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Angles-アングルスー  作者: 朝紀革命
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怪しい学園の影

――メシア女学園・第2闘技場


春季メシア競技評価大会が終われば、学園内では現在クラスBに在籍している生徒たちによる“クラスA昇格試験”が始まる。

メシアの扱いだけでなく、学力と品格の資質を問われる試験は3週間にも及び、現在クラスBに在籍している55名の中で最終試験を受けられる生徒は僅か3名だった。

「それでは最終試験であるメシア実技試験を行います」

クラスAを担任しているレーナ教諭が名簿を見ながら一人ずつ名前を読み上げる。

「クラーラB、アヌスB、ミサトB。以下三名はこれよりローラAと戦ってもらいます」

「はいはい、そういう事で3人同時に掛かってきてね。遠慮とかいいからね」

面倒そうな口調で試験官を務めるのは赤髪を一つに束ねた灰桜色の制服を着たローラAだった。右腕には“Ⅷ”と刺繍された腕章を付けている。

緊張した面持ちの3人は各々のメシアを構えて躊躇しながらローラAを囲むような立ち位置を取る。

そんな初々しい3人に対してローラAは余裕の笑みを絶やさず、既に手にしている短剣型の赤いメシアを構える。

すると、近くで見ていた白髪の白い肌をしたソフィアAが無表情のまま「ここで予めアドバイス。なるべく同時に攻撃すると良い。でも、ただ同時に攻撃するだけじゃダメ。相手が隙を見せた瞬間を見逃さないように、タイミング良く、勢い良く…」と3名の受験者にアドバイスを送る。

「おいおい、何勝手にアドバイス送ってんだよ。一応、これは試験なんだからな」

「大丈夫。これくらいのアドバイスでローラAに傷付ける事が出来れば、既に合格ラインまで達している」

「まぁ、そうだろうね」

不敵な笑みを浮かべるローラAに対し、3人の受験者はソフィアAのアドバイス通り同時に攻撃を仕掛けた――


「これで今回のクラスA昇格試験は終了ですが、残念ながら合格者はナシですね」

レーナ教諭の厳しい判断に誰も異議を唱える者は居なかった。

受験者3名はローラAの一撃を食らった際に負った傷の手当ての為に医療室まで運ばれていた。

今回のクラスA昇格試験の批評と反省を踏まえた会議が行われている部屋には、ルーチェルA、モーラAを除く7人のクラスAと筆記試験と面接を担当した教諭たちが出席していた。

「それでは受験者と直接相手をしたローラAの感想を聞こうか」

会議を仕切るレーナ教諭から指名を受けたローラAが面倒そうな表情で席を立ち上がる。

「まぁ、例年のクラスBに比べると確かに強かったけど、まだまだだね。あんまり言いたくないが、そもそも論として生まれ持ったメシアの資質が足りないんじゃね?」

「確かに、現在の研究ではメシアの能力に関する力量差は天性的な部分が多く占めているという結論に達しています。しかし、そんな天性の部分を最大限に生かす為には、やはり努力が必要です。今回、不合格だった3人に今後クラスAに成り得る程の努力があるのか、見極めていかなければならないでしょう」

レーナ教諭の総括で今回の会議は終了した。


終始無言を貫いていたユーフェミアAは冴えない表情で溜め息を付く。

『君は学園に残り、今以上に強くならなければならない。そしてクラスQよりもクラスAの方が優秀である事を証明し、学園の秩序を守らなければならないんだよ』

ルーチェルAが旅立つ際に残した言葉を思い出すとレーナ教諭の言葉が支えになる。

しかしミーアAと戦ったサラサQの実力を思い出すと心が折れてしまう。

(どれほどの鍛錬をしたところで、メシアの実力が天性のものだとすれば無駄な努力なのじゃないのかしら…)

そんな希望と絶望のラリーを繰り返しながらも、僅かな可能性に縋るようにユーフェミアAは厳しい訓練に励んでいた。

「サクラAにアリシアA、悪いけど今日も訓練に付き合ってくれないかしら?」

顔色を悪くしたユーフェミアAの誘いに、微笑みながらも困った表情を浮かべるアリシアAとあからさまに面倒そうな表情のサクラAは揃って首を傾ける。

「あらあら… 私は構いませんが、ユーフェミアAの方こそ大丈夫ですか?」

「そうだぞ。完全にオーバーワークだ」

「私なら大丈夫よ。それよりも1日でも早くクラスQに追いつかなければならないの」

ユーフェミアAを気遣うアリシアAとサクラAだったが、芯の強い性格を持ったユーフェミアAは全く譲らなかった。

「…分かりましたわ」

根負けしたアリシアAが承諾すると、サクラAもそれ以上の言葉を呑み込み、クラスA昇格試験の会場として使用されていた競技場へと向かった。

そんなユーフェミアAたちの姿を、まだサラサQとの試合で受けた傷が癒えないモーラAが寂しさと悔しさを入り混ぜた複雑な表情で眺めていた。

(自分がクラスQなんかに負けたせいで、ユーフェミアAを追い込んでしまいましたわ…)

そんなモーラAの左腕は未だに骨が付いておらずガッチリと白いギブスで固められていた。辛うじて回復している足も未だに足取りは心許なく、歩くには2本の松葉杖が必要な状態だった。

「大丈夫? 元気無いよ」

控えめな口調で心配をするグランAがそっとモーラAの右脇に入り込み身体を支える。

「だ、大丈夫に決まっていますわ! このメシア女学園・生徒会書記にして、クラスAナンバー3の私がこんなかすり傷で落ち込む訳がないですわ! 痛つつ…」

左腕を回して元気に振る舞って見せるがすぐに激痛が走る。

「無理しなくて良いよ。今はしっかりと治す事だけ考えなよ」

「…分かってますわ」

先ほどの元気が完全に消え去ったモーラAは溜め息を吐きながら、グランAの肩を借りながら、ゆっくりとした足取りで自室へと戻って行った。


そんな何気ない日常に終焉を告げる――


1通の手紙がユーフェミアAの部屋に届けられた。

毎日の激しい訓練で、ユーフェミアAは自室に戻るとすぐに眠っていた。その為、手紙の存在に気付いたのは、ユーフェミアAが目覚めた早朝の事となる。

白い封筒に差出人の名前は記されていない。

(誰かしら?)

不審感を抱きつつ封筒を開けると1枚の手紙が入っていた。

手紙を開くと母親であるメアリー学園長の直筆だった。

(母上から?)

用事があるなら、直接会って話せばいいのに、と思いつつ手紙を読む。

「これは!?」

母親からの手紙を読み終えた後、ユーフェミアAは急いでクラスA全員に召集命令を出した。



「着きました」

街も人も全てを等しく赤く染めながら夕陽が沈みかける黄昏時に、長時間の運転から疲れ気味の溜め息を漏らすミユキHの声と共に車が駐車場に到着した。

そんな駐車場の対面に4階建ての茶色いタイルが散りばめられたビルが立っていた。

建て坪面積が小さいのか随分と細長い建物の前には小さな木製の看板が設置されている。

“アマリリス部隊・北中米支部”

「運転ご苦労だったね。それにしても、想像していたよりも随分とアットホームな建物なんだね」

「はい、この辺では比較的大きな建物になりますが、学園内に比べると、どうしても劣りますよね。それにアマリリス部隊とは名ばかりで、この北中米支部は事務的な部署しかないので、皆さんのようなメシア使いの方々も在中していません」

長時間を労うルーチェルAは想像していたよりも随分と小さな目的地に少し驚く。

「なるほど… それよりも急いだ方が良さそうだ。午後4時半を回った。そろそろ業務が終了する時間だ」

そう言いながら後部座席に居たミーアAが車を降りると小走りで建物の正面玄関に向かい自動ドアを開けた。

「しばらくお待ちください。ここには私の知人が勤務していますので、話を付けてきます」

そう言うと、長時間運転を終わらせたばかりのミユキHも車を降りて、ミーアAの後を追うように小走りで建物の中へと消えて行った。

それを助手席で見ていたルーチェルAは、TVに感染した牛の一撃で未だに痛むみぞおち部分を無意識のうちに摩っていた。

それを見たサラサQの表情が影を落とす。

「まだ痛むのか?」

「なんだい、心配してくれるのかい?」

「まぁな。お前が“クラスA”だとか“ナンバー2”だとか、かなり自信を持って言っていたから、どんなものか実力を見てみたかった… しかし、想像以上に弱かった。完全にお前の実力を見誤った。もっと早く私が戦っていれば、お前は無駄な攻撃を喰らわずに済んだ…」

「ちょっと待ち、それは僕に謝罪しているのかい? それとも侮辱しているのかい?」

笑みを溢すルーチェルAの指摘にサラサQは目を丸くする。

「モーラAと戦う君を見て、僕でも到底敵わないと思ったし、正直、悔しいと思ったよ。これから厳しい鍛錬をして君たちクラスQに対抗できる程の実力を身に付けなければならないと焦った。でもね、今回のTV感染の事実を知り、そしてただの牛さんに感染しただけであれほどまでに凶暴になる事を知った時、正直、怖じ気づいたよ。笑えるだろ?」

「…いや」

出会った頃の自信は完全に無くなり、いつもよりトーンを低くして話すルーチェルA。随分と自虐的な態度に、サラサQは返す言葉を探すが何も見つからなかった。

「同時に、内心で君が僕たちの味方である事に安堵してしまった。そんな事を思ってしまう時点で僕はまだまだ弱いんだろうね」

強がって微笑を作るルーチェルAだったが、その笑みは何処までも痛々しく映る。

車内に冷たい沈黙が流れる中、建物から出てきたミユキHが慌てた様子で、こちら側に向かって大きく手招きしている。

「何かあったのかな? 行ってみよう」

先ほどまでの落ち込みを掻き消すように、いつも通りの口調に戻ったルーチェルAは勢い良く車を降りると小走りでミユキHが待つ建物に向かう。

(弱いんだか、強いんだか…)

