BLOOD STAIN CHILD ~Valentine's Girls~
放課後の調理室は、週に一度のクラブ活動で子供たちの声が引っ切り無しに響き渡っていた。
「ねえ! ミリアちゃん、ちょっとそこ、押さえてて!」と、興奮から顔を赤らめて叫んだのは美桜である。ミリアもその声に押されて、慌てて美桜が流し入れようとするボウルを全身の力量でもってしっかとテーブルの上に押さえつけた。
「……きゃあ、どろっどろ。」ミリアは美桜のボウルから流れて来るチョコレートを凝視する。
「……でも、冷蔵庫に入れたらすうぐ、固まっちゃうから。早いのよ。」
「そしたらちゃんとチョコになるの?」ミリアは不安気に問うた。
「うん。前ママと作った時、あっという間に凍っちゃったもの。」
美桜はようやくチョコレートを注ぎ終えると、ふうと肩を落とし、「ねえ! どの型使う?」と、スヌーピーの巾着袋からガチャガチャと銀色のお菓子用の型をテーブルの上にあけた。
「ミリアちゃんの好きな猫ちゃんもあるし、私の好きなワンちゃんも……。後はね、バレンタインだからハートもあるし、星形もあるでしょ……。うさちゃんにクマちゃん、これなんて馬!」美桜は丁寧に一つ一つ手で取りながら説明をしていく。ミリアは大きな眼でじっとそれらを見詰めながら、逐一何度も肯いた。
「私はねえ、どれにしよっかな。そうだ。……ハートにして、さ。」美桜はこっそりミリアの耳元で囁きかけた。「一年三組の及川先生にあげよっかな。」
「えええ!」ミリアは口許を抑え後ずさった。
ふふ、と小首を傾げて美桜は微笑む。「だって、だって、カッコいいじゃん! 大人っぽくて! 始業式の時、校長先生から今年大学出たって紹介されてたから、……22歳か23歳なの、きっと。大人!」
ミリアは口をぽっかりと開けたまま、息さえ止めていた。
「……何、そんな顔して。」
ミリアは慌てて口を閉じ、頻りに瞬きを繰り返した。
「……み、美桜ちゃん、……及川先生、好き、なの?」
美桜はバシンとミリアの肩を叩き、腹を抱え出した。「やだー! 恥ずかしい! そんなこと言わないでよ!」
しかしミリアはそれで察したのである。我が同い年の親友は、恋をしているのだと。昨今クラス内では「お付き合い」なるものも流行っていた。ミリアはそういうことにかけては疎い方であったが、どういうことをするのか話には聞いていた。どこかの公園で一緒に遊んだだの、誕生日プレゼントをあげたのもらっただの、「お付き合い」をしている子たちはそんなことに休日を費やしているようなのである。美桜もそういうことを及川先生としたいのだろうか――。
「ミリアちゃんは、お兄ちゃんにあげるの?」美桜は顔を真っ赤にしたまま慌てて話題を逸らした。
ミリアは当然だとばかりに大きく肯く。調理クラブの顧問より来週はチョコレートを作る、と告知されたその瞬間からミリアの脳裏にはリョウに渡すことしか考えていなかった。だから今朝だってさんざ「今日は特別にいいものをあげる」と宣言してきたのである。
美桜はにっと口角を上げて笑うと、「私決めた。ハートにする。大人にあげるから、ハート。」
「ミリアも! ミリアも、大人にあげるの!」ミリアも突き動かされるように言った。
「一緒だね。」美桜はそう言ってくつくつ笑うと、もう一度テーブルの上で山を成している型に目を遣り、二つの大きなハートの型を取り上げた。「よし。じゃあ、今日は自分のじゃないから猫ちゃんとかワンちゃんは、やめよう。これ、ね。」
ミリアは満面の笑みで大きなハートの型を受け取った。これに、先ほど溶かしたチョコを注ぎ入れれば完成するのだ。ミリアはそれを思うと、もう、くるしいぐらいに嬉しかった。
「そーっと、そーっと入れてね。溢れないようにね。」美桜がテーブルに頬をくっつけて熱心に真横から言った。
