ズレと服装森歩き
森は木々が茂っている分、日光が届きにくくていい。しかし、歩きにくいし枝が多いせいで飛ぶこともできない。
そんなリオの隣、本当に同じ場所を歩いているのかと疑いたくなるほどすいすいと、御空は進んでいた。理不尽である。
そう思うリオの方こそ理不尽である。人にはそれぞれ、向き不向きがあるのだから。
「なんでそんなに歩けんのよぅ。動きにくそうな服着てるくせに~」
半ば八つ当たりでもある。だが、そのリオにとって見慣れない服で、なぜそれほど動けるのか疑問なのも事実だった。
「……? ただの和服だが」
不思議そうに、御空は自分の格好を見下ろす。明治・大正時代あたりの学生が着ている、いわゆる書生服だ。帽子はないが、襟巻き――リオから見たらマフラー――をしている。
「リオが思っておるほど、動きにくくはないぞ。俺にはリオの服の方が……その、森に向いていないと思えるが」
「ええ?」
今度はリオが、くるりと回って全身を確認する。変化時とは違う膝上丈のフリル多めのゴシックロリータに、武器も兼用した戦闘向きかつシンプル過ぎない、お気に入りの編み上げブーツ。
「別に変じゃないじゃん。ちゃんと動けるし」
それは着慣れているからだが、確かにブーツなどは限りなくグレーゾーンだ。
しかし、いつもの格好が一番なのだ。そう考えれば、御空だって同じことなのだろう。
「今だって、ちゃんと歩いてんじゃん」
御空の正面に立って、その太陽のような金色の瞳をじっと見上げる。
「変ではないが……。足が出ている格好は、破廉恥だと聞いたことがある」
真面目な顔で何を言うかと思えば、そんなことか。
それにしても、ハレンチって何だろう。本当に、御空の使う言葉はリオには難しい。どれだけ古い言葉を使っているやら。
リオを見下ろす御空の目は真剣だ。本気で言っているのだ。
足が出る格好が駄目とは。日本にしろ西洋にしろ、ずいぶん古い価値観である。どこでそんなの覚えたのだろうか。
御空に出会わなければ、リオも一生知ることはなかった。
「御空、それ古いよ。今はこんなの普通なんだから」
「む、そうか。だが、森は早めに出ることにしよう」
もし人間の多い街に出れば、御空のズレはよりはっきり目立つだろうか。それはそれで悪くないかもしれない。
好きなことは、『おもしろいこと』なリオである。