いつの間にかルーチェルAに振り回されたサラサQも車を降りて建物に向かう。


建物に入ると直ぐに受付があり、そこで難しい表情を浮かべるミーアAとミユキHと同じような赤い淵のメガネを開けた受付嬢が話しをしていた。

「その情報は本当なのか… なんとか、学園長に確認は取れないのか?」

「何度も言いますが、この北中米支部には通信機等は無いので、メシア女学園と連絡を取るには最低でも3日は掛かります」

マギーQの情報を得るだけにしては随分とミーアAは取り乱した様子で受付嬢に詰め寄っていた。

「何かあったのかい?」

受付に居る2人の様子を見ただけでは理解できず、状況を知るミユキHに尋ねる。

「はい、実は先ほどマギーQに関する捜索依頼が強制送還命令に変わったと報告があったらしく、その情報が本当なのかミーアAが学園長に確認したいと要請している所です」

「それで、ここには通信手段が無いと…」

大体の事情を把握したルーチェルAは、未だに受付嬢に詰め寄っているミーアAを制止するよう間に入る。

「まぁ、良いじゃないか。それよりもマギーQに関する情報は?」

「良くないだろ、お前もクラスQの出鱈目な能力は充分に理解しただろ!? 例え、こちらにサラサQが居てもクラスQのリーダーを務めていたマギーQに敵う訳が無い!」

TVに感染した牛とサラサQの戦闘を車内で体感したミーアAは焦っているのだろう。

「それ以上の過小評価はサラサQに対する侮辱になるよ。それにサラサQが居ないとしても、僕たちは誇り高きクラスAだ。無様な態度を取ってはならない」

冷静なルーチェルAの言葉に、ミーアAは遅れて入ってきたサラサQに目をやり我を取り戻す。

「そうだな。私たちは学園を代表するクラスAだ」

自分に言い聞かせるように呟いたミーアAは頭を切り替えるように一度大きく深呼吸をすると手に持っていた書類をルーチェルAに渡す。

「これがマギーQに関する情報らしいのだが…」

「これが…」

渡された書類に目を通したルーチェルAは眉を顰める。

「…賞金首?」

書類には北中米支部の管轄内にある賞金首を連行したデータが記されていた。

・73歳と69歳の老人を強盗罪で逮捕。

・68歳の老婆を万引きで逮捕。

・66歳老人は不法投棄で逮捕。

その他にも15件の賞金首を連行して来ているようだが、その全ての案件も老人で軽犯罪者という内容だった――

「この賞金首たちとマギーQにどんな関係があるんだい?」

「どうも…マギーQが連行して来たらしい」

「マギーQが!?」

困惑するルーチェルAから書類を奪う様に取ったサラサQも内容を見て困惑する。

「なんだ、マギーQは賞金稼ぎにでもなったのか?」

サラサQに問い質された受付嬢は困った表情を浮かべ「私は上司からこの書類を渡すように指示を受けただけなので、何とも…」と言うに留まった。

(どうやら、受付嬢に確かな情報を聞くのは不可能そうだ)

「それにしても随分とお年寄りに厳しい賞金稼ぎですね。マギーQ程のメシア使いならば、もっと高額な賞金首を余裕で捉える事も可能でしょうに?」

サラサQの隣で書類を覗き込んでいたミユキHが何気なく疑問を投げ掛ける。

「そう言えば、そうだな」

ミユキHの疑問に同意するサラサQの様子を見て、ルーチェルAが受付嬢に尋ねる。

「捉えられた老人たちは何処に居るんだい?」

「ここには仮独房しか無いので、南米支部に輸送されましたよ。毎週水曜日の朝に専用の護送車が来るんですよ」

(老人たちに話しを聞けば、何か分かるのかと思ったのだが…)

サラサQから書類を奪い返したミーアAは次のページを開く。すると、このアマリリス部隊・北中米支部から近い場所にある酒場の情報が書かれていた。

「この酒場は何だ?」

「はい。そこでしたら、昔から賞金稼ぎが情報を集める為によく使われている酒場で有名な店です」

「仮にマギーQが賞金稼ぎをやっているのであれば、この酒場で何かしらの情報が掴める… そういう意味なのか?」

「さぁ~?」

やはり受付嬢は本当に何も知らないらしい。

困惑する一行だったが、とりあえず書類に書かれた酒場に向かう他に選択肢は見当たらなかった。

「分かった。邪魔したね」

アマリリス部隊・北中米支部を後にした一同は再び車に乗り込むと酒場へと向かった――


目的地である酒場までは北中米支部から2時間も掛からなかった。

先ほどの北中米支部もそうだったが、このメリダ地区も人をあまり居ない。

2年前に1度、TVが小規模ながら発生した地域だ。その際にサラサQはクラスQの生徒たちとこの街に訪れた事を思い出す。

その頃はまだ疎らながら人の営みが確認できたのだが。

(TV発生の影響で人が遠ざかったのか…)

そんな事を思いながら車窓から流れるメリダの景色を見るでもなく眺めていた。

「あそこの店です」

ミユキHが指差す方向に木造建てのロッジが見えてきた。その奥には大きめな黒い倉庫も確認できる。

店の前に車を停止させると書類に書かれていた通り、Astra Barと書かれた看板が目に入った。どうやら、この店で間違いないようだ。

(しかし、どうしたものか?)

助手席に座っているルーチェルAは酒場の看板を眺めながら考える。

「どうしたんですか?」

思い悩むルーチェルAを気遣うミユキHだったが、そんな言葉も耳に入らない程にルーチェルAはこの先の展開を想像する事に集中していた。

(今回の任務はマギーQを総本部に連行する事に変更された。その意図は未だに分からないが、いきなりマギーQと出くわした所で素直に応じくれる人物なのだろうか? 何としても戦闘は避けたい)

「ねぇ、サラサQ。今更な質問なんだけど、マギーQとはどういう人物なのかな?」

この中で唯一マギーQを知っているサラサQに少しでも情報を得ようと尋ねる。

「どうって聞かれてもな~。普通かな」

「随分と漠然だね」

「それじゃあ逆に聞くけど、マギーQの何が知りたいんだ?」

サラサQは肩を竦めながら質問を質問で返す。

「そうだね。例えば、制服を着た僕たちが近づいただけで無条件に攻撃してくるとか?」

「それはないない」

サラサQは鼻で笑いながら首を左右に振る。

「マギーQのメシア・デュラメンテはどちらかというと隠密に向いている。私が知る限り、最強のメシア使いはロザミアQだな。あいつのメシア・ジェンティルドンナを見たら一目散に逃げる事を薦める… ってアレ、話題が変わったか?」

「まぁ、覚えておくよ。それよりマギーQの性格上、いきなり僕たちが出向いてまともに会話してくれるかな?」

「それは大丈夫だろ。クラスQ内で最も社交的な奴だ。だからリーダーに任命された」

どうやら最悪の場合は避けられそうだ。

「それに、この酒場に今マギーQは居ない」

「店に居ない…どうして分かるんだい?」

2人の会話を聞いていたミユキHとミーアAもサラサQの言葉の意味が分からず注目する。

「匂いがしないんだ」

「…匂い?」

「そう、私はちょっと特殊な鼻を持っているんだ」

「その鼻が特殊なマギーQの匂いを醸し出しているというのかい?」

「マギーQというよりもメシア使いの匂い… 現に今も、運転手以外のお前たち2人から微かにメシア使い特有の甘い匂いがする」

そんなサラサQの言葉に2人は思わず鼻を啜りながら自分たちの体臭を確認するが、特に変わった匂いはしなかった。そんな滑稽な光景を見たサラサQは溜め息を着く。

「一般人の鼻では臭わないから安心しろ」

「そうか、その特殊な匂いが酒場からもしないとなれば、少なくとも店内にメシア使いは居ないという事か…」

今更サラサQの言葉を疑う者は居なかった。

「ならば、メシアは必要ないか。僕が店に行って来るよ」

「私も同行しよう」

車を降りようとするルーチェルAを心配するようにミーアAが同行しようとするが。

「いや、ミーアAは車で待機していてくれ。それよりもサラサQ、君が来てくれ。念の為、この中で君しかマギーQの容姿を知らないからね」

ルーチェルAの尤もな意見にサラサQは渋々ながら同意して車から降りると2人で酒場に向かった。


カランコロン…

「いらっしゃい」

店に入るなりすぐにやる気の無い老いた店主の声が店の奥から聞こえてきた。

しかし、酒とタバコの匂いがこびり付いた店内に人の姿は見られない。

「誰も居ないのかな?」

しばらくしてカウンターの奥から白髪交じりの中年男性がゆっくりと姿を現わした。白いドレスシャツに黒い蝶ネクタイを付けている姿から、この酒場のマスターである事が一目で理解できる。

「ゴメンね。僕たちは客じゃないんだ。尋ねたい事があるのだけど、ここにメシア女学園の生徒が出入りしていなかったかい?」

「……知らないね。うちはご覧の通り酒場だ。未成年に酒を出す事は無いからね」

落ち着いた口調で話すマスターは軽く首を振ると、カウンターで大きなジョッキを拭き始める。

「それもそうだ。サラサQ、何かマギーQに関する分かり易い特徴は無いのかい?」

不意に振られたサラサQはマギーQについて思い出すが、取り行って目立つ特徴を持ち合わせていなかった。

「え~と、肌は日焼けしたような褐色で、身長は私と同じ位… そんなもんだ」

「それで分かるかい?」

絶望的なヒントに駄目元で確認するが、やはりマスターは首を横に振るだけで何も言わずにジョッキを拭き続ける。

「他に何かないのかい?」

「そうだな…」

そう言いながらサラサQは店内を見渡し、ある事を思い出す。

「そういえば、シェリー酒が好きだった」

「そんなヒント…」

「それなら、いつも茶色いローブを羽織った賞金稼ぎがよく飲んでいた」

ルーチェルAが溜息をつく前にマスターがボソリと呟いた。

「本当かい?」

「あぁ… 一度だけ素顔を見たが、特徴も君が言った外見だった気がする」

「間違いないな」

奇跡的な導きに多少の感動を思えつつも、ルーチェルAは本来の目的を思い出す。

「現在、彼女が何処に居るのか分からないかい?」

「さぁね。他の賞金稼ぎと何か話し合っていたから、もしかしたら遠方まで賞金首を追っているのかもしれない」

(入れ違いか)

