった。漠然とした不安を注ぐ風景を演出しているような…それはどうでも良い。

ルーシーは令状に書かれた駅を探す事にしたのだが、令状文に具体的な駅名は記されていなかった。

そうなると、わざわざ駅名を書くまでも無い程に有名な駅が現地にあるのだろうと勝手に判断したルーシーは、現地まで来れば分かるものだと事前に調べていなかった。

――駅はどこだ?

周辺に駅らしき建物は見当たらず、街中にある表示板を見渡しても駅らしき案内は書かれていない。

――参ったわね…

「どうした、姉ちゃん? 迷子か?」

「そうなの。この辺に駅があるらしいのだけれど、どこか分かるかしら?」

親切な男も居るものだ。とルーシーは声のする方に振り返ると、そこには図体がやたらとデカイ白人男性が立っていた。

「奇遇だな。俺もその駅に向かう所だ。付いて来な」

そう言うと男はルーシーに背を向けて歩き始める。内心で良かったと思いつつも、ルーシーは男の服装に違和感を抱く。それは少し肌寒くなった季節だというのに、男は黒いタンクトップ一枚という点だ。それに充分過ぎる程に筋肉が付いた二の腕を見せつける様に歩いている。どう見積もっても、その辺を歩いているビジネスマンという訳では無さそうだ…

そんな事を思いつつ、ルーシーは黙って男の後を付いて行く。

「ここだ」

そう言って、今まで何の会話も無く歩いていた男が急に立ち止まる。

――ここ?

ルーシーは困惑しながら立ち止まり、周囲を見渡す。しかし駅どころか、線路の1本も通っていない田舎町の風景が広がっていた。

「こっちだ」

男は田舎町の象徴的な建物となっている立派な大聖堂の横にある古びた小屋の中へと入って行く。

ルーシーも慌てて後追って小屋に入ると、中には束ねられた藁が積まれているだけの、何ら変哲の無い小屋だった。

明らかに怪しい。様子を見ていたルーシーの我慢が限界に達した。

「ちょっと待って。この中に駅があるとでも言うの?」

苛立ちを隠さないルーシーの問い掛けに、男は立ち止まり、振り返る事無く逆に問う。

「あんたが背負っている棒、メシアだろ?」

そんな男の言葉に、ルーシーは情景反射でメシア・ビッグアーサーの柄に手を掛ける。

「どうして、それを知っているのかしら?」

警戒しながら睨むルーシーに対して、男は笑みを零す。

「簡単な話さ。この街に駅なんて存在しない」

「駅が無い?」

そんなはずは無い。収集令状にちゃんと書かれていた。それに自分がメシアを持っている事実を知る者は現時点で殆ど居ないはずだ……この男は敵か?

ルーシーは更に警戒心を高めて、男が怪しい行動を取った瞬間にメシア・ビッグアーサーで始末しようと柄の部分を強く握り締める。

「紹介が遅れた。俺の名はブライアンだ。今回の作戦であんたと同じ隠密部隊に配属された」

そう言いながら、ブライアンは満面の笑みで手を差し出す。

「あぁ…そういう事ね」

冷静に考えれば分かる事だ。最強の武器であるメシアの存在を知っていて挑んで来る愚か者がこの世に居るはずも無いだろう……全ての状況を把握したルーシーは驚きから安堵の表情に変えながらブライアンの握手に応じた。

「それで、ここが令状に書かれていた駅なの?」

ルーシーの疑問にブライアンは何も答えなかった。その代わりに慣れた様子で束ねられている一部の藁を横に移動すると、小屋の床面から鉄製の扉が姿を現した。

「扉!?」

「そうだ。ここから地下まで降りられる構造になっている」

ブライアンは得意げな表情を浮かべると見るからに重そうな扉を片手で軽々と開ける。

「暗いから注意しろ」

ブラインの言う通り、扉の先には延々と下へと続く階段が現れたのだが、その先は照明が無い為に暗くて何も見えなかった。

「壁に手を添えてゆっくりと降りると良い」

至極当然のアドバイスを得意げな表情で言い残したブライアンは慣れた足取りで先に階段を降りて行く。

小屋にひとり取り残されたルーシーもブライアンのアドバイスに従い、壁に手を添えてゆっくりと階段を降りる事にした。

しばらく暗闇の中を降りていくと次第に一つの照明灯が視界の遥か先に入って来た。やがて照明灯の数が増えると、ここが地下鉄である事を知らせるように古びた線路を照らし出し、そんな照明灯の下でブライアンが待っていた。

