雪原を往く影二つと白い闇
異界の道を御空の案内で抜け出した先は、雪が吹き荒れる山奥だった。半ば御空が言うところの常世と交わっているらしく、この状態になっているようだった。
歩けないほどではないが、見通しは悪いしリオにはかなり堪える寒さだったので、ブーツのヒールを低めに変え、ついでとばかりにコート姿になる。
「リオの力は便利だな」
「変化の応用だよ。慣れれば簡単」
御空は、持参してきたらしい羽織を重ねただけだ。それ以外の格好は先程までとまったく変わっていない。
「で、ここに来てどうすんの?」
「雪女がいるらしいのだ」
端的に答えられたところで、御空が何を言いたいのかなんてリオには伝わらない。
「……?」
「雪女が里の人間に、害をなしているという話を聞いた。止めねばならぬ」
そういえば、二度目に出会ったときもそうだった。自分も妖なのに、人を襲う妖を止めようとしていた。
変わっている人――ではなくて、妖だ。だからリオは、御空についていこうと思った。
「協力してあげる。ここまでついてきたんだしね」
「……そうか」
御空は柔らかい声で、そう返答した。黒髪に隠れリオには見えない角度で、わずかながらうれしそうに頬を緩めていた。
しばらくの間は、さくさくと雪を踏む二人分の足音だけがしていた。風はいつのまにか止んでいて、雪だけが花弁のように静かにはらはら舞う。
「……いる」
ふと、御空が顔を上げてあたりを見回した。気配には聡いらしい。
「この先のようだな」
果たして彼の言った通り、そこから少し離れた場所に、例の雪女がいた。
「誰!? あんたたち」
「俺の名は、花白緑 御空だ。人里で大雪を引き起こしたのは、貴殿か?」
きっと真っ白な少女が御空を睨む。
着物も髪も、何もかもが雪と同じ色だ。背はリオよりさらに低い。人で言うところの、小学校高学年ほどだろうか。
「だったら何!? まさか、止めるってでも言うつもり?」
「そのまさかだ。事情次第では、俺も退かぬぞ」
再び、あたりは吹雪に包まれた。雪女が起こしているのだ。妖が起こしたものだから、この付近は常世と浮世が混ざりあった状態なのだ。