「まだ大丈夫? いっぱいにならない?」そう尋ねるミリアの手は不安からか細かく震えている。
「大丈夫、大丈夫。あとちょっとだから、頑張って!」
ミリアは息を止めてボウルから型へとチョコを流し込んでいく。既にその隣には美桜のハート型が完成している。ミリアはえい、とお手本を睨むように見つめ作業を続けた。
「よし、そこでお終い!」
ミリアはそう叫ばれ、びくりと肩を震わせて手を止めた。
ボウルをそっと隣に置き、つやつやとしたその表面を眺めながら、ミリアはうっとりと息を吐く。
「綺麗。」
「売ってるやつみたいよ!」美桜も興奮気味に騒ぎ立てる。「……先生! できました! 冷やしてくださあい!」美桜が挙手をしてテーブルを回っていた教師を呼んだ。教師は笑顔で美桜とミリアのテーブルへとやって来て、二つのハートのチョコレートを調理室の奥へと運んで行った。
美桜とミリアは知らぬ間に手を取り合って、教師の後姿を緊張しながら見守っていた。
一通り片づけを済ませると、チョコレートが固まるまで、美桜は熱心にピンクのチョコペンでチョコに書き入れる文字の練習をしていた。その見慣れぬ英語にミリアは首を傾げた。
「……それ、何て書いてるの?」
美桜はにっこりと微笑み、「あのね、LOVEって書いてるの。」と言った。
「ラブ?」
「そう。大好き、ってこと。」
ミリアは目を丸くする。
「チョコに、大好きって書くの?」
「そう。そうしたら大好きってわかってもらえるでしょ?」
ミリアはごくり、と生唾を呑み込むと「ミリアもLOVEって書いていい?」と枯れた声で言った。
「いいよ。」
そっとチョコペンを手渡され、二人で丁寧に練習を重ねる。
「相原さん、黒崎さん、チョコ固まりましたよ。取りに来て下さい。」
調理室の奥からそう呼ばれ、二人は幾つものLOVEを目に、弾けるように立ち上がった。
「うわあ、カッチカチ!」ミリアはつんつんとその表面を突き、よく知っているチョコの状態になっていることを確認してそう賛嘆の声を上げた。
「ね、言ったでしょ?」
「そしたら、」ミリアは一息置いて「ラブって書く?」恐る恐る尋ねる。
「うん。」美桜はそう肯くと、ピンクのチョコペンを手に、腕まくりしながらそっとチョコの前に屈んだ。ミリアも息を止めてその様を見守る。
調理室の騒がしさがどこか遠くに吸い込まれて行くように思える。教室の喧噪も熱気も、二人の世界からは完全に追いやられた。美桜は集中してチョコレートに大きくLOVEの文字を書き記した。
「……美桜ちゃん、上手。」ミリアは羨望の眼差しでそれを眺めた。
「はい、次はミリアちゃんの番だよ。」
ミリアは大きく肯いて、美桜のチョコを自分のそれの奥に並べて置き、何度も視線を上下させながらチョコペンで緊張の一点を落とした。
――リョウはこれを見たら、英語が書けるなんてミリアは凄いな、賢くなったな、と褒めてくれるかもしれない。それにリョウはチョコレートが作れるなんていうことも知らないに違いない。自分が作ったと言ったらきっと驚くだろう。ミリアは大きくなったら料理上手になるな、そしたら自分のお嫁さんにしたいな、などと言われてしまうかもしれない! ミリアはそう思い立ち、この上なく嬉しくて叫び出したくさえなった。
「ミリアちゃん、ち、違う!」咄嗟に耳元で叫ばれミリアはふと我に返った。LOVE、と書こうとしていたその文字はLOOと続いてしまっていた。ミリアはハッとなってチョコペンを手から落とした。
「間違えちゃった……。どうしよう。どうしよう。」
さすがの事態に美桜も暫く言葉がなかった。
「ねえ、美桜ちゃん、これでも大好きって意味になる?」
美桜は哀し気に俯いて、それから意を決して首を横に振った。「ミリアちゃん、LOOは、おトイレって意味だよ。」
