近しい距離のその関係
不意に飛び出してきた人間に、リオは慌てて翼を使い攻撃の方向を変えた。着地先の地面が少し抉れた。
「っとと。もー何考えてんの! 危ないでしょうが!」
目の前の少年を、きっと睨みつける。高校生というやつくらいだろうか。御空ほどではないが、背のあまり高くないリオが、見上げなければならないほどの長身だ。
「何か文句あんのかよ! 先に何かしてきたの、お前の方だろ!」
負けじと彼も睨み返す。意思の強そうな黒い瞳は、リオから逸らされることがない。妖たちの間に入り込み、止めようとするだけのことはある。
縄張り争いをする猫のように向き合う二人を、それぞれの連れが引き離した。
「して、何故このような場所で争っていたのか、聞かせてはもらえないだろうか」
リオを押さえつつ、御空が問いかける。
「……オレは、こいつを護りたかっただけだ」
そう言う九十九神の口調は、彼の隣でふてくされている人間のものとよく似ていた。
むしろ妖と人間の生きる時間の長さの違いから考えれば、人間の方が九十九神の口調に似たのだろう。
それだけ彼らが共に時間を過ごし、積み重ねてきた証だ。
「こいつ――晴司は生まれつき、妖に好かれやすい体質だった」
「確かに、言われてみればいい匂いするかも」
そういった人間は、多くはないが珍しくもない。その中でも妖が視えるかは個人差があり、彼は視える人間でもあったようだ。
「だからオレは、こいつが小さかったころからずっとそばにいて。いつからか、弟みたいだって思ってた」
「貴殿は……短刀の九十九神か?」
「ああ、そうだ。兄貴が弟を護るのは当然だろ?」
九十九神の使っていた武器と、『護りたい』という言葉から、御空は彼の正体に察しがついたらしい。
物や道具が、長い時間と人の想いによって意思を持つ。それが彼ら九十九神だ。だからこそ、感情なども人に近くなるのだろうか。
リオのような吸血鬼という種族には、よくわからない感覚だ。御空はどうなんだろう。
「……? どうかしたか? リオ」
「ううん。何でもない」
まわりの木々が、風にざわめいた。




