想い出と昔の影持つ彼の人を
御空に連れられ、二人で岩の陰に隠れた。背に触れた岩は雨に濡れていて、じわりと冷たさを感じさせる。
頭の中がぼんやりしたまま、リオは何も考えられなかった。他人に何か言われたら黙っていられない性格も、姉の前でだけは大人しくなってしまう。
「リオ……。大丈夫か?」
「……っ」
大丈夫だと言いたいのに、言葉は音にもならなかった。
姉であるリエに敵意を向けられた上襲われたという事実が、リオにそれほどのショックを与えていた。
ガサッと近くの茂みが音をたてた。御空はリオを抱え込み、より見えないところへ隠す。肩に置かれたその手だけが暖かい。
「リエ殿ではなかったようだ。今のうちに話してはくれないか、リオ」
その言葉が呼び水となって、リオの声は意味を持つ言葉を紡ぎ始める。
「リエ姉さま、昔はあんなじゃなかった。三年くらい前から、変わって……」
呼び捨てで「リエ」と呼んでいたのに、「姉様」をつけろと言われるようになった。他にも、言葉遣いや立ち居振舞いなどを直すことも強要してきた。
リオがそれほど雑でないのは、それによるものだった。姉の期待に応えようとしたものの、中途半端に身に付いた結果だ。
リエ自身も口調や行動を変え、努力を重ねていた。何より姉が好きだったから、リオは抵抗をしなかった。
しかし飲み込みの悪い妹を、リエは嫌った。何かにつけ、「スカーレットの名にふさわしくない」と責めた。
「せめて、理由が知りたい。わたしまだ、リエ姉さまのことが好きだから。理由も知らないまま、嫌いになんてなりたくない」
「俺も手を貸そう」
「ありがとう、御空」
今のリオには味方がいる。一人じゃない。それならば、自分が嫌われている理由を知ることへの怖さも減る。
行こう。向き合おう。大切な人を、恐れることはないのだから。
震える手をぎゅっと握り、リオは踏み出した。
「リエ姉さま! わたしここにいるよ!」
ただ伝えるためだけに、リオは呼ぶ。届けと願いを込めながら。