「おトイレ!」ミリアは思わず顔を覆った。
美桜は顔を顰めて慌てて教師の所へ走っていく。「先生すみません、チョコもう一回作ってもいいですか。あの、その、……デコレーションを、間違えちゃったんです。」
教師はチョコの付いたボウルを洗いながら「残念だけれど、もうお片付けの時間よ。あと十五分で調理室を締めなければいけないから。」困惑した表情で言った。
美桜はどうしようと下唇を噛み締める。そして再びミリアの元へやって来ると、「ミリアちゃん、こっち、あげる。チョコ交換しよ。」と慰めるように言った。
ミリアは俯いたまま潤んだ瞳を瞬かせると、「だめだよ。だって、それは及川先生にあげるんだから。」
「ううん、いいの。やっぱやめる。だって私、及川先生としゃべったことないし。」
「でも、美桜ちゃんさっき及川先生にあげるって言ってたもん。それは美桜ちゃんのだもん。」ミリアは自分のおトイレを意味することになってしまったというチョコレートを前に、肩をがっくりと落とす。
「さあ、皆さん、包み終わったら割れないようにそっと持って帰って下さいね。」何も知らぬ教師の声が朗々と響き渡る。生徒たちは口々に「はあい。」と返事をし、最後のラッピングを仕上げていく。
ミリアは何度も瞬きを繰り返し、意を決したように美桜に向き合い、「……ミリアが、ちゃんと集中してなかったから、間違えちゃった。」と呟くように言った。
ミリアはそのまま無言で配られたピンクの包装紙にそっとLOOと書かれたチョコを包み、それをランドセルに入れた。
美桜は深々と溜め息を吐きながら自分のチョコを包み、同じくランドセルに入れた。
――なんてことをしてしまったのだろう。……自分が英会話教室に通っていて、少しぐらい英語ができるからといって、それでどこか凄いでしょうという気があって、それを見せつけたからこんなことになったのだ。ミリアちゃんに自慢したから、ミリアちゃんを羨ましがらせ、慣れぬ英語を書かせて間違えさせてしまったのだ。自分のせいだ。
美桜はそう思うと何と声を掛けたらいいのかもわからず、調理室から追い出されるようにして、そのままミリアととぼとぼと歩きながらお互いほとんど無言で帰途に着いた。
寒風が美桜の二つに結ったお下げ髪を揺らす。美桜はちら、と隣を歩くミリアの横顔を見た。長い睫毛が影を落とし、目はうつろに見えた。
ミリアのアパートが近づいて来る頃、「……ミリアちゃん、ごめんね。」美桜は呟くように言った。自分が英語のできることを自慢したから……。しかしそう言い出すことはできず、口を噤んだ。
「美桜ちゃんは悪くない。ミリアが馬鹿で、失敗しちゃったのが、悪いの。リョウにあげたら喜んでくれるかなって、そんなことばかし、考えてたから……。」ミリアの声はもう隠しようのない泣き声になっていた。
「でも……字は、上手に書けてたよ。」美桜は何の慰めにもならぬことを熟知しながら、でもそう言わずにはいられなかった。
ミリアも納得したというよりは、そうせざるを得ないという義務感に駆られて小さく肯く。――幾ら上手な字だって、おトイレなんて書いてあるのを、美味しいと言って食べてくれる人はいない。いくらリョウだって……。
ミリアは足元が滲み出したのと同時に、これ以上美桜といたら美桜を無駄に責めてしまうことになると思いなし、「じゃあね、また明日ね!」とアパートの百メートルも前から一目散に走り出した。走り出すと同時に涙がやはり溢れ出してきた。ミリアは目を擦り擦り、アパートの階段を駆け上った。
