同じ時間違う流れの中ででも
妖と人間は、生きる年数が違う。それとも違っているのは、それぞれを取り巻く時間の流れだろうか。
とにかく、こちら――妖側からいくら共に在りたいと思ったとしても、それは人間にとっては長く、妖にとっては束の間の時間だ。
愛せば愛すほど、親しい者を見送り喪失感だけが残る。
人間だって、置いていくことを悔やむだろう。
だからそれは叶わない願いで、共に在るというのは奇跡のような一瞬なのだ。
「徹! 目覚ませよ! なあ!」
だが目の前で必死に叫んでいる少年は、それを疑っていなかったのだろう。例え『ずっと』は無理でも、『今』を共に過ごし重ねていくことを信じていた。
崩れそうなその願いを、守ろうとしている。
あまりにまっすぐで、リオには眩しいほどだ。
「晴司殿」
そっと御空が、晴司の肩に手を置く。すがるように、晴司はその手を握った。
「助けてくれ。徹がいなくなるなんて嫌だ……!」
高校生と言えども、何の力もない子供だ。しかしこぼれそうな涙をぬぐい、まっすぐに御空を見つめる。
*
晴司の家には、昔から受け継がれてきた短刀がある。その昔、武士であったらしい先祖が、自分の主から貰った品だそうだ。
長い時間を経た道具には、九十九神が宿る。彼の家の人はそう言って、中にはその姿を見た者もいたらしい。
晴司は、幼い頃から人ならざるモノたちが視えていた。人に近い見目のモノ、異形のモノ。様々いたが、最初に視たのは短刀のそばにいた少年だった。
初めは人だと疑っていなかった。九十九神は妖の中でも人に近く、見た目もまたそうだったからだ。
『お兄ちゃんは誰?』
『お前、晴司……だったか。オレが視えるのか?』
『うん』
妖ならば、一目で晴司の素質が解る。妖に好かれるその体質が。
しかもその姿が視え、声を聴くこともできるなら、かえって狙われることも多いだろう。
『オレが、お前を護ってやる。約束だ。ずっとそばにいる』
『もしかしてお兄ちゃん、つくもがみなの?』
『ああ、オレの名前は徹だ。よろしくな』
それが、二人の出会いだった。
*
「助けてって、わたしたちだって何も……」
「おれは『一級品』なんだろ!? おれをやるから、こいつを助けてくれよ!」
わからない。いつかは離れ、別れてしまうのにどうしてそこまでするのか。
せっかく自分は助かったのに、大事な相手のためとはいえ、その自分を犠牲にするなんて。
リオもかつて、大切な人に離れないでほしいと願ったことがある。しかし突き放され、置いていかれた。
もしかしてそれは、今の晴司と似た感情なのだろうか。ならば、彼の想いに応えたい。
そして、それができるのは――。
「御空。何とかできないかな」
「できる限りのことはしよう」
リオにも晴司にも、その言葉はとても心強いものに感じられた。
「夜想星祈」
淡い光が、徹を包み込んだ。
「あれ、オレ……? 晴司、晴司は!?」
「馬鹿野郎! おれがどんだけ心配したと思ってんだ!」
二人からは少し離れた場所で、リオと御空もほっと胸を撫で下ろす。
「俺たちは、これで失礼する」
「ああ。ありがとな、色々。世話んなった」
晴司に抱きつかれたまま、徹は二人を見送ってくれた。
空き地から歩き、人気のない山に入った途端、がくんと御空が膝をついた。
「御空!?」
「問題ない……。疲労した、だけだ。直に……回復する」
先程の技は、晴司の願いを元に九十九神の力を強め、さらに自分からも分け与えたのだと御空は語った。
力は妖にとっては生命力のようなものなのに。
「ほんっと、底なしのオヒトヨシだね。御空の方が、よっぽどバカだよ」
御空を支え、リオは休める場所を探すのだった。