「無事に降りられた様だな。もうすぐ目的地だ」

そう言うとルーシーを待っていたブライアンは再び歩き始める。

今度は壁にしっかりと蛍光灯が等間隔で設置されていて、視界に不自由する事はなかった。しかし途中から地面が大きめの砂利道に変わると、歩き辛い状態が続く。

ザク、ザク、ザクと砂利を踏む足音が耳に響き続ける中、何の前触れも無く舗装されたアスファルトに切り替わると高い位置へと地面が盛り上がる場所に到着する。どうやら、プラットホームのようだ。

「到着だ」

そう言ってブライアンが歩みを止めると、そこにはブライアンと同じような強靭な身体に鍛え上げられた男たちが雑談しながら待っていた。

「思ったよりも遅かったな、ブライアン」

金髪の童顔をした男がブライアンに声を掛ける。

「ケニー! 久しぶりだな。半年振りか?」

「そうだな。アフリカ戦線以来だ。それよりも、そこの姉ちゃんが噂の救世主様か?」

「何、あのメシア使いだって!?」

ケニーと呼ばれる男の言葉を切欠に、周囲で雑談をしていた他の男たちが興味深そうにルーシーを取り囲む。

――どういう事だ?

「待て、待て、レディに失礼だ。彼女が戸惑っているだろ」

群がる男たちを制止するようにブライアンが間に割って入る。

「驚かせて悪いな。みんな姉ちゃんのファンなんだ」

「ファン?」

「あぁ、ベルリンでの活躍は聞いたぜ。あんたのメシアがあれば、アメリカ再建の悲願も必ず叶うと確信している!」

ブライアンが嬉しそうに話す言葉に、周囲に群がる男たちも同調するように誇らしげな表情を浮べて頷く。

「コイツ等は今回の作戦の為に集められた特別部隊の通称『夜明け前の闇』だ。皆、姉ちゃんと一緒に戦える事を誇りに思っている」

「そうだぜ、姉ちゃん!」

「頼りにしているぜ!」

「俺たちの勝利の女神だな」

各々が好き好きにルーシーに対する期待を口にするが、誰ひとりとして“ルーシー”という名を口にする者は居なかった。

そんな疑問を抱いていると線路から警笛と共に車両が進入して来る音が聞こえてきた。

「時間通りだな。この車両で目的地のオルシャまで向かう。地上で怪しい行動をしていると、衛星カメラで察知されるからな。弾薬や武器の運送も既にこの地下鉄で済ませた」

得意げにブライアンが話している間に、1車両編成の列車がルーシーの真横で停止すると、勢い良く扉が開く。

「さぁ、早く乗ってくれ。皆が姉ちゃんを待っている!」

そう言うと、ブライアンは笑いながら急かすようにルーシーの背中を押す。

列車に乗り込んだはずなのだが、車内には窓も椅子も無かった。ただの箱……

「殺風景だが、少しの間だけ我慢してくれ」

男たちは驚く素振りも見せず、当然のように列車の隅にそのまま座り込む。

そんな男たちに従う形でルーシーも隅に寄ると肩に背負っていたメシア・ビッグアーサーを降ろし、片膝を立てた状態で座る。

窓が無い為、実感は沸かないが扉が閉じてすぐに列車が動き出す振動を感じた。すると、しばらくしないうちに車内放送が流れる。

『母国の復活を愛する同志たちよ、今回の作戦への参加を感謝する。本作戦はロシアの首都・モスクワを奪還する事にある。しかし残念ながら、我々の動きを察したロシア軍が昨日にベラルーシとロシアとの国境付近に大量の軍を配備した。それに従い、我らの作戦も多少の変更を行う』

放送の声に聞き覚えがある。恐らく、あのニヒルな男だ。名前は未だに知らないし、知りたくも無い。

車内放送を聞いた列車に乗っている男たちに不穏な空気が流れる。

『本来予定していたオルシャにある拠点をダミーとして、本拠点を南側にあるホメリに変更する。現在この列車に搭乗している“救世主”以外のメンバーはオルシャに降り、従来通りの作戦を決行。救世主はそのまま列車に残り、目的地のホメリまで移動。その後の詳しい作戦内容は現地で指示を出す。以上』

放送が終わると車内は重い沈黙に包まれた……オルシャがダミー。しかし作戦は変わらない。それはつまり、自分たちは囮になる事を指している。それは生命の保障が全く無い事を意味し、かなり危険な任務になる事だと各々で覚悟しているのだろう。