英語で書いた美桜のそれが羨ましく、意味もろくにわからないのに真似をした罰が当たったのだとミリアは思った。――端から格好つける必要なんてなかったのだ。リョウは自分が勉強が不得手なのも、片付けが苦手なのも、学校への提出物を忘れてしまいがちなことも、全部何だってわかっているのだし、今更気取る必要なんてひとつもないのに、美桜のように英語ができたらリョウは賢くなったと褒めてくれると、そんなずるいことを考えたから罰が当たったのだ。ミリアは自分の浅はかさが悔しくてならなかった。それでおトイレなんて書いてしまったのだと思うと、遂に泣き声がわあわあと口から溢れ出した。ランドセルから家の鍵を取り出し、部屋を開ける。すると既に部屋は開いていた。
「おお、ミリアお帰りー。」奥からリョウの声がする。ミリアは思わず玄関先で立ち止まった。手のひらで顔を拭い、どうにか泣いていたことを知られまいと試みる。でも手がべたべたになるばかりで、ミリアはすっかり泣き終えることには成功したものの濡れたままの顔をどうすることもできず、焦燥に駆られてきた。
「おい、なあにやってんだー。」
いつまでも入ってこないので、リョウがひょいとリビングから顔を覗かせる。
「どうした?」リョウはそう言って顔を顰めた。あっという間に気付かれてしまったのである。
ミリアは言い訳を必死になって考え始めた。とてもではないが、リョウに手渡すチョコレートに大好きと書こうとして間違えておトイレと書いてしまって泣いていたなどとは言えない。
「おい、ミリア、誰かにいじめられたんか? それともどっかのクズ野郎に手出されたんか? どうしたんだ! 言え!」リョウが鬼の如き形相で迫り、ミリアの肩を激しく揺さぶった。
「……い、いじめられてない。」ミリアはどうにか声を絞り出す。
「じゃあ、帰り道でどっかのクズになんかされたのか? ああ?」
「み、み、美桜ちゃんと一緒に帰って来た。だいじょぶ。」
リョウは情けないような顔になると、「じゃあなんでお前、泣いてんだよ。」と問うた。
ミリアは俯いて押し黙る。
「学校でなんかあったんか?」
ミリアはたしかに「なんか」と言われればあったのだと答えなければならぬと思うが、しかし言い出せぬのである。
「なんもない。」ミリアはリョウの手から抜け出すように身を捩った。
「美桜ちゃんと喧嘩でもしたんか。」
ミリアは慌ててぶるぶると顔を振る。「仲良し。美桜ちゃんと、すっごい仲良し。」チョコがすぐ固まる性質であるのも、英語の意味も教えてくれた。
「……そっか。」
リョウは困惑したように、ミリアのランドセルを取ってやる。その時、中からカタカタと音がした。ミリアはぎくりとしてランドセルを引っ手繰ってそのままリビングに走り込んだ。
鈍感なリョウも、今朝ミリアが盛んに捲し立てていた「特別にいいもの」の存在を思い出す。――何が特別だ。バレンタインデイを来週に控えたクラブの日に、エプロンと三角巾を持ってくることというメモを、こればかりは学校からのお知らせなんぞ悉く忘れてしまうミリアが数日前から毎朝暗唱すべく机の前に貼って準備していたのだ。学校からのプリントは大抵どこかにやってしまうか、ランドセルの奥でぐちゃぐちゃになっているのに、こればかりは格別なのがリョウは可笑しくてならなかった。
「そういや、お前、今日俺に『特別にいいもの』くれんじゃなかったの?」リョウは知らんぷりをしながら聞いてみた。
ミリアはぎくりと肩を震わせ、何てことを言うのだとばかりに目を丸くしてリョウを見上げた。
「そ、そ、それは……。」ミリアはランドセルを背に庇うようにして、後ずさる。「あの、また、今度ね、……今度。」
リョウはクラブで何かがあったのに相違ないと確信する。「そっかあ。残念だな、今日なんかいいモン貰えると思って、それ楽しみにして早く帰ってきたんだけどなあ。」
「……そう、なの?」ミリアは泣きそうになりながら、今度はリョウの所に恐る恐る近づいてくる。そのままリョウの腰にしっかと手を回し、顔を押し付けるようにして抱き付いた。
