何より強いその想い
もし大切な人に置いていかれても、追いかけて向き合えばいい。一人では無理だったとしても、誰かが手を差しのべてくれる。背中を押してくれる。
その全てがつながりだ。リオはそう思う。
「行くよ、アスル。御空がその子と待ってるから」
「……うん」
アスルは森の中をよく知っていた。おかげでたいして歩かないうちに、元の場所に戻ることができた。
やはり御空はそこで待っていてくれて、隣には人間の少女が立っていた。
「こんばんは。初めまして、リオさん。朔間 叶音です」
リオを見て丁寧に一礼した彼女が、アスルが好意を持っている少女なのだ。
当のアスルはここまで来たものの、狼の耳や尾のある自分の姿がどうしても気になるらしく、木の陰に隠れている。
そんなアスルに、叶音は一歩ずつ近づいていった。
「アスル。先月、一緒にお祭りに行ってくれましたね。でもあなたは、調子が悪そうでした。きっと満月に関係しているのだと思って、今日ここに来たんです」
ふるんと、アスルの耳が動く。しっぽもへたんとしているのに、アスルはけして逃げようとすることはもうなかった。
「どうしてか、教えてくれますよね?」
一ヶ月前は満月。狼に変化する夜に、自分の正体を知られたくない相手と過ごす。
そこにどれだけ彼女を好きかが見える。誘われて、断ることもできたのに、アスルは叶音といることを選んだ。
そしてアスルが狼男であることを、御空は話さなかったらしい。アスルが自分で語ることに意味があると考えたからだろう。御空らしい選択だ。
「それは……」
すがるように視線を向けてきたアスルに、大丈夫だとリオはうなずいてみせる。
「ぼくが、狼男の血を引いてるから。ごめん、叶音。ずっと隠してて。ぼくなんかが、君を好きになって……」
「言ってくれるの、待ってました。あたしも、アスルのこと好きですよ」
意外な言葉だったらしく、アスルは叶音の前でぴたりと動きを止めた。耳だけが、ふりゅっと揺れる。
「だって、違うんだよ? 君は人で、ぼくは狼で……」
「だから何ですか? あたしは『アスル』が好きだって言ったんです。あなただから、好きなんです」
言い切ると同時に、叶音はぎゅっとアスルに抱きついた。愛しそうに頬をなで、狼の耳にも触れる。
「違うことは、怖くないですよ。だって好きな相手のことですから」
泣きそうな顔で、アスルも笑った。
「ねえ御空。好きってすごいね」
邪魔にならないようにと立ち去りながら、隣を歩く御空にリオは呟いた。
「ああ。……愛は強い」
どこか遠く、もうない場所を見つめるように、御空は答えた。