「いつ頃、出て行ったんだい?」

「さぁ……もう数日間、顔を見ていない。もしかすると、もうこの店には来ないかもしれない」

ジョッキを拭き終えたマスターはまた違うジョッキを手に取り再び拭き始める。

「どこに行ったか分からないかい?」

「さぁ…」

マスターは何も言わず首を横に振りながら、淡々とジョッキを拭き続ける。

これ以上の情報は得られないと諦めながら店を出ようとするルーチェルAを置いて、サラサQはカウンター席に座る。

「私もチェリー酒を貰おうか」

「はいよー」

サラサQの注文にマスターがやる気の無い返事をする。

「おいおい、サラサQ。先ほどまでスルーしていたけど、僕たちはまだ学生だよ。アルコールは法律で禁じられている」

「それはお前たちの法律だろ? 私たち奴隷に法律は通用しない。良くも悪くも…」

自虐的に微笑むサラサQの前に小さなコップに入ったシェリー酒が出される。

「それにマギーQは遠出して賞金稼ぎをしているのだろうよ。下手に動いて、また行き違いになる可能性もある。このままメリダに留まっていた方が良いのかもしれないぜ」

そう提案を残したサラサQは少量のシェリー酒を口に含んで丁寧に味わいながらゆっくりと飲み干した。



夜になるとガイルの情報通り、ベイル港の隅にある緑色の倉庫に同じ車種の黒い乗用車が3台続けて入って来た。

それを遠くの建物から双眼鏡で確認したポートがトランシーバーでクンに伝える。

「来たみたいでっぜ、姉さん」

倉庫のすぐ近くにある雑木林に身を隠しながらポートの報告を受けたクンが隣に居るマギーQに小声で告げる。

その直後、情報通り黒い車が通過する所をマギーQも肉眼で確認する。

「この車がレッドテール… そうなると、後はアマリリス部隊の到着を待つだけね」

海岸側を偵察しているガイル率いる自警団からは特に怪しい乗り物の一切は全く見当たらないという連絡がクンのトランシーバーに入る。

(現時点で海からの逃走経路は無いようね…)

しかし、アマリリスらしき人物は未だに見当たらない。

「アマリリスの姿が確認できるまではその場で待機。そう皆に伝えて」

マギーQの命令はクンのトランシーバーから全体に伝えられる。

潮騒以外の音が聞こえない静寂が皆の緊張感を高める。

「姉さん、アレは?」

倉庫付近に黒い車が停車すると、車から降りて来た男たちの中に重厚なジェラリミンケースを持った男が降りて来た。

「恐らく、あの中に麻薬が入っているのね」

車から降りて来た男たちは周囲を警戒しつつ、頻りに上空を確認するように天を仰ぐ。

「上空に何かあるんすかね?」

呟くように発するクンも男たちと同様に空を見上げるが、夜空には半分欠けた月と綺麗に輝く無数の星々が瞬くだけだった。

「何も無ぇや」

残念そうにクンが呟いた直後、雲ひとつ無い幻想的な夜空には似つかわしくない、騒々しいプロペラ音が響き渡る。

(なるほど)

どうやら、下で待機している男たちはヘリコプターの到着を待っていたようだ。

倉庫のすぐ横には広い空き地があり、待機していた男たちは準備していた大きめのライトを点滅させながら誘導すると、丁寧に着陸位置を調整したヘルコプターがゆっくりと下降を始める。

派手に砂煙を上げながら無事に着陸した事を確認した男たちは小走りでヘリコプターの前に集まる。

しばらくして、ヘリコプターの扉がスライドして開く。

「出迎え、ご苦労」

凛々しい女性の声と共にヘリコプターの中から白色を基調としたミリタリー要素の強いアマリリス部隊専用の軍服を着た女性が2名揃って降りて来た。

一人は茶色い短髪で面倒そうに大きな欠伸をしている。とてもボーイッシュな雰囲気で腰にはしっかりとメシアと思われる赤いスケルトン色をした刀を提げている。

もう一人の女性は綺麗な金髪で、癖毛のあるロングヘアーを靡かせている。上品な歩き方を見ただけで育ちの良さが窺えるが、腰にはしっかりとメシアと思われる青色の銃をぶら下げている。

2人とも緊迫感を全く感じさせない和んだ表情で、出迎えたレッドテールのメンバーに対し随分と慣れた様子で握手を交わしていた。

マギーQは双眼鏡を覗き込み2人の顔を確認する。

(やはり知らない顔だわ)

「それにしても密売してるっていうのに、ヘリコプターで堂々と登場なんて随分と大胆ですね」

緊迫感の欠片も見せない取引現場に対しクンは呆れながら首を振る。

それにはマギーQも同感だ。

「しかも堂々とアマリリス部隊の軍服を着ているなんて…常習犯なんてレベルじゃないわね。あのヘリコプターはアマリリスの所有物よ。つまり、南米支部全体で麻薬の取引に勧誘していると考えて間違いなさそうね」

2人のアマリリスは男たちの誘導に従い倉庫の中へと入って行った。それを確認したマギーQはクンからトランシーバーを奪い取る。

「ガイル、海岸周辺に怪しい乗り物は無いかしら?」

「あぁ、特に変わった物は見当たらない」

「何か発見したらすぐに連絡してちょうだい」

一方的に通信を切ったマギーQは不敵な笑みを浮かべながらクンの肩をポンと叩く。

「さぁ、あなたの出番よ」

悪魔の囁きがクンの右耳を伝い、背筋を凍らせる。満面の笑みを浮かべるマギーQは本当に悪魔にしか見えなかった。


倉庫内は1本の水銀灯が周囲を薄暗く照らしていた。それが意図的なのか分からないが、結果的に見え難い倉庫内は密売取引に相応しい場所となっていた。

周囲は使い古された木製パレットが幾つも積まれていて、それ以外の物は置かれていない。

そんな倉庫内には既にフルームとサンタナがパレットの陰に身を潜め、銃を構えている状態で待機していた。

「久しぶりだなミハエル。今夜も相変わらずお美しいようで。それにカレンも」

倉庫内では坊主頭に大きなレンズのサングラスを掛けたレッドテールのリーダーと思われる男がアマリリスの2人と笑顔で迎え、握手を交わす。

「私はついでかよ!」

カレンのツッコミに辺りから軽い笑い声が漏れ、和やかな雰囲気に包まれる。

「落ち着きなさいカレン。イワンもお世辞は良いから、早く取引を始めましょう」

そんな和やかな雰囲気を壊すようにミハエルは周囲を警戒しながら早急な取引を促す。何かを察したのか、隣に居るイワンとカレンも警戒するように表情を引き締めた。

「そうだな。早々に済ませよう」

そう言いながら、イワンは部下に持たせていたジェラリミンケースを受け取る。

「今回のブツは今までのより上物が入ったぜ」

イワンはサングラス越しからでもはっきりと分かる、卑しい笑みを浮かべると得意げな表情でケースに掛けられていた鍵を開ける。

「今回は随分と大量だなー」

ケースの中からは定番の白い粉の入った袋が大量に出て来ると、カレンが感心した表情で白い粉の入った袋をひとつ取り出す。

「今回も“苺”で良いの?」

「あぁ、今回はいつも贔屓にして貰っているサービスだと思ってくれ。今後も頼むぜ」

ミハエルとイワンの取引はお互いに一言で済んだ。常習性が滲み出る程に慣れた隠語で交渉はあっさりと成立する。

それを確認したカレンは取り出していた白い粉の入った袋を元に戻すと、丁寧にジェラリミンケースを閉じる。

「確かに受け取ったわ。お金はいつものルートで良いかしら?」

「あぁ、それで良い」

取引が終わるとイワンとミハエルはもう一度だけ握手を交わすと、長いは無用とばかりに、早々と倉庫の出入口に向かう。

その時だった。

「やいやいやい! お前らの悪行は全て俺様が見届けさせて貰ったぜい!」

威勢の良いしゃがれた声を荒げながらクンが単独で倉庫内に突入する。

突然のクンの登場に皆が呆気に捕られ、一瞬だけ時間が停止したように皆の動作がピタリと止まる。

「何者だ!?」

「ちいとばかし名の知れた賞金稼ぎでぃ!」

得意げに胸を張るクンに対し、レッドテールの面々は一斉に銃を取り出し、クンに向けて銃口を構える。

「銃は不味いだろ。ここで騒ぎになって変な噂が出ても厄介だ。私が始末する」

冷静な口調でカレンが皆の銃を仕舞わせる。そして軽快な足取りでクンに近づく。

「動くな!」

クンは威嚇のつもりで銃を取り出すがカレンは全く動じない。寧ろ、銃口を向けられているカレンの方がクンを憐れむように微笑を浮べる。

「お前、賞金稼ぎのくせに、この軍服がどこの組織なのか知らねー訳?」

カレンは誇らしげに身に纏っている軍服を披露するように両手を広げる。

「知ってらー。泣く子も黙るアマリリス様だろ?」

想定通りの答えが返って来た…しかし、それはカレンに新たな矛盾を生じさせた。

「正解だ。バッド、そうなると妙だな。何でアマリリスだと知りながら、あえて負ける喧嘩を吹っ掛けて来てんだ?」

眉を顰めて立ち止まったカレンは未だに自分に銃口を向け、少し怯えた表情を浮べているクンを睨み付ける。

(こんな冴えない中年男がメシアに敵う程の能力を持っているとは思えない。ならば、コイツは罠で他に何か企んでいるのか?)

