共感反発両天秤
常世の道は風景こそ浮世と同じなのに、まったくと言っていいほど季節感がない。さっきまでは、足元の雪が歩くたびさくさくいっていたのに。
少し前を行く御空は、ずっと何も言わないままだ。普通なら気まずいところなのだろうが、リオはそういうことを気にするタイプではなかった。
それより頭の中を占めていることもあったのも理由の一つだ。
「何あいつ! 人がわざわざ手差しのべたのに、何あの態度! 信じらんない!」
黙っているのにも飽きて言葉にすれば、余計に腹が立った。御空とは長い付き合いではないが、どんな人――妖かは少しはわかってきたつもりだ。
そんな相手を馬鹿にされて、黙っていられるリオではなかった。当事者である御空の隣でぷんすこ憤慨する。
「今度会ったら、絶対御空に謝らせてやる!」
謎の宣言までする始末だ。雪女のしたことが、相当気に障ったらしい。
「リオ……? 俺のために、怒っておったのか?」
とても意外なことのように、御空が確認してくる。金色の瞳が揺れていた。
リオとはまったく逆の反応だ。彼の方が怒っていても、不思議ではないのに。
リオを見る金の目は、黒髪の中でとても際立っている。その煌めきが、御空もまた人間とは違う存在であると見る者に印象づける。
「別に! わたしはただ戦っただけだけど、御空は許してた。なのにあんなことしたあいつにムカついたの!」
そこでつんっとそっぽを向く。その仕草こそ子供っぽいが、理由はそれほど幼くない。
他人に近くはあるが一度関わった相手のために怒ることができるのは、リオなりの優しさでもある。
どうでもいい相手のために、自分の感情を揺らすことはそうできることではない。
「彼女も理由を思えば、それほど悪い妖ではなかった。少々、道を間違えてしまったのだろう。それに、人を殺めることはなかったからな」
それはよくあることで、誰しも間違えることはあるのだと御空は続けた。
雪女は御空が止めたから、間違ったまま進まずに済んだ。そうして誰かに間違っていると教えられるのは、幸運なことなのだ。
「また暴れんじゃないの」
「大丈夫だろう。あの地域には雪女も多い。じき、友人や知人となってくれる者ができるはずだ」
何故雪女に拒否されたのにかばうのだろう。そこに納得がいかなくむっとしながらも、リオはそれ以上責めるのをやめることにする。
しかし不完全燃焼だ。なので、手近にいる相手に当たることにする。この場合、御空だ。
「バカバカ! 御空が優しくしてやる理由なんかないくせにー。なんで御空のために怒って、わたしが悪いみたいに言われなきゃなんないのよー」
ぺしぺしその背を叩く。雪女との戦いで怪我をしている様子だったから、かなり控えめにだが。
御空は困ったように、それを受け入れるばかりだった。