闇に煌めく赤と青
夜にもなると、森の中はほぼ完全な闇に包まれる。
人の目では一歩進むのにも苦労するのだろうが、吸血鬼であるリオにとって、闇は味方だ。昼と同じように、そのガーネットの瞳はあたりの景色を見ることができる。
御空も暗闇だからといって苦労することはなく、その足取りは迷いなくリオの後ろを歩く。
「獣が何かはわかんないけど……混血の妖みたいだね」
かららん、と御空の下駄が乾いた音をたてた。木の根にでもつまづいたらしい。
さっきまでそんなことはなかったが、見落としでもしたのだろうかとリオは思った。
「妖ともちょっと違うかもね。吸血鬼と少しだけ似た匂いがするから、西洋の妖魔かな」
「ふむ……。俺は、外国の妖はよく知らぬのだ」
「まあ、わたしも人のこと言えるほど詳しくないしね」
リエならば、即答できたかもしれない。
勉強を怠らない姉は、リオには自慢だったし、色々なことを教えてくれるときもあった。元からリエは勉強好きだったのだ。
しかし、リオはリエではない。御空もそんなリオを求めているわけでもない。そのままでいいのだと、二人共言ってくれた。
そんなやりとりから、少し歩いた辺りだった。ぐるる、と低い獣のうなり声が聞こえた。
近くから川のものらしい水音がするので、そのせいか匂いを薄く感じていたようだ。
草の陰、青に輝くサファイアのような一対の瞳が、リオたちを見ている。ガサッとその大きさの割りに音をたてず、二人に襲いかかってきたのは一匹の狼だった。
「弓弦月!」
とっさに御空が出した弓に狼が咬みつく。みしみしと、白くしなやかな弓が軋む。
「離しな……よ!」
くるりと回転したリオのかかと落としが当たる前に、狼は後方に下がってまた低くうなって威嚇する。
「華炎弾!」
狼には当たらないよう、御空が炎の華を撃つ。それを避けるため、狼はさらに下がっていく。
「話を聞くには、まず人に戻ってもらわねば」
「御空、何の妖かわかったの?」
「ああ。外国で狼の妖となれば、その正体は狼男だろう」
月明かりに、狼の白銀の毛並みが照らされた。