そう察したカレンは急に周囲を警戒するように薄暗い倉庫内を見渡す。

「今よ!」

マギーQの合図と共に倉庫内に隠れていたサンタナとフルームがレッドテールのメンバーに向かい銃を撃つ。

「何!?」

レッドテールが銃を落とした隙にクンは駆け足でレッドテールに近づくと手慣れた動作で手錠と縄を駆使して瞬時に拘束した。

それを確認したサンタナとフルームは銃を構えたままパレットの陰から姿を現す。

そんな2人に銃口を向けられたレッドテールのメンバーは抵抗する事無く地面に銃を捨てて両手を上げる。

しかし、その表情は心の何処かで“こちらにはアマリリスが居る”という真理から余裕の笑みが滲み出ていた。

レッドテールのメンバーを拘束する一連の動作は手慣れたもので、クンたちがちゃんとした賞金稼ぎだった事を初めて確認したマギーQは少しだけ感心した。

「あなたたち何者なの? アマリリスに盾突くなんて、相当のバカなのかしら」

突然の襲撃にクンたちを仕留め損なったカレンの変わりに、ミハエルが自分のメシアである銃を手に取る。

「バカは死んでも治らないって本当なのかしらね?」

ミハエルは不敵な笑みを浮かべ、クンたちを逃がさないよう慎重に距離を詰める。

そんなクンたちとミハエルの間に誰の目にも留まらぬ速さで何かが横切るような妙な気配と微風が吹いた。

「何っ!?」

ミハエルは自分の目を疑う。

白いワイシャツにお洒落なチェック柄のスカートと可愛らしい格好。

しかし、そんな服装とは似合わない膝辺りまで伸びた黒いロングブーツを履いた、褐色肌に肩まで伸びた赤髪の少女が立っていた。

「いつの間に!?」

驚いているミハエルを他所にマギーQは「クンたちはレッドテールを連れて早くここから撤退しなさい。私が倉庫から出るまで入ってきちゃ駄目よ」と的確に指示を出す。

「へい、姉さんもお気を付けて」

(おいおい、私の目に追えない程の速さで移動しただと!?)

ミハエルだけでなく動揺しているのはカレンも同様だった。

そんな現場の混乱に乗じてクンたちは早々にレッドテールのメンバーを一人残らず連れて倉庫から出て行った。

その途端、先ほどの騒音が嘘だったかように倉庫内は静寂に包まれる。

残されたミハエルとカレンは警戒心を高めながら、目の前に居る謎の少女を観察する。

「あなた何者なの? ただの賞金稼ぎという訳では無さそうだけど」

ミハエルの表情から先ほどの余裕は完全に消え、銃型のメシアを持つ手に自然と力が入る。

「今はただの賞金稼ぎよ。それより、その様子だとあなたたちに総本部の情報は全く入っていないようね」

「………総本部?」

ミハエルとマギーQの微妙に噛み合わない会話に、今まで動揺していたカレンが徐々に苛立ちを芽生え始める。

「何を訳の分かんねぇ事を言ってやがる! なぁ、ミハエル。私がやって良いか?」

明らかに不機嫌な表情を浮べ、ズカズカと足音を立てながらマギーQの前に出る。

相手の素性も分からないまま接触する事は避けるべきなのだが、一旦頭に血が上ったカレンを宥める行為はミハエルでも至難の業だ。

「気を付けなさい。アマリリスを敵に回して、これだけ正気で居られるという事は相当の手練れか、何か秘策があるのかもしれないわ」

引き止める事を諦めたミハエルは可能な限り端的なアドバイスをカレンに送る。

「どんな手練れだろうが、どんな秘策があろうが、この西アメスト共和国でアマリリスに敵う奴なんて居ないんだよ!」

怒りと余裕とが入り混じる何とも不気味な笑みを浮かべるカレンは意気揚々とマギーQの前に立つと腰に掛けていた赤い透明素材の剣を手に取る。

「あなたの言う通り。少なくとも、この西アメスト共和国でアマリリスに敵う組織など居ないわ。確か、カレンだったかしら?」

「別に私の名前を覚える必要は無ぇよ。どうせ、すぐにサヨナラするんだからよ」

カレンは不気味な笑みを崩さず、ゆっくりと剣を両手で握った。その瞬間だった。

――ピュンッ!

何かがカレンの頬を霞める。

「何だ?」

カレンは徐に頬を摩り確認すると、手には赤い液体が付着していた。

「血だと!?」

事態が把握できないカレンは未だに頬から垂れる血を拭い、改めて自分が置かれている立場を確認する。

「間合いを取りなさい! その者もメシア使いだ!」

一瞬、ミハエルの言っている意味が理解できなかった。

しかし、カレンが再びマギーQに目をやるといつの間にか、マギーQの右手には透明に輝く銃を構えていた。

「その銃… なんだよ、お前もメシア使いかよ!」

ようやく事態を把握したカレンが改めて剣を構え直すと、躊躇せずマギーQに向かい勢い良く切り掛かる。

「どんなメシア使いかと懸念していたのだけれど、あなたまだ”第1形態”さえも扱えていないようね」

残念そうに呟くマギーQの言葉など、もはや頭に血が上ったカレンの耳には届かなかった。

必死の形相で切り掛かるカレンの剣型メシアをサラリと交わしたマギーQは、その動作のままカレンの右腕を取り見事な背負い投げを決める。

「そうなると、そのメシアはただの飾りでしかないわ」

見事にやられたカレンだったが、その表情に悔しさの類いは無かった。寧ろ、清々しい表情と何か希望に溢れる明るい表情を浮べていた。

(どういう事?)

カレンの表情に違和感を抱いたマギーQは慌てて周囲を見渡す。すると、先ほどまで居たはずの場所には既にミハエルの姿が消えていた。

それを確認したカレンが勝ち誇った口調で告げる。

「そうだ。私のメシア・ベルカントはただの剣だ。だから出世は出来ないと諦めた。でもな、ミハエルのメシア・ラーゼンはちゃんと第1形態まで扱えるんだぜ。本当だったら将来を有望視されていたアマリリスなんだからよ!」

――ピュンッ!

マギーQのメシア・デュラメンテと同じ擬音が聞こえた。しかも至近距離からだ。だが、相手の姿は見えない。

「そう。私のメシア・ラーゼンの能力は自らの姿を消す事。だから…」

ミハエルの気品溢れる言葉を最後まで聞く事無くマギーQは思わず安堵の笑みを浮かべた。

「わざわざ能力を教えてくれて、ありがとう。もっと厄介な能力だったらと懸念していたのだけれど、杞憂だったわ」

「舐められたものね。死ぬ前にあなたの名前を聞いておいてあげるわ」

そう言いながら、ミハエルはメシア・ラーゼンの銃口をマギーQの後頭部に突き付ける。

「マギーQよ」

そっと呟くように自らの名前を教えるマギーQだったが、やはり笑みを崩さない。

そんなマギーQとは対照的に、名前を聞いた側のミハエルは目を見開き驚いていた。

(私がまだ学生時代には全く聞いた事の無かった“クラスQ”の存在…しかし、アマリリス部隊に所属し、外の世界を知る様になった頃からその噂を耳にするようになった。

そして初めての実戦になった最北支部でのTV殲滅作戦に参加した際に目撃した光景…目にも見えない速さで移動するTV相手にメシア使いが操り人形のように成す術なく踊らされながら大量に殺される地獄絵図だった。

そんな戦場の中を漆黒のメシア女学園の制服を着た学生たちは強力なTVを相手に、まるで楽しんでいるかのような笑みを浮かべながら戦場を駆け抜けた)

あの光景は今もミハエルの脳裏に焼き付き、強烈なトラウマとして残っている。

「マギーQですって!? あの奴隷上がりのメシア使い… 伝説の“クラスQ”……」

「あら~、そんなに私って有名だったの」

ワザとらしく驚いて見せるマギーQだったが、その表情に驚きなど全く無かった。

「それよりも私の後頭部を撃たないのかしら?」

ミハエルを挑発するように自らの後頭部を指すが、マギーQの後頭部が撃ち抜かれる事は無かった。

「な、何をしたの!?」

慌てた口調でミハエルが尋ねる。口調しか聞こえないが、相当に困惑している事は容易に想像が付く。

「何やってんだよ! 幾ら、クラスQとは言え、頭を撃ち抜けば殺せるだろ! 早くやっちまえよ!」

未だ地面に寝そべったままのカレンがミハエルに攻撃するように怒鳴り付ける。

「そういうあなたも早く起き上がれば?」

既にマギーQは自分のメシアを腰に仕舞い、戦闘態勢を完全に解除していた。その表情は戦いを諦めた絶望感など毛頭無く、寧ろ勝利を確信した余裕の笑みに溢れている。

「腕が、指が動かない!」

「全身が動かねぇー。まささ、お前のメシアの仕業か!?」

大の字で倒れたまま地面でもがくカレンの台詞にマギーQは意外そうに少し驚く。

「あなた粗っぽい性格の割に冷静な所があるのね。正解よ。私のメシア・デュラメンテの第1形態・黒霧は私の半径3メートル以内に居る全ての生物の動きを停止させる」

そんなマギーQの説明はミハエルにひとつの疑問を生じさせた。

「メシアが形態を変えるという事は、当然、メシア自体が変形している。だとすれば、今あなたの腰に掛かっているメシアは何なの?」

やはり末端とは言えアマリリスだ。素人では思い浮かばない指摘にマギーQは感心する。

「そうね。あなたたちでは辿り着けない領域だから無用な知識かもしれないけれど、高度なメシア使いになれば、複数のメシアを同時に扱う事が出来るのよ」

「それじゃあ……あなたも!?」

「理解が速くて助かるわ」

マギーQの説明を聞き終えると観念したのか、見えなかったミハエルの姿が徐々に現れる。

「そんな卑怯な……」

思わず漏らしたミハエルの言葉にマギーQは思わず笑みを溢す。

「ねぇ、こんな言葉を知っている? 恋愛も戦争も勝ってしまえば、どんな手段でも正当化されるの。まぁ、私は恋愛をした事が無いから分からないのだけれど」

古いことわざを用いて説明するが、

「はっはっはっ…」

自棄になったのか、大の字で倒れているカレンが大声で笑う。

「圧勝ってか? だが残念だったなマギーQ! この倉庫には監視カメラが設置されているんだよ。

マギーQ、あんたも随分と頭が冴えるようだがよ~、うちらのボス・アウラ大佐も中々の戦略家だぜ。私たちがこうして時間を稼いでいる間に、映像を見ている大佐が逆転の打開策を考えているはずだ!」

