表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

流行りの異世界召喚習作(続きはないです)

作者: 結雪天綺

続きは多分ないです、今のところ書くつもりは皆無です。

発掘したものの供養。多分未完を含めた作品の中では処女作

 見渡す限りの青。

 瑞々しさすら感じられる晴天は、葉の一つも舞っていなかった。いや、青というのは色があるからこそ見えるのだ。

 低くても変わらぬ空、しかしその下に真一文字を描いて、白銀の雪世界が広がっていた。


「ここは、どこだ?」


 少年の口をつくのは単純な疑問だ。

 自分の所在が分からない。それは即ち、世間としての居場所を失くしたことと同義である。


 ひゅう、と、一吹きの風と共に不安がせり上げてくる。


 元の場所に戻りたい。そんな保守的な帰郷願望は、過去の記憶を探る程に強まっていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 少年の家庭は、比較的に裕福だ。しかし何一つ不足などない環境であろうと、人は不満を覚えるものである。

 少年の不満は充足そのものだった。だが、溢れんばかりの娯楽を片っ端から試しても、充足以上(・・)に満たされる事はなかったのだ。

 更なる刺激が欲しくなった少年は友人に、いわゆる肝試しをしようと唆された。曰く付きの神社裏の洞穴を探検しよう、と。


「私は鳥居で待ってるね」


 少年は、その友人に思慕を抱いていた。実は今日ばかりではなく、過去に何度も彼女から刺激を受けていたのだ。

 ある時は泥にまみれ、ある時は水を浴び、火に炙られる。少年にとって享楽の供給源である彼女に、段々と依存していった。

 だから、今日も彼女の言う通りにする。当然だ。彼女と遊ぶと間違いなく楽しい。


 明らかに日常とは乖離した彼女の遊びに参加したのは、実に五年前だ。神社で出会い、初めて彼女に声を掛けた、小学三年生の時分だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 改めて見廻しても、やはり白銀の光景は変わらない。徐々に体温が奪われていくのを、風の刺す痛みと共に感じていた。

 このままでは凍死する。そう考えると、にわかに焦燥感がせり出てきた。


「人を探さないと……」


 本来なら、口で息をする事すら禁忌な状況。だが独り言でも発していないと、孤独に呑まれて気がおかしくなりそうだ。

 歩を進める度に、粉を潰すような不快音が響く。それに苛つきながら、しかし呼吸を乱す訳にはいかないのを内心理解し、早歩きを努めていた。


 どれくらい歩いただろうか。最早皮膚の感覚は殆ど消えて、奇妙な熱を感じる程進んだ先に大きな集落を見つけた。

 奇跡だ。吹雪いてもいないのに方向感覚を失う妙な景色から、生還したのだ。露骨に安堵を覚えると、集落の入り口を見つけ、何故か開け放しの門をくぐった。


 ――っ!? おかしい。門をくぐった直後から、まるで空気を割ったように暖かい。


 咄嗟に身を引くとまた極寒である。意を決して集落に入り直す。やはりまた異常な気温の変化を感じるものの、危険はなかった。

 しかしこの現象は、先に感じていたはずの安堵を遠ざけるものであった。何故なら、安堵の正体は帰郷願望から来たものだったからである。


 人のいる場所に辿り着けば、せめて帰路が見つかるはず。そんな儚い希望は今、粉々に砕かれた。

 常識的に考えて、気温が分かれるなんてあり得ない。つまり今いるこの場所は、現代ではないのだ。


 帰れない。それだけの事実が、超常現象をもって如実に象徴されていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