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夕暮れに出会った人は誰そ彼

 昨今、あやかしたちは人にまぎれて生活をしている。そうでないものは山や森などの、人が踏み入らないところに生きている。

 その延長線上か、西洋の妖が日本に移り住んでも、表立った争いはなかった。日本の性質――八百万やおよろずの神々が住む場所だ――からか、異質なものにもさほど抵抗なく交わるのだ。

 

 リオは、そんな西洋の妖一族の一人。日本育ちの妖である。しかし生まれが西洋だからか、もともと相性がよくないのか、日本語を使えて理解もできるのは、日常会話のみだった。

 

 とにかく妖たちはそんなふうに、おおむねのんきに暮らしているのだった。ごく一部を除いては。

 

「……?」

 

 それは、茜色に染まる空を飛んでいるときだった。もうすぐ夜だというのに、森に大きな音が響いた。

 気になり、リオは土煙の元へ向かう。吸血鬼なので、夜目がきくのだ。

 

「御空!?」

「リオ……か。ここは、危険だ……逃げろ」

 

 言われなくてもここが危ないということぐらい、近づくうちにリオでもわかった。土煙の向こうでゆらりと見える影は、人と獣の中間のようなモノ。妖だ、と直感で理解する。

 しかし、他の妖に詳しくないリオには種類まではわからなかった。

 

「あれは?」

「山犬、山に住む……犬だ。狼に近いのだが……人里を、攻めようとしていた」

 

 影は複数。当然、リオより縦も横も大きい。

 

「う……」

 

 御空が声をもらす。よく見れば傷だらけで、中には深いものもあった。

 

「止め、ねば……。人を、襲わせては……いけない」

「そんなフラフラで何ができんの。わたしがやる」

 

 その言葉に、御空はもちろん言った本人であるリオ自身も驚いた。リオには関係のないことだ。しかしまあ。

 

「この間のお礼。さ、指咬むよ」

「だが……!」

 

 往生際の悪い奴だ。

 

「あのね、あんな数わたし一人じゃ無理」

 

 きっぱりと、リオは言い切った。

 

「それにあんた、このままだと死ぬよ? わたしだって、そこまで巻き込まれたくないし。だから御空も力貸して」

 

 かりっと、問答無用に御空の指先を咬む。抵抗がなかったことを、肯定と解釈した。

 

「―――!」

 

 今までに感じたことのない、味と力。御空の血から伝わってきたのは、そんな不思議な感覚だった。

 

 黒い風を纏って、リオは変化へんげする。どこにでもいる人間の少女の格好から、どこか異質な印象を与える雰囲気と、ゴシックロリータ姿へと。背中にはコウモリの闇色の翼が現れる。

 腰につけているベルトから短剣を引き抜き、ブーツも武器として使えるものだ。

 

 翼をはためかせて、山犬たちに近づく。まるで踊るように足を跳ね上げて蹴りを繰り出し、短剣が煌めく。

 山犬たちは、数こそ多かったものの一体一体はリオが苦戦するような相手ではなかった。しばらく経たないうちに全てが逃げ去った。

 

 黄昏時の空の下、同じ色の瞳を持つ吸血鬼だけが立っていた。

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