「そう、アウラ大佐は随分と部下に慕われているのね」

そんな有望な人物をアマリリス部隊・総本家はどうして左遷してしまったのか、その点は不思議でならなかった。

(いや、今の時点でアウラ大佐を有望かどうか判断するには時期早々か…)

――ピピピ… ピピピ…

ミハエルの懐に忍んでいた通信機が鳴る。

「噂をすればアウラ大佐からだわ。出ても良いかしら?」

未だに全身が動かないミハエルはマギーQに許可を取る。

少し悩んだマギーQだったが、ここで拒否しても話しが進まない。それにアウラ大佐とは早かれ遅かれ話をしなければならない相手だ。

「どうぞ」

マギーQの言葉と共にミハエルの身体に自由が戻る。それを確認したミハエルは未だに鳴り続ける通信機を取る。

――はい、こちらミハエルです。…はい。えっ!? 本気ですか? …はい。

驚きと困惑を浮べるミハエルは通信を終える。

「どうかしたのか?」

ミハエルの冴えない表情にカレンが心配そうな表情で問う。

「これ以上の戦闘は許さない。至急、マギーQをお連れして南米支部に帰還しなさい。ですって」

「なんだと!?」

「賢明な判断ね」

驚くカレンに対し、マギーQは皮肉では無く心からアウラ大佐に敬意を表した。

(監視カメラだけで的確に状況を把握し、無駄な戦闘を避ける事により被害を最小限に抑えた。カレンが言った通り、アウラという人物、相当に頭が冴えるらしい)

気が付くとカレンの身体にも自由が戻っていた。しかし、カレンはしばらく寝そべったまま動けないでいた。

「どうしたの、もう動けるでしょ?」

不思議そうに見下ろすとカレンの瞳には溢れんばかりの涙を溜めていた。

「何でもねぇーよ!」

急いで立ち上がったカレンは涙を隠すように外方を向く。

恐らく、自分よりも強いメシア使いを相手にした事があまり無いのだろう。そして思っていた以上の実力差に情けなくなってしまったのか……

マギーQはそんなカレンの姿を見ると、クリストファー教諭と初めて演習を行った日を思い出した。手も足も出無かった。

実力の差が有り過ぎて悔しい感情を通り越し、諦めの境地に達していた。

(あの頃の私と比べて、カレンは向上心が強いのね。”向上心は希望に繋がる唯一の道”クリス先生が言っていたわね)


倉庫から出ると心配そうな表情で待っていたクンたちが駆け足で近寄って来た。

「姉さん、無事でしたか? どこか怪我は?」

泣きながら抱き付こうとして来るクンをマギーQは前蹴りで阻止する。

「大丈夫よ。それよりもこれから南米支部に向かうわ」

「それはまた随分と急な話ですね! 何かあったんですかい?」

急な展開にクンたちは揃って困惑の表情を浮かべる。

対照的に不満の表情を隠さないカレンは何も言わずヘリコプターの乗り込むと出発の準備を始めた。

そんなカレンとは違い、気持ちを切り替えた様子のミハエルは感情を表に出さず淡々とマギーQをヘリコプターまで誘導する。

「そうだ。ついでにガイル、それにレッドテールのリーダーさんにも同行して欲しいのだけれど、良いかしら?」

マギーQは思い出したように手錠で頑丈に拘束されているイワンと、状況を聞き付け倉庫に到着したばかりのガイルを指し、ミハエルに了承を取る。

「…分かったわ。きっとあなたに何か考えがあるのでしょうね」

一瞬だけ迷ったが、マギーQの要望にミハエルは渋りながらも了承する。

「ありがとう」

しかし、ミハエル以上に渋ったのは拘束されているイワンだった。

「なんで、俺が行かなきゃなんないんだよ!?」

「おめぇは黙ってろい! それよりも姉さん、俺たちも一緒に付いて行きやっせ!」

不満を漏らすイワンを容赦なく殴り黙らせたクンは既に同行する気満々だった。

「そうね。あなたも一緒に来てちょうだい。レッドテールの残りメンバーは」

そんな流れで皆が乗った事を確認したカレンは操縦席の前にある様々なスイッチを入れ、プロペラを回転させる。

「それじゃあ行くぞ」

カレンが操縦桿をそっと手前に引くとヘリコプターは再び夜空に向かい離陸する。

車で移動すれば裕に1日は掛かる道のりをヘリコプターだと3時間程で到着するのだから、文明の進歩には驚きと感謝しかない。

「確か、北中米支部の収容者もこのヘリで護送しているのよね?」

マギーQは自分が捕まえた賞金首たちの顔を思い出しながら、隣に座っているミハエル尋ねる。

「そうよ。毎週火曜日に担当者が輸送しているわ。でも、それがあなたと何か関係あるの?」

「いいえ、前にそんな話を聞いた事があってね。ちょっと気になっただけよ」

不思議がるミハエルを余所にマギーQは何故か嬉しそうに微笑んだ。

窓の外には海の遥か先の水平線から朝日が顔を覗かせた。

そんな朝日がアンデス山脈を暁に染めると壮大な景色と、その一辺の麓に白い外壁で出来た立派な城が姿を覗かせる。

「姉さん、姉さん、アレですかい。アマリリスの南米支部ってヤツは?」

興奮しながら尋ねてきたクンはまるで子供の様にはしゃぐ。

「そうみたいね。私も実際に見るのは初めてだけど、総本部の建物と随分と似ているわね。流石に規模は小さいけれど」

ノイシュヴァンシュタイン城という西暦時代の建築物を参考に設計されたと聞いた事がある。

しかし、実際にその建物を知らないマギーQは実際に比べようが無いので何の実感も湧かなかった。

ヘリコプターが南米支部に着陸する頃、太陽は完全に昇り、山から吹く清々しい風がマギーQたちを優しく迎える。

そのタイミングを見計らってか、ミハエルの通信機に連絡が入る。

――はい。無事に帰還しました。はい、それでは…

相手は恐らく、この建物の主であるアウラ大佐だろう。連絡を終えたミハエルは優しい笑みを浮かべながらマギーQに歩み寄る。

「マギーQ、アウラ大佐があなたと二人きりで話したいそうよ。ご同行を願えるかしら?」

「もちろん、喜んで」

マギーQもミハエルに負けない程の上品な笑みで返す。そんな2人の沈黙ながら激しいやり取りを見ていた周囲の男たちは、触らぬ神に祟り無しとばかりに見て見ぬフリをした。

「ちょっと行って来るから、あなたたちは大人しく待ってなさい」

「へい、姉さんもお気を付けて」

心配するクンたちを残して、ミハエルのエスコートでマギーQは南米支部の建物へと入って行った。


(内装の細部まで総本部に似せたデザインだわ)

マギーQが想像していた通り、流石はアマリリスというだけあって南米支部とは言え、総本部に負けない程に豪華な造りをしていた。

天井には多くの種類の宝石を散りばめたシャンデリアが堂々と吊るされ、訪れる全ての者を見下すように輝く。

床面には、昨夜まで泊まっていたホテルの赤い絨毯とは比べ物にならない程に上質な生地の白い絨毯が敷き詰められ、一番奥まで見えない程に永延と続く廊下を支配していた。

まるで雲の上のような絨毯をしばらく歩き続けると、前方に大きな木製の扉が見えてきた。

「ここが支部長室よ」

ミハエルが意味あり気に微笑みながら扉をノックする。

「どうぞ、入って」

大人びた女性の声が静かに響くとミハエルはそっと扉を開きマギーQを支部長室へと誘う。

「これは…」

マギーQは部屋に入るなり呆気に取られる。

ガラス張りの天井から射し込んだ朝日が支部長室全体を様々な色彩で輝いて映していたからだ。

その正体は天井のガラス一面に描かれた女神とその周囲を囲む天使たちのステンドグラスの仕業だった。

赤や青、黄色に緑……様々な色が混ざり合いながらひとつの異世界を描いていた。そんなスタンドグラスは部屋に入ったマギーQの全身も等しく染めた。

「ご苦労さま、ミハエル」

「それでは私は外で待っております」

ミハエルを労う大人びた女性の言葉が部屋に響くと、ミハエルは一礼して部屋を出て行く。

扉が完全に閉ざされアウラと2人きりになった途端、不自然な程の静寂が部屋を支配する。

「初めまして、マギーQ」

随分と広い支部長室にも関わらず、部屋の中には大きな机と椅子がひとつだけ置かれていた。

そんな椅子に座る女性は、声の印象と同じく大人びた彫りの深い顔をしていた。

アウラは艶のある蒼い長髪をそっと掻き上げ、気だるそうに肘掛に頬杖を付いた。

アマリリス部隊の白い軍服の右腕には大佐を意味する黄緑色の腕章が巻かれていた。

「あなたがアウラ大佐ね。初めまして。いや、実際には総本部で何度か見かけたかしら?」

その端整な顔立ちにあまり記憶は無いが、ふっくらとした柔らかそうな唇の右下にある黒いホクロが辛うじてマギーQの記憶の片隅に残っていた。

「あら、覚えてくれていたの? 光栄だわ。確か、本会議の席で何度かあなたを見かけたわ。総本部内であなたは有名だったから、総本部内の誰もが少なからずの興味をあなたに抱いていたわ。奴隷出身のメシア使いさん」

(そうだ。本会議の時に会った事があった)

アウラの話しを聞き、徐々にマギーQの記憶が鮮明に蘇る。

「私に興味がある? それは初耳ね。それよりもあなた、いつの間に大佐にまで出世したの。確か、私の記憶だと総本部に居た5年前までは少佐だったはずよね?」

「驚いたわ。そこまで覚えていてくれたのね。そう、私はこの南米支部に転属を言い渡された際に大佐まで昇進したの。もちろん、それは左遷を意味しているのだけれど…」

アウラは暗い影を落とすように微笑した。

(やはり、そういう仕組みだったのね)

マギーQの予想通りだった。

大佐以上の上位階級が与えられる場合、マギーQが知る限り大きく分けて3パターン存在する。

ひとつは戦闘において大きな功績を上げた場合だ。

一番の王道で最も判りやすい昇格の為に周囲から称賛されやすいパターンだ。

次に現役役員が不在になった場合。

激しい戦闘において不慮な事故にあった。或いは病気などで責務が果たせない場合に繰り上げする形で昇格するパターンだ。

まぁ、タイミングの問題もあるために一概には言えないが、あまり周囲にいい顔はされない微妙なパターンだ。

そして今回のアウラのように左遷される場合だ。

一見すると、昇格するのだから素人目からすれば出世したと捉える者が多い。

しかし、人事部或いは上層部は、それを狙った騙しパターンだ。

それは明確な規則違反や罰則に触れた場合において左遷を大っぴらにすることは問題ない。だが、どうだろう?