沈黙が破られる事無く2時間ほどが経過しただろうか。列車が停車する振動を感じ取った直後に扉が勢い良く開く。どうやら、1つ目の目的地であるオルシャに到着したようだ。

皆は黙々と立ち上がり重い足取りで列車から降りて行く。

その光景は始めに会った時のような陽気さは見る影も無かった。最後にブライアンが列車に出る時、悲しそうな眼差しでルーシーを見つめる。

「俺が生まれた時から既にアメリカ本土は暗黒壁の中だった。本当の故郷がどんな場所なのか、写真や映像でしか分からない。だから俺自身はアメリカ本土なんかに大した愛着なんて無いんだ。だが、親世代から受けた愛国教育だけで、危険な任務にこの生命を賭けている。だから、悔いも迷いも無い……と言えば嘘になる。俺自身もっとやりたい事もあったし、他の奴らだって、内心ではアメリカ本土なんてどうでも良いと思っている者も居る。こんな時代に生まれた事を恨んでいるんだよ……本音を言えばさ、俺たちはアメリカの為というよりも、現在の混沌とした世界を何とかしたいんだ。その為には、圧倒的な武力で強引にでも変革を起こさなければならないんだと、俺個人は思っている。そして、そんな圧倒的な武力が姉ちゃんの扱うメシアだと思っている」

そう言い終えると、ブライアンは会った時に見せた笑顔を無理矢理に浮べて親指を立てる。

「こんな狂った世界、姉ちゃんのメシアでぶっ壊してくれよ。そして次の世代に、俺たちのような窮屈な思いをしなくて済むような平和な世界にしてくれよな!」

ブライアンが話し終えると同時に列車の扉が無情に閉じた。

――この狂った世界をメシアで壊す……仮にメシア・ビッグアーサーを扱う際に流れる、あの“破滅のメロディー”の裏にそんなテーマが隠されていたのだとすれば、妙に納得できる。故に、ルーシーは自分の都合の良いように解釈する。

ブライアンの願いもアメリカ人全員の願いも全てメシアに込めよう。そして狂った世界を破壊しよう。あの破滅のメロディーをBGMにして………ブライアンが最後に見せた笑顔を忘れないようにルーシーは心に刻んだ。


それから何時間が過ぎただろうか。ヘッドホンで大音量にしてコールドプレイを聴いていたが、いつの間にか転寝をしていた為に時間経過が麻痺している間に列車の扉が開いた。

何の確認も出来ないから憶測でしかないが、恐らく、目的地のホメリに到着したはずだ。

列車から降りるとミンスクと同じような構造の地下がルーシーを出迎えた。灯りも少なく、全体的に薄暗い。辛うじて壁際に青い長ベンチが2台設置されてあるのが確認できた。

ルーシーが降りた事を確認した様に列車の扉が閉じると誰も乗っていない列車は再び出発する。

――果たして、あの列車は何処に向かっているのだろうか……それよりもこの先、私は何をすればいいのかしら?

誰から何の指示も受けないままだったが、この場に居続けても埒が明かない。

ルーシーはミンスクと似たような構造から察するにどこかに階段があるはずと思い、プラットホームを降りて砂利道を歩き始める。

すると予想通り、相変わらず暗黒に包まれている中であっさりと階段を見つけ出した。

――もう慣れたものね。

ルーシーは壁に手を添えて階段をゆっくりと昇り続けると、見るからに重そうな扉に突き当たった。

そんな扉をルーシーの細い両手で精一杯の力で何とか開けると、やはり地上に繋がっていた。

空を見上げると既に太陽の姿は無く、代わりにきれいな満月が昇っていた。

辺りを見渡すと、森林と山々に囲まれた、何とも長閑な場所だった。

近くに作戦本部らしき建物もテントも確認できない。

それどころか、一般的な民家や施設などの建物が全く見当たらず、田舎というより壮大な自然公園に迷い込んだみたいだ。

強風が周囲の木々を派手に揺らして、まるで森全体が呑気に踊っている様に映る。

――んっ?

壮大な自然に圧倒されて気付くのが遅れてしまったが、階段の出入口付近に迷彩柄の大きなリュックサックが置かれていた。

明らかに誰かが準備した物だとルーシーはすぐに分かった。

しかし自分の味方が準備した物とは限らない。

ルーシーは警戒しつつリュックサックを覗き込むと、中には大きめな通信機といつも任務の際に着用している黒装束の衣装、そしてペットボトルに入った水と数個の缶詰が入っていた。軽く3日は持ちそうな食糧だ。

不思議そうに通信機を手に取ると、そのタイミングを計っていたかのように通信が入る。

『急な作戦変更、申し訳ありませんでしたね』

その声は紛れも無くニヒルな男の声だ。声を聞いた瞬間に、ルーシーの背筋に虫唾が走る。

「それは良い。それよりも私はこれからどうすればいい?」

『はい。明日から作戦通りオルジャからモスクワに侵攻作戦を開始します。そこにロシア軍も集中すると思うので、良きタイミングを図って、こちらから指示を出します。それまでは地下で待機していてください』

「指示の後は?」

『もちろん、モスクワに向かってください。恐らく、今の戦況ではルーシーさんの単独行動になってしまいますが、あなたもそちらの方が好都合でしょ?』

ニヒルな男はまるでルーシーを試すような含み笑いを溢す。その瞬間、ルーシーは無意識に通信を切った。

「あっ… まぁいいか」

必要最低限の情報は得た。ルーシーは再通信する事なくリュックサックを担いで、再び暗闇に包まれた階段を伝って地下鉄へと降りる。

暗闇に慣れた目でプラットホームまで到着するとルーシーの背後から何やら不穏な視線を感じ取った。

――何だ?

