ぐるぐる迷うその理由
常世の道から出て、リオたちは今浮世に戻ってきていた。どうやら田舎というはどでもないが都会というほどでもない、地方都市とかいうやつらしい。
人間の決めたことはよく知らないので、間違っているかもしれないが、とにかく人もそう多くない。
そしてそこでリオたちとすれ違う人々は、ほぼ例外なく二人を二度見した。その理由もまた二つである。
一つはその地域では悪目立ちする服装――それぞれ書生服とゴシックロリータだということと、そんな二人が一緒に歩いていること。
もう一つは、二人とも顔立ちが整っていたことだ。
「やっぱり目立ってるよ、御空」
原因が自分にもあることに、リオは気づいていない。
「そうなのか? しかし、洋装は落ち着かぬのだ」
御空が和装をやめることはないだろう。ここはいさぎよくあきらめて、人気のない所ででも自分の格好ぐらいはもう少し無難なものすればこの注目もましになるかなと思案するリオだった。
しかし気に入りの服が一番だ。やっぱりやめておこう。
ちなみに、リオが考えをひるがえすのにかかった時間はわずか三秒である。
「で、ここにも何かあるの?」
一応は舗装された田舎道の道路を歩きながら問いかける。リオのブーツのヒールが軽い音を、御空の下駄はからころと音をたてている。
「まだ何とも言えぬな。しかし、善くないモノの気配は感じる」
「ふーん」
リオは御空ほど、そういった方面の感覚が鋭くないので、よくわからなかった。
戦闘などは得意なのだが、妖に対する索敵能力は、そこまで高くない。
「リオはまだ、それほど妖に逢ったことはないか」
「まあね。人なんかは、一度覚えれば忘れないけど。吸血鬼だからね」
「ふむ、そうか」
リオと御空は、互いに自分のことを多くは語らない。相手にもあまり干渉しない。こうしてたまに、ぽつりぽつりと言葉を交わすばかりだ。
御空との距離はわからない。この関係も、彼のことも。
隣を歩いているのに遠いような、正反対なのに似たものを抱えているような、掴みどころのない距離だ。
そう思うのは、御空のことをまだ信頼しきってはいないからだろうか。
「何かある。往くぞ、リオ」
「うん」
この声に応えることに、迷いはないのに。