上層部の立場から見て、鬱陶しい存在を消したいときにどう掃除するのが最も穏便な方法だろうか。

あからさまな左遷は組織全体に不信感を抱かせる。

そうなれば組織の機能、或いは規律が乱れる恐れが生じる。だから、可能な限り穏便に、平和的に邪魔者を排除する方法としては常套手段としてよく使用されている。

マギーQが総本部に居た頃も何度か聞いた事のある、所謂“よくある話”だ。

左遷される大抵の対象者はメシアの扱いが未熟な弱者というよりは、上昇志向が強過ぎる者が多いと聞く。

特にどんな手段を使ってでも出世しようとする下品な輩を現代表であるヘブンリー総督は嫌う傾向にあった。

「あなた、何かヘブンリー総督の癇に障るような事でもしたの?」

誰もが聞き難い事を何の遠慮も無くズバリと尋ねるマギーQに対し、アウラは呆気に取られるでもなく思わず笑みを溢す。

「そうね。直接的に何かをしたつもりは無いのだけれど…結果的にね」

寂しそうに言い終えた後にアウラは自虐的に苦笑し「まぁ、その話しはまた今度にしましょう。それよりも早速本題に入りたいのだけれど?」と話題を変える。

恐らく一言では説明できない複雑な経緯があったのだろう。

そう察したマギーQもこれ以上の突っ込んだ詮索は止め、今回この場所に招かれた理由を聞く事にした。

「そうね。ちょっとデリカシーを欠いていたわ。それで私に何の話しかしら?」

「明確にしておきたいの」

「明確に?」

アウラの言葉にマギーQは思わず眉を顰める。

「そうよ、ミハエルとの戦闘を拝見させて貰ったわ。噂以上に強力なメシアを使うようね。それで、あなたの立場は“アマリリス・総本部の人間として私たちの罪を裁きに来た”という事で良いのかしら?」

微笑みながら尋ねるアウラだったが、その目は決して笑っていない。

それもそうだろう。違法な麻薬取引を組織全体で勧誘していた事が世間に暴かれては、恐らく自分だけでなく南米支部も無事では済まない。懸念する所はそんな所だろう。

マギーQは残念そうに溜め息を付く。

「その問いをするという事は、本当に総本部からは何の情報も伝わっていないのね」

そんなマギーQの態度にアウラは困惑するように目を細める。

「アウラ大佐、あなたも当然クリストファー教諭を知っているわよね?」

「もちろんよ。私もメシア女学園在学中に、何度かクリス先生の授業を受けたことがあるわ。彼女のメシアは強く美しく潔い。メシア女学園の生徒が目標とすべき先生だったわ。でも、そんなクリス先生と今回の件に何が関係しているのかしら?」

未だにピンと来ていないアウラの様子を見て、マギーQは確信した。

「そのクリストファー教諭が何者かに暗殺されたの。しかも、メシア女学園内でね」

マギーQが一体何を言っているのか、アウラが完全に理解するまでに少しの時間を要した。

「……それって!?」

随分と困惑するアウラを見て、マギーQは本当に彼女は何も知らされていない事を確信した。

「それで私はアマリリス部隊・総本部及びメシア女学園を抜け出したの。それが今から1年前の話よ」

「そんな話、こちらには全然届いてないわ!」

困惑と怒りを滲ませる表情を浮かべるアウラだったが、やはり未だに信じられない部分が大きい様で次に出て来る言葉が見当たらなかった。

「明らかにおかしい。今、アマリリス部隊・総本部内で何かが起こっている。でも、あなたたちと接触したのは本当に偶然の出来事よ。現在の私は単なる賞金稼ぎ」

話しを終えたマギーQの内容を整理しようとアウラはしばらく黙り込む。

「事情は分かったわ。それで私たちをどうするつもりなのかしら? 今までのあなたの話しを聞く限りでは、このまま総本部に私たちを引き渡すような状況では無さそうだけれど?」

「そうね。それが今回の本題ね。その為に今回同行させた皆も呼びたいのだけれど、良いかしら?」

マギーQの提案に疑問符を浮べるアウラだったが、否定する理由も無かった。

アウラは外で待機していたミハエルを呼び、皆をこの支部長室に来るように命じる。


しばらくしてクンを先頭に街の自警団を務めるガイル、麻薬組織レッドテールのリーダー・イワン、そしてミハエルとカレンが揃って支部長室に入って来る。

「姉さん、無事でしたかい?」

クンが慌てた様子と情けない表情を浮べながらマギーQに歩み寄る。

「あなたは少し落ち着きなさい。それとリーダーさんの拘束を解いてあげて」

そう言いながら、未だに両手を縄で縛られているイワンを指差す。

「いいんですかい?」

「この期に及んで何も出来やしないわ」

浮かない表情を浮かべながらもマギーQの言葉を信じるクンはイワンの両腕を拘束していた手錠を外す。

「ふ~、やっと腕が楽になったぜ。それで今後オレはどうなるんだ?」

久々に解放された感触を確かめる様に両手首をプラプラと揺らすイワンが他人事のように尋ねる。

「それをこれから話し合うのよ」

得意げな口調で提案するマギーQの言葉にここに居る皆の頭に疑問符が生まれる。

「どういう事?」

そう尋ねたアウラも漏れなく困惑する皆の中に含まれていた。

自分たちの代表であるアウラさえも知らなかったのか、とミハエルとカレンが揃って顔を困惑させる。

「そもそも私は今回の一件、賞金稼ぎという立場で携わった訳だから、このまま素直にあなたたちをアママリス部隊・総本部に明け渡して賞金を貰えば終わりなのだけれど…どうも、腑に落ちない部分が出てきたの…」

そう言いながらマギーQはまずガイルの目の前まで歩み寄る。

「メデジンであなたの話しを聞いた時、単純にレッドテールが悪者なのだと思ったわ。もちろん、あなたは嘘を付いていないでしょう。でもね、メデジンで働く店員に話を聞くとあなたたち自警団は随分と街の人たちから防衛費と称して資金を調達しているみたいね?」

そう問い質したマギーQにガイルは顔色ひとつ変えずに答弁する。

「当然だ。治安を維持するには大量の武器や防護装置が必要だ。それに俺たちが自警団として動いている限り俺たち自身まともな仕事が出来ない。そうなると生活する為の金が必要になってくる」

弁明するように訴えるガイルの表情は悪びれる事も無く、さも当然かのような表情を崩さない。

そんなガイルの表情を冷めた目線でしばらく見つめるマギーQだったが、ひとつ溜息を付き、次にレッドテールのリーダーの前まで歩み寄る。

「あなた…名前は?」

「イワン・ゴンザレスだ。イワンで良い」

「そう、それじゃあイワン。あなたの組織は随分と羽振りが良いそうね? それも店員から聞いたわよ。何でも毎晩のように酒場を入り浸っているとか?」

「そうだ。お得意さんが気前の良い人ばかりで助かっているぜ。それに俺たちが街で金を使えば、その街も潤う。皆がハッピーなんだぜ。何が悪い?」

イワンもまたガイルと同様に悪びれる様子を見せず素直に認めた。そんなイワンの言い分に黙って聞いて居られなかったのが、対立する自警団のガイルだ。

「お前たちレッドテールが俺たちの街に来てから治安が悪くなった!」

「それは違うぜ、ガイルさんよ。メデジンは俺たちが来る前から随分と過疎化が進み、街に住んでいる奴なんて数える程度しか居なかったはずだ?」

イワンの言い分に何も言い返せないガイルは悔しそうな表情を浮かべる。

しかし、イワンの雄弁は続く。

「それがどうだ、酒場や武器屋、それに俺の豪邸や倉庫などを建築する際に携わった関連会社。俺たちが金を使うようになり、メデジンは随分と栄えただろ? その証拠にこの前のイースター祭は盛大にしていたじゃねえか。それも全て俺たちのおかげだろ? 寧ろ、感謝してほしい位だぜ」

尤もな意見を並べるイワンに対し、ガイルはもう何も言い返す気力すら残っていなかった。

そんな疲弊したガイルの様子を見たマギーQが間に入る。

「その辺にしておきなさい。そもそも自警団とレッドテールの抗争だけならば、私は何の迷いも無くイワンをアマリリスに突き出していたわ。でも今回、複雑な状況を作ったのが第3の勢力であるアマリリス・南米支部よ」

そう断言したマギーQはゆっくりアウラが座る椅子の前まで進む。

「教えてちょうだい。あなたの本当の目的は何? 単に小遣い稼ぎが目的じゃないはずよ」

「どうして、そう思うのかしら?」

アウラはまるでマギーQを試すような笑みを浮かべる。

しかし、笑みを浮かべているのはアウラだけでは無く、マギーQも同様だった。

寧ろ、マギーQの方がアウラより随分と何かしらの確信を得たような笑みを浮かべている。

そしてアウラの目前まで顔を近づけたマギーQはそっと耳元で囁くように告げる。

「臭わないのよ」

「匂い?」

想定外だったマギーQの台詞にアウラの表情が自然と歪む。

「そう、私の嗅覚はちょっと特殊でね。メシア使いだけが醸し出す、甘酸っぱくも刺激的な匂いを嗅ぎ分ける事が出来るの。だから出会った瞬間にメシア使いか否か分かっちゃうのよ。でもね…アウラ大佐、あなたからその独特な匂いがしないの。どうしてかしら?」