青い長ベンチの上に、先ほどまで居なかったはずの黒猫がこちらを見ている。まるで自分の部屋に不法侵入してきた不審者と出くわした時の様な、何とも言えないキョトンとした間抜けな顔をしている。

“いやいや、不法侵入はそっちだから”とルーシーは黒猫に近づくが、それでも黒猫は表情を変えないまま、ずっとこちらを見続けて、逃げる素振りを見せなかった。

「一体、何処から入って来たの?」

ルーシーは辺りを見渡すが、あまりに照明が不足していて、隅の方までは暗くてよく見えなかった。もしかすると、どこかに猫が通り抜けられるような隙間があるのかもしれないが、それ以前にここは随分と深い地下だ。猫がわざわざ土を掘って侵入するメリットが分からない…

――まぁ、良いか。

ニャオの一言も言わない寡黙な黒猫と共に通信が入るまで待機する事にしたルーシーは、再びヘッドホンを耳に掛けると大音量でコールドプレイを聴き始める。


翌日、以前にニヒルな男が言っていた通り、ロンドンにあるアメリカ大使館でジョージ・ジャクソン大統領がイギリスのロース首相と共に共同会見を行い、新たな同盟を提携する事で合意した事を発表する。

その提携内容であるイギリスのEU統一とアメリカの新たな領土獲得に対し、各国からはすぐさま様々な反応が返って来た。

微妙なニュアンスの違いこそ有るにしろ、大きく分けてフランス、イタリア、ポルトガルなど主なEU加盟国が賛同する意見と、ドイツとロシアが激しく抗議する意見の2つに分かれた。

更にロシア政府は停戦状態にあった中国との完全終結を宣言する。

同時に、中国に対する政策を一転させ、新たな協力関係を結ぶ事を発表した。

これで世界情勢は、アメリカ・EU同盟国 対 ドイツ・ロシア・中国の3カ国連合軍の2極化に色分けされた。

そんな世界状況下において、未だにグレーの国が存在した。それがメシアを手にした“大谷ミナミ”を要する日本だ。

大規模な戦争が開戦されるのは既に時間の問題となった状況下で、お互いの勢力は日本政府に対し軍事協力を求める。

しかし、世界は日本軍の協力というよりも、メシアを扱える“大谷ミナミ”の存在が気掛かりでならなかった。或いは、重要な戦局に介入されない事を願っている。

メシアを扱える大谷ミナミは一人居るだけで戦局は大きく変化してしまう可能性がある。

そんな不確定要素がある限り、各国の参謀たちは何の計算も出来なくなってしまう。味方に付くのか、或いは傍観者を気取っていて欲しい。それが世界の本音だった。

メディアの情報では、大谷ミナミが扱うメシアは一個大隊を一瞬で滅ぼす程の性能を持っていると伝えられた。この前、発表されたばかりの最新兵器・ゼロスの威力が霞む程の魅力と脅威に両勢力は喉から手が出るほど欲しい存在となっていた。


しかし、そんな大谷ミナミの存在は、恐らく世界中の誰よりもルーシーが気にしていた。

現時点で、この世界でメシアを扱えるのは大谷ミナミと自分の2人だけだ。

――大谷ミナミ… メディアの情報によれば、氷を自在に扱うメシアだという。その名前は確か、メシア・スノードラゴンと言ったか……

自分が扱うメシア・ビッグアーサーと交戦になった場合、どう対処するべきなのか?

それ以前に、大谷ミナミ個人は一体どんな人物なのだろうか?

自分と同じようにメシアを手にした瞬間の、あの特有な優越感を抱き、破滅のメロディーが流れただろうか?

そんな大谷ミナミも、自分の中に宿した死神に気付いただろうか………

何にしろ、大谷ミナミも世界も、まだ私がメシアを扱える事は知らないはずだ。それだけで私の方が有利な立場にある。

大谷ミナミに関する疑問や今後の展開などを思い描きながらそっと目を閉じる。

仰向けで寝ているルーシーの腹に自分の居場所を見つけた黒猫が我が物顔で乗っかると、そのまま背中を丸めて眠りに付く。随分と人懐っこい猫だ。それでも黒猫は、未だにニャオの一言も発しなかった。


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