リョウはその小さな頭に掌を置くと、「どうしたんだよ、一体。何でも言ってみろよ。」と言った。ミリアの引っ掴む腕の力が一層強まる。顔を腰に押し付けて、ミリアは泣いていた。ジーンズ越しでもわかる熱い涙が、ミリアの悲しみを如実に語っていた。
「何だ、調理クラブで失敗でもしたんか……。」
ミリアは喉の奥からああ、という絶望の響きを漏らした。
「そんなの気にすることねえじゃねえか。俺だってよお、ライブで失敗は腐る程やってきたぜ。失敗っつうのはなんつうか、……人に等しく与えられた権利みてえなモンだからよお、そういうのを繰り返して人は成長していくモンなんだよ。いちいち気にしてたらもたねえぞ。これからだって失敗なんがゴマンとあんだからよお。」
ミリアはうわあ、と声を挙げながら頭を上げた。リョウは苦笑を浮かべながらしゃがみ込み、ミリアを抱き上げる。
「何やったんだよ。」
「嫌いになんないで。嫌いに……。」ミリアはわあわあと泣き声を上げながら盛んに捲し立てた。
「ああ、そりゃあ大丈夫だ。兄妹っつうモンはくだらねえことで嫌いになんねえんだ。」リョウは一体何が起きたのだろうと最早楽しくてならなくなり、部屋の隅に置かれたランドセルを開けて、中からピンク色の包装紙を取り出した。それに気づいたミリアが腕の中で更に喚き立てる。
「おいおい、暴れんなよ。……随分綺麗な包み紙じゃねえか。これ、俺にくれるんじゃねえの?」
ミリアは最早何をどう言っていいのかわからず、「大好きって書きたかったの! でも間違えちゃったの!」と叫んだ。「本当は大好きなの! 英語で大好きなの! 美桜ちゃん言ってたもん!」
「そりゃあ嬉しいな。」リョウはそう言ってミリアを抱き抱えたまま、ピンク色の包装紙をそっと外した。中から出てきたのは――LOO。
「おトイレになっちゃったの!」
リョウはさすがにぶっと噴き出した。
「考え事、してたら! 丸二つ書いちゃったの! 本当は大好きだったの!」ミリアは両の拳でリョウの背を幾度も叩いた。
「あっはははは! ……でも、旨そうじゃねえか。食っていいんだろ?」リョウは返事も待たで、大きなハート型のチョコレートにかぶり付いた。「おお、旨いな。こんなの作れるなんて、大したもんじゃねえか。お前は大きくなったら料理作る人になったらいいかもしんねえぞ。」
ミリアは自分の想像していた通りの言葉をリョウが言ってくれたことで、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「ねえ、そしたら……、ミリアが料理得意んなったら、お嫁さんにしたい?」
リョウはミリアを思いのほか早々に泣き止ませることができたので、得意である。もしかしたらこう見えて父親としての才があるのではないか、などとさえ思って自惚れている。
「おお、そうだな!」ほとんど何も考えずに答えた言葉で、ミリアの世界は突如輝き始めた。百万の星々に彩られ、全てが美しく照り出す。
――料理を頑張って、いつか必ずリョウと結婚をしよう。美味しい料理を作って、リョウをずっとずっと喜ばせてあげよう。
ミリアは愛おし気にリョウの首に腕を回した。
リョウは「マジで旨えな。」と言いつつチョコレートを半分も食べ切り、「お前も食うか?」と尋ねた。
ミリアは首を横に振る。そんなことはもう、どうでもいいのだ。自分は将来、リョウと結婚をする。それだけで胸はいっぱいであった。
「おトイレ」と大書きされたチョコレートはすっかりリョウの腹に収まり、リョウはミリアをソファに下すと満足げにギターを弾き始めた。ミリアはこの時間がこれから永遠に続いていくのだと確信をして、顔を覆っていつまでもくつくつと笑い続けていた。