そう告げた後にマギーQは改めてアウラの耳元で匂いを嗅ぐ。

「あなた、メシアが扱えないの?」

「テメェ、何を舐めた事を言ってんだよ! アウラ大佐がメシアを扱えないだって? ハッ!笑えねぇジョークほど虚しいモンは無いぜ」

マギーQの言葉に情景反射的に怒りを込みあげながら否定するカレンは肩を竦める。

マギーQの言葉が嘘なのか真実なのか…この場で唯一知っている当人であるアウラは目を見開き、マギーQの透き通る大きな赤い瞳を見つめる。全てを見透かしている純粋で真っ直ぐな眼差しだ。

「奴隷出身という変わった経歴だけでチヤホヤされていた訳じゃないのね。正直、あなたを侮っていたわ」

そう言うと自虐的な苦笑を浮かべるアウラはそっと椅子から立ち上がる。

「そうよ、私は生まれてから今までの間、一度としてメシアの才能が開花した事は無かったわ。生まれが貴族というだけでメシア女学園に入学させられ、周囲にバレないように栄光のクラスAに所属させられた…哀れな操り人形なのよ」

「そ、そんな…」

アウラの告白にカレンとミハエルに動揺が走る。その驚きから察して、2人にも知らされていなかったらしい。

「皮肉なものね。生まれた瞬間は私が一番上の貴族という地位だったのに、底辺である奴隷だったあなたの方が遥かに強いなんて…」

未だに自虐的に笑うアウラに同情する言葉は持ち合わせていない。

「そうなると、やはり先ほどの質問を聞かなければならなくなるわ。既に上位である貴族出身のあなたがわざわざ出世する目的が分からないわ。貴族出身の見栄とか?」

そんなマギーQの安易な憶測が気に障ったのか、アウラの表情が一瞬で曇る。

「見栄… それこそ下らないわ。それほど頭が冴えるマギーQでも想像力はあまり豊かじゃないのかしらね」

「どういう事?」

疑問符を浮べるマギーQを見て、アウラは残念そうに首を横に振る。

「そもそも貴族として生まれた時点で、何をしなくても一生遊んで暮らせるのよ。それなのに、どうしてメシアも使えない私がわざわざその事を隠してまでメシア女学園に入れられたと思う?」

先ほどの“哀れな操り人形”という発言と “入れられた”という物言いから察して、強制的だった事は容易に察しが付く。

しかし、詳しい経緯までは当然ながら今までの話しだけでは分からない。

「でしょうね。奴隷出身だと分からない話よ。単に“貴族”と一括りにされている事が一般的だけれど、そんな貴族の中にもはっきりとした階級が存在するの。

最高位の伯爵に始まり、4階級に分かれているわ。その中で最も下の男爵家系から4年周期で1名をメシア女学園に入学させ、必ずアマリリス部隊・総本部に入隊させる事が暗黙の習慣となっている。

貴族が最も重要としているのは地位なの。見栄なんて金に成らないものに興味は無い。この世界の裏側は、地位さえ保てば金は幾らでも入って来る構図が出来上がっているのだから」

「アマリリス部隊内に貴族出身の割合を多く締めれば、地位は保ち続けられる――それであなたが選ばれたのね。でも、だとしたら余計に分からないわ。やはり見栄の為に出世しようとしたのではないの?」

「はぁ~」

未だに察しの悪いマギーQに対し、アウラは長い溜息と共に、再び首を横に振る。

「まだ分からないの? 私は貴族たちに売られたの。まるで奴隷のようにね。だから、階級が貴族よりも上の階級である大将を得て、この世界の構図を根本から覆そうと試みたのよ」

「復讐?」

「私の母は庶民出身だった。だから、貴族同士の婚約しか認めない純血派の者も多く居て、私も母親も随分と陰湿な嫌がらせを受けたわ。

でもね、母は泣きたい時でも、幼い私を不安にさせないように笑いながら耐えていた。そして“誰も恨んじゃ駄目”と私に教え続けてきた――でもね、父が愛人を作り、そのまま姿を眩ませると、母も病気で亡くなった…笑ってしまう位にベタベタな不幸人生に転落よ。

ある意味ではメシア女学園に入れられたのは不幸中の幸いだったのかもしれないわね」

感情を抑え切れないアウラの話す語尾が徐々に強まる。

「それからアマリリス部隊に入隊し、あなたの存在を知った時から思う様になったのよ。いっその事、始めから奴隷として生まれ、差別されながら生きる方がよっぽど楽じゃないのか、てね」

そう言い放ったアウラの端整な顔が歪む程の形相でマギーQを睨む。予想の遥か上から批判されたマギーQは困惑する。

「そりゃあ、お門違いのご都合思想だぜ! さっきから黙って聞いてりゃあ~。姉さんは好んで奴隷として生まれた訳じゃないんだぜ!」

2人の会話に割って入るクンは逆恨みをしたアウラに対して怒りを剥き出しにする。

「いや、アウラ大佐の意見も分からないでもないぜ」

今度はアウラ大佐の肩を持つ形でイワンが割り込む。

「どういう事でい!?」

「俺は生まれてからずっと庶民だが、明日の食事が約束された日なんて一日も無いぜ? その辺、奴隷ってヤツは飼い主様が居るんだから食うのに困らないんだろ?」

皮肉を込めた笑みを浮かべるイワンがマギーQに話しを振る。

「そうね。でもその分、自由も無いわ。将来の希望も無ければ、そもそも選択肢が無い。貴族に買われるか、企業に買われるか、どちらにしても幸せなんて無いわ」

「しかし、テメェはメシア女学園に入り、有能なメシア使いになり、それなりの自由を得た」

「偶然よ。あの人との出会いが無ければ、今頃どこかの貴族に買われて、何をさせられていたのか…想像も付かないわ、本当に…」

寂しげに話すマギーQの言葉に皆は静まり返る――

マギーQ、アウラ大佐、ミハエル、カレン、クン、ガイル、イワン――

この部屋には7人しか居ない。

それなのに様々な立場から、様々な意見の相違から虚しいまでの争いが発生する。

ならば、この数千万人が共存する世界の中から争いが絶えないのは当然の結果なのだろう。寧ろ、争いの無い世界の方が不自然に思える。

それは何となく、感覚的に理解していた事だった。

そんな事を考えていると人間が如何に愚かな生物かと思え、マギーQの表情から自然と笑みが零れると沈黙を破るように話を再開する。

「皆の立場が分かった所で、ここからが本題なのだけれど、このまま不毛な争いを続ける事に終止符を打ちたいと思わない?」

笑みを垣間見せながら話すマギーQの言葉に対し、皆は冗談だと受け取り一瞬だけ部屋が和む。

「もちろん、本気でね」

念を押すように語尾を強めたマギーQの言葉に和んでいた部屋が一気に凍りつく。

「姉さん、何を言い出すんすかい!?」

驚いたのはクンだけでなく、ここに居る誰も同様で、マギーQの言葉に耳を疑う。そんな皆が困惑する雰囲気を察しながらもマギーQは話しを続ける。

「時にミハエル。北中米支部から護送された人たちは元気にしているかしら?」

「護送…老いた賞金首たちの事かしら? 元気にしているけど…何故、今その話しをするの?」

首を傾げるミハエルを見てマギーQが思わせぶりな笑みを漏らすが、それ以上の言葉を添えずに話題を切り替える。

「ねぇ、ガイル。自警団よりも、もっと誇れる仕事に就きたいと思わない?」

「誇れる仕事だと?」

もはやマギーQの言葉は何を指しているのか、ここに居る誰もがその意図が全く読み取れなかった。そんな皆の困惑した表情を楽しむようにマギーQはあえて返事をせず、次にアウラに話題を切り替える。

「唐突だけど、アウラ大佐、今からでも大将の称号が欲しくない?」

「大将を!? あなたは本当に何を企んでいるの?」

「おいおい、ついにイカれちまったのか? 本当に何を考えてんだよ?」

疑問を無暗に深めるマギーQの言葉に溜まらずカレンが苛立ちを露わにしながら抗議する。

「そうね、誰もが想像しない発想を持たなければ、この不毛な争いに終止符は打てないわ。だからお願い、私の妄想に協力してちょうだい!」

マギーQの言葉にミハエルが根本的な質問を投げ掛ける。

「あなたは正義の味方なの? それとも悪者なの?」

「本当の意味でこの世界に正義なんて無いわ。あるのは自分たちに都合の良い組織。または自分たちに都合の悪い組織だけよ。それを聞き心地の良いように正義と悪に置き換えているだけなの」

マギーQが冷静な思考と判断力を保っている事は確認できた。

「分かったわ。それで、これからあなたは何をするつもりなの?」

アウラが皆を代表して承諾し、マギーQの言葉を待つ。

皆に注目されたマギーQは不敵な笑みを浮かべ、

「本来は大義や名分があってこその行為なのだろうけれど、今回は私のわがままで造らせて貰うわ」と真剣な眼差しで皆を見渡しながら前置きし不敵な笑みを浮かべる。

「ここ南米支部を拠点として西アメスト共和国から独立し、新たな国家を設立するわ!」

皆が揃って驚きの表情を浮かべながらマギーQの顔を見るが、その表情は何も変わらぬ真剣そのものだ。

「姉さん、流石にそれは…」

この中で唯一マギーQの味方をし続けていたクンでさえも、流石に今回のとんでもない提案には素直に賛同できなかった。そんなクンに釣られる形で皆も同様に困惑と不安の表情を浮かべる。

「確かに、あなたのメシア・デュラメンテがあれば南米全域を治める事は可能だと思うわ。でもアマリリス部隊・総本部が見逃す訳がない。恐らく、すぐさまアマリリス・総本部のメシア使いが大勢で出向いて来るわよ。そうなると、流石のあなたでも…」

