流行りの異世界召喚習作(続きはないです)
続きは多分ないです、今のところ書くつもりは皆無です。
発掘したものの供養。多分未完を含めた作品の中では処女作
見渡す限りの青。
瑞々しさすら感じられる晴天は、葉の一つも舞っていなかった。いや、青というのは色があるからこそ見えるのだ。
低くても変わらぬ空、しかしその下に真一文字を描いて、白銀の雪世界が広がっていた。
「ここは、どこだ?」
少年の口をつくのは単純な疑問だ。
自分の所在が分からない。それは即ち、世間としての居場所を失くしたことと同義である。
ひゅう、と、一吹きの風と共に不安がせり上げてくる。
元の場所に戻りたい。そんな保守的な帰郷願望は、過去の記憶を探る程に強まっていった。
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少年の家庭は、比較的に裕福だ。しかし何一つ不足などない環境であろうと、人は不満を覚えるものである。
少年の不満は充足そのものだった。だが、溢れんばかりの娯楽を片っ端から試しても、充足以上に満たされる事はなかったのだ。
更なる刺激が欲しくなった少年は友人に、いわゆる肝試しをしようと唆された。曰く付きの神社裏の洞穴を探検しよう、と。
「私は鳥居で待ってるね」
少年は、その友人に思慕を抱いていた。実は今日ばかりではなく、過去に何度も彼女から刺激を受けていたのだ。
ある時は泥にまみれ、ある時は水を浴び、火に炙られる。少年にとって享楽の供給源である彼女に、段々と依存していった。
だから、今日も彼女の言う通りにする。当然だ。彼女と遊ぶと間違いなく楽しい。
明らかに日常とは乖離した彼女の遊びに参加したのは、実に五年前だ。神社で出会い、初めて彼女に声を掛けた、小学三年生の時分だった。
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改めて見廻しても、やはり白銀の光景は変わらない。徐々に体温が奪われていくのを、風の刺す痛みと共に感じていた。
このままでは凍死する。そう考えると、にわかに焦燥感がせり出てきた。
「人を探さないと……」
本来なら、口で息をする事すら禁忌な状況。だが独り言でも発していないと、孤独に呑まれて気がおかしくなりそうだ。
歩を進める度に、粉を潰すような不快音が響く。それに苛つきながら、しかし呼吸を乱す訳にはいかないのを内心理解し、早歩きを努めていた。
どれくらい歩いただろうか。最早皮膚の感覚は殆ど消えて、奇妙な熱を感じる程進んだ先に大きな集落を見つけた。
奇跡だ。吹雪いてもいないのに方向感覚を失う妙な景色から、生還したのだ。露骨に安堵を覚えると、集落の入り口を見つけ、何故か開け放しの門をくぐった。
――っ!? おかしい。門をくぐった直後から、まるで空気を割ったように暖かい。
咄嗟に身を引くとまた極寒である。意を決して集落に入り直す。やはりまた異常な気温の変化を感じるものの、危険はなかった。
しかしこの現象は、先に感じていたはずの安堵を遠ざけるものであった。何故なら、安堵の正体は帰郷願望から来たものだったからである。
人のいる場所に辿り着けば、せめて帰路が見つかるはず。そんな儚い希望は今、粉々に砕かれた。
常識的に考えて、気温が分かれるなんてあり得ない。つまり今いるこの場所は、現代ではないのだ。
帰れない。それだけの事実が、超常現象をもって如実に象徴されていた。