隠された紅い宝石遠いもの
よく知っている香りだ。それが、朝陽より先にリオの目を覚めさせる。
とても弱いが、はっきり感じられる。なぜならその香りは、血の匂いだから。吸血鬼の本能が、自然とリオを動かしていた。
「ここだ……」
木々の開けたその場所にいたのは、共に美しい人間の男と吸血鬼の女だった。吸血鬼は、男の首筋に牙を突き立てている。
吸血鬼の『食事』中だ。
一歩を踏み出したリオのブーツが、ガサッと草を揺らした。音に反応した吸血鬼が振り返ると、支えをなくした男が倒れる。
しかしそれは、リオの意識には昇らなかった。
「ね、さ……」
言葉になりきらなかった音がこぼれる。吸血鬼はそんなリオを見て、笑みを浮かべた。人間など一目で捕らえて離さない魅力にあふれている。
「いらっしゃい、リオ」
頭で考えるより先に、身体が動いた。この人に嫌われたくない。逆うはずがない。
冷たい両手が、リオの頬にそえられる。とても近く、目の前で彼女は言った。
「彼のこと、おいしそうって思っているんでしょう?」
「っ!?」
この人は知っているのだ。そばにいるようになって、距離も近づきようやく信じられるようになってきた、彼のことを。
そしてリオが、彼の血に魅力を感じていることも。
吸血鬼にも、血の好みはある。というよりむしろ、相性だろうか。合わない相手の血は吸えない。だが逆に、相性の良い相手ならば。その血はきっととても甘く、また吸血鬼にとって力になる。
リオにとってそういう相手は、御空が初めてだったのだ。
「少しだけでなく、もっともっとと望んでいるのよね」
「あ……」
だから、どうすればいいのかわからない。
でもその血は、神秘的な宝石。それとも見えているのに届かない、綺麗な虹や星。
それほどのものを、もし自分が独占できたら。どんなに満たされることだろう。まだ真っ白なままの雪原に、一番に足跡をつけられる権利を得たような感覚。
「何故本能に嘘をつく必要があるの? そのうちに、誰かに奪われてしまうわよ」
「……!」
夜のうちに止んだ雨が、また降りだした。




