陽が昇る前に
体勢を低くした狼が、リオと御空に向かってうなり声を上げる。
すぐに襲いかかってこないのは、先程御空が繰り出したような遠距離攻撃を警戒しているからだ。
「手荒な真似は好まぬが……自我より本能が勝っている状態ならば、仕方あるまい」
この前のリオが、まさにそうだった。御空が呼び戻してくれなかったらと思うと、今さらながらぞっとした。
張り詰めた空気の中、一瞬の隙をついて御空が仕掛けた。
「……銀鎖結星」
銀色に鈍く輝く鎖が、狼の身体を拘束した。逃れようと狼は暴れるが、星を紡いだような鎖は、金属音をたてるばかりだ。
「リオ。狼男が狼に変化するのは、満月の夜だったな?」
「うん。満月がスイッチになってたはず」
それぐらいなら、日本はもちろん西洋の妖の知識もないリオでもわかる。それほどまでに有名で、妖は当然だが、人間にもその存在を知られている妖魔なのだ。
本当に力を持っているのは、そういう人によく知られた妖だ。
「夜が明ければ?」
「元に戻るよ。確か、次の満月まで」
しかし今はまだ真夜中で、朝になるのはもっと先の話だ。丸い月が、木々の隙間から真上に見えている。
それでも、御空なら何かの策があるのかもしれない。これまで何度も、リオは考えもしなかった方法で、御空は誰かを助けてきた。
「そうか。煌陽昇刻」
御空の手の中に、ふわりと丸い光が生まれた。人間が造ったライトとかいうものより柔らかい光で、月明かりよりもっと眩しい。
明るく辺りを照らす光が、狼まで届く。狼は目を逸らそうともがくも、鎖に捕らえられていてほとんど身動きがとれない。
「目を覚ませ!」
ぎゅんと御空の手から離れ飛んだ光は、狼の頭上で輝きを放った。
あまりの眩しさに、リオも御空の後ろに回って着物のすそかどこかを掴む。
太陽にも似た明るさは、吸血鬼であるリオには眩しすぎる。御空の陰に一時避難だ。
ぎゅっと目を閉じていたら、む、すまぬなどと言われた。あれだけ、日光は嫌いだと言っていたのに。
もし一言断ってくれれば、リオとて何らかの対策はした。
「……う、ここは?」
光が収まりまわりに闇が戻ってきた頃、狼のいた場所から少年の声がした。どうやら、彼は人間の姿に戻ったらしい。




