黒い翼と白い矢と
羽音が、森の静けさを切り裂く。雨と光をさえぎる木の枝によりできた闇の中に、リエが降り立った。
闇は妖魔の力になる。古来から、人は闇に何かが潜んでいるのではないかと恐れた。それこそが妖の力になる。
特に吸血鬼のように、日光が苦手な種は、逆説的に闇の中でこそ大きな力を持つからだと伝えられた。だからこそ、より力が強まる。
家族として一緒にいたのだ。リオもリエの強さは知っていた。リオが簡単に勝てるような相手ではない。
もう一歩が、踏み出せない。足はすくんで、手は震えている。
姉と戦いたくない。傷つけられるのも、傷つけるのも嫌で怖くてたまらなかった。
「リオ、俺が出よう」
「え……御空?」
安心させるかのように、わずかに微笑んだ御空は、リオの前に立った。
「お相手願おうか」
「……そう。別にいいわよ、あなたでも」
「花白緑 御空、参る」
ばさりとリエは翼を使い宙に浮いた。先程まで御空が使っていた日本刀では、当然届かない距離だ。リエから向かってくるまで、御空は攻撃はできない。今の武器のままでは。
「弓弦月、白雪矢」
御空の手に、一対の弓矢が現れる。どちらも白く、わずかな光を反射しぽうっと輝いていた。
「月下残雪!」
真っ白な矢が飛んでいく。リエは慌てることなくそれを避けた。反撃に移る気配が、見ているだけのリオにまで伝わってくる。
「はあっ!」
広がったリエの翼から、闇がコウモリを形作り空を裂く。かなり難易度の高い技で、吸血鬼の中でも使える者はそう多くない。
大きく後方に下がってかわした御空の書生服がはためく。今度は御空が冷たい気配をまとっていた。
「氷牙嵐舞!」
牙のように鋭い氷が、襲いかかってくるコウモリの群れを迎撃した。御空とリエの攻撃は、その中間点でぶつかり合う。純粋な力比べだ。
相手の攻撃を破った氷と闇が、それぞれ互いをかすめた。一時、技が消える。
「銀鎖結星」
そのすきを逃さず、星の鎖がリエを捕らえた。




