剣と風舞う傍らで
ごう、と強い風が吹いた。一番に反応したのは、やはり御空だった。
「冷固氷結壁!」
ガキンと高い音。金属が氷の壁にぶつかり、砕けたのだ。落ちた氷が地面で煌めく。
割れた壁の向こうに立っていたのは、一度立ち去った先程の天狗だ。御空の張った結界で、外には出られなかったものの、姿を隠してチャンスを狙っていたようだ。
御空がその槍を防がなければ、九十九神は深手を負っていただろう。
「何用か。何故そこまでして、人間を狙う」
今までリオが聞いたこともないような、低い声。さらりと風に一つに束ねた、長い黒髪が舞う。そうして、リオたちをかばうように前に立つ。
相対するのは、木の幹のようなくすんだ茶髪を持つ天狗だ。背中に同じ色の翼がなければ、人にも交われそうな顔立ちをしている。
「そこな人間は一級品。我が主様に捧ぐにふさわしいほどの器よ。諦めるには口惜しい」
「こいつは渡さねえよ!」
九十九神が、自身である短刀を手に斬りかかる。リオも御空も手を出せない気迫だった。それだけ、晴司のことが大切なのだろう。
どちらにしろ、ここで加勢しても形勢はむしろ不利になりそうだ。
しかし、リーチの差というのは大きい。短刀では間合いが狭く、槍を使う天狗の方が有利なのだ。
九十九神にだけ、傷が増えていく。
「っ! やめろ!」
晴司が再び止めに入ろうとする。さっきはリオだったから助かったものの、天狗が彼に危害を加えない理由はないのだ。
「晴司下がれ!」
九十九神が、ぐいっと晴司の襟を掴んで引いた。同時に刃から護るようにして、天狗に背を向け晴司を抱え込む。
「危な……っ!」
この距離で手を伸ばそうとも、リオにできることなどなにもない。
避けきれなかった九十九神の肩に、天狗の槍が掠める。
「ぐぁ……っ!」
「徹!」
崩れ落ちた九十九神の身体を、晴司が受け止める。
「華炎弾」
天狗のすぐそばで、火が弾ける。御空が銃を構えていた。
撃つ直前丸い種のようだった炎があったのを、リオは確かに見た。それが鋭いつぼみの形に変化し空を切り、弾けて花が咲いたのだ。
先程弾けた炎の正体はその花だった。
妖が、そんな技を使えるのだろうか。それも、御空は本人が言う鬼であるならなおさらだ。
種族に由来するわけではない力を、それほどまでに多彩に扱えるものだろうか。
「去ね」
「異質な力よ。言われずとも、相手取るのは御免だ」
翼をはためかせ、御空が解いた結界の外へ天狗は去っていった。
「徹! 徹!」
後に残ったのは、傷だらけの九十九神と、彼の名を悲痛に呼ぶ人間だけだった。