アウラはすぐさま現実に起こり得る問題を述べた。

「そうね。だからこそ、今後は緻密な計画を練って進めて行きましょう」

自信に満ちたマギーQの表情にアウラは微かな希望に靡かされる。

「何か良い考えがあるのね?」

「そうよ。まずはこの南米全体にある原子炉を立ち上げるわ」

「原子炉を!?」

南米支部には西暦時代に使用されていた原子炉が3基ある。しかし、TVの襲来で避難する際に停止して以来、原子炉は1度も稼働していない。

「そう、電力を復旧させた後に工場を稼働させ製造業の全般を復活させるわ。もちろん、アマリリス・総本部には悟られないようにね」

停止して60年以上は経っている。それを今から立ち上げて、まともに起動するのか怪しいものだ。それに…

「姉さん、そりゃあ随分と無茶な計画でっせ! そもそも原子炉なんて専門家でも居ない限り、稼働準備さえ出来ませんぜ?」

動揺するクンはすぐに現実的な問題を述べる。原子炉というよりも核燃料に関する根本的な知識を持った者が居ない。人口が減少したAC時代には無縁の長物だ。

仮に専門家を探すとなると60年前の西暦時代を知る人間から探さねばならない。

「問題ないわ。この牢獄に専門家が待機しているわ」

「牢獄って… まさか!」

先ほどミハエルに言ったマギーQの台詞と今の台詞が繋がった。

「まさか、お前が捕まえたのか?」

「そうよ。紹介が遅れたわね。彼らは西暦時代に原子炉で働いていた専門家たちよ」

マギーQは安易に老人たちを捕まえた訳では無かった。しかしマギーQ本人も始めは何を目的で捕まえたのか分かっていなかった。

全てはクリストファー教諭が残した手紙の指示通りに。クリストファー教諭が予め描いていたシナリオ通りに進んでいたようだ。

「電力はそれで何とかなるとして、工場を稼働させて何を造るんだ? 需要はあるのか?」

ガイルの疑問に皆も頷く。

「まずは船を造るのよ。この西アメスト共和国で主食は魚」

TVは家畜だった牛や豚、鳥などに寄生したが、何故か水の中に居た魚には感染しなかった。その為、AC時代が始まって以来、アマリリス部隊は家畜を飼育する事を全面的に禁止している。そうなると必然的に食材は魚と野菜が主流になってくる。

「当面の食材を確保するのね。それで船大工も牢獄に居るの?」

「いいえ、でも彼は船の設計士だと言っていたわ。魚をたくさん捕る為に船を造るの。食べ物があれば飢えは凌げる。当面の時間は稼げるわ」

マギーQの計画に異議を唱えようとする者は既に誰も居なかった。

「だが、時間を稼ぐって事は、その後に何かするつもりなのか?」

カレンはマギーQの計画に興味を抱き始めていた。積極的に今後の計画について尋ねる。

「そうね、出来ればアマリリス部隊・総本部に居るアウラ大佐と同じような思想、即ち、貴族制度を嫌っている人物を密かにこちら側に寝返させるように仕向けたい所ね。まぁ、その為には総本部の情勢を詳しく調べる必要があるのだけれど…」

そう言ったマギーQは顎先に手を添えて悩む仕草を取る。

「どうやって?」

首を傾げるアウラに対し、マギーQは待っていたとばかりに笑みを零す。

「恰好の素材があるじゃない。嫌われ者の貴族を利用しましょう」

不思議と納得出来る提案だ。アマリリス・総本部の特に幹部クラスになると半ば強制的に政略結婚させられる者も多く、それを良く思わない者はそれ以上に存在する。

「ならば、新たな国家では貴族制度の撤廃でも掲げるか?」

カレンの冗談交じりに出した提案にマギーQは笑顔で応える。

「決まりね。後は…」

――リンリンリン… リンリンリン…

話しは盛り上がっている最中、スピーカーから呼び鈴のような音が鳴り響く。

「何だ、こんな時に…」

不機嫌な表情を浮べながらカレンが部屋を出てすぐの場所に設置されている通信機で連絡を取る。

そのやり取りが支部長室の中まではっきりと聞こえて来る。

『何だ? …あぁ… 何っ! 分かった。すぐに伝える』

通信を終えたカレンが冴えない表情を浮べながら支部長室に返って来た。

「どうかしたの?」

カレンの表情に釣られてアウラの表情も自然と曇る。

「報告によると、北中米支部にもう一人のQが訪れたらしい。何でも、賞金首の情報を聞きに立ち寄ったらしいぜ」

「それって、まさか?」

――やっと動き出したのね。もっと早く私を追って来ると思っていたのだけれど…

「どうするの?」

アウラが不安そうに指示を仰ぐとマギーQは不敵な笑みを浮かべる。

「さて… あの子は、敵か味方か。或いは――」



メリダに滞在して3週間――

サラサQたちは酒場の近くにある宿に長期滞在し、毎日のように酒場へと通い続けた。

しかし、マギーQに関する情報は一切入って来ない。

そんな中、アマリリス部隊・北中米支部に行っていたミユキHが3通の手紙を携えて帰って来た。

「メシア女学園からの返信が届きました。それとルーチェルA個人宛てに手紙が届いていたそうです」

「僕に?」

「はい、それとサラサQ宛てにも手紙が」

そう言いながらミユキHがそれぞれに手紙を渡す。

「このタイミングで3通の手紙かい? 偶然にしては怪しいね」

不審感を抱きながらもルーチェルAはまずメシア女学園から届いた手紙を開ける。


~~~メシア女学園より新たな命令~~


先日、マギーQに関する新たな情報が入りました。

マギーQはアマリリス部隊に反旗を翻し、新たな国家を設立しようと活動を行っている模様です。

決定的な証拠が入手され、現在マギーQを国家反逆罪で指名手配されています。

あなたたちは今後もマギーQを追い、可能な限り強制送還するように務めてください。

尚、どうしても連行に従わない場合は殺しても構いません。

何としてもマギーQによる新国家設立を阻止するようお願いします。


メシア女学園・学園長 メアリー


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…これは …本当かな?」

随分と急展開な内容にルーチェルAは困惑の表情を浮かべながらサラサQに手紙を渡しながら尋ねる。

「どういう事だ?」

手紙を受け取ったサラサQも手紙に目を通す。

「僕はマギーQについて何も知らない。そこで参考までに聞きたいんだけど、彼女はこんな大反れた計画を立てるような無謀な性格なのかい?」

改めて質問するルーチェルAに対し、サラサQはしばらく手紙を読むでもなく眺める。

「分からない… この手紙が偽りである可能性は無いのか?」

「それは無いだろ、この手紙に記されている印は正式な学園長の印だ…」

「考えても仕方がないか、それじゃあ、他の手紙は何が書いてある?」

手紙に関する疑いを一掃するミーアAが個人宛ての手紙に関心を示す。

「これは…ユーフェミアAからだ。近況報告かな?」

そう言いながらユーフェミアAの手紙を取り出して読み始めたルーチェルAの表情が徐々に険しくなる。

「何か悪い事でも書いているのですか?」

不安そうに尋ねるミユキHにミーアAもサラサQも顔を顰める。


~~~親愛なるルーチェルAへ~~~


この手紙をあなたが読んでいる頃、私たちクラスAは既にメシア女学園に居ないでしょう。

それは学園長から極秘にアマリリス部隊に関するある情報を得たからです。

詳しい事は会ってから話しますが、私はこれからクラスA全員を連れてあなたたちと合流する為にプログレソを目指します。

あなたたちはメリダから動かず私たちの到着を待っていてください。


ユーフェミアAより

~~~~~~~~~~~~~~~~~


「一体、学園で何があったんだ? それに学園外に出るということは、TVに感染した家畜に出くわす可能性もある。幾ら、クラスAが7人居るとは言え、恐らく敵わないぞ」

ルーチェルAとミーアAは同じクラスAの危機に心配を覚える。

「う~ん… この内容が正しければ、先ほどの手紙は偽りの可能性も生まれてくるね…」

先ほどの手紙に対する疑いに皆が沈黙する。

「ここで心配していても仕方が無い。それよりサラサQの手紙は誰からだい? 内容次第で学園の状況が分かるかもしれないよ」

ルーチェルAの言葉にサラサQは持っていた手紙の差出人を確認する。

「…マギーQだ」

「何だって!?」

意外な差出人に皆が驚く中、サラサQは手紙を出して読み始める。


~~~クラスQの誰かさんへ~~~~~

あなたがクラスQの誰なのかまでは分からないのだけれど、私を探しているあなたに直接会って話しをしたいの。

メリダ北部にあるメデジンという町で待っているわ。

よろしければ、同行している皆さんもご一緒に。


クラスQ 元リーダー・マギーQより


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「まさか、指名手配中のマギーQから呼び出しが掛かるとは…」

驚くミーアAは困惑を深める。

「サラサQ、どうするんだい?」

ルーチェルAの問いに少し悩むサラサQだったが、結論というよりも選択肢は限られていた。

「この文面からして、マギーQはまだ私が来ている事を知らないようだ。ただ、クラスQの誰かという事だけ情報が入っている状況だが…」

悩むサラサQに対し、ルーチェルAがそっと口を開く。

「もしも、マギーQと出会ったとして、最悪の場合、クラスQ同士の戦闘になる可能性も否定できないよね。そうなると、クラスQ同士の戦闘に僕たちが加勢しようとしても足手纏いにしかならない」

ため息交じりに情けない表情で微笑むルーチェルAは横のソファーに座っているミユキHに尋ねる。

「ここからメデジンまで、どのくらいの距離があるんだい?」

「はい、え~と… 確か、30kmも無い場所だと思いますけど?」

ミユキHは思い出すように宙を眺めながら答える。

「分かった。そじゃあ、私は適当に車を探して一人でメデジンに向かうよ。お前たちは他のクラスAと合流しなよ」

サラサQの意見を聞いたルーチェルAは一度だけ深く頷く。

「そうだね。今はその選択肢が最善そうだ。合流後は再びこのホテルに戻って来るよ。だからサラサQも…」

不安そうな表情を浮かべるルーチェルAに対し、サラサQは笑みを向ける。

「分かった。またここで落ち合おう」

「サラサQさん。ご武運を」

ミユキHもルーチェルAと同様に不安そうな表情でサラサQの手を強く握った。

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