見上げる夜空は同じ色
黒一色の空を見上げる。雲がかかり、星も月も隠された闇だけに彩られた夜空の、視界いっぱいの暗さを見つめる。人ならば、吸い込まれそうだと恐れるのだろうか。
ただただ落ち着く。それだけだ。だって空は、どこでも繋がっているのだから。
どこで見上げても、夜空は変わらない。この空の下なら、消えるのも悪くないかもしれない。
目を閉じても、闇はいつだってそばにあってくれる。
「大丈夫か?」
「え……」
ふわり、と不思議な香り。今までに感じたこともないような、他とは異なっていながらも恐怖は抱かせない。
「貴殿、名は?」
ずいぶんと古い口調の人だ。声からして男性――というより、青年といったところだろうか。
キデンって何だろう。古い言い回しはよくわからない。
「何、キデンって。わたし、知らない……」
「失礼した。貴女の名は何と申すのだろうか」
今度はわかった。
「リオ。リオ・スカーレット」
変な人だ。こんな夜遅く、これほど深い森の中に一人でいるリオを見ても、何も言及してこないのだ。
「俺は横文字は苦手なのだが、貴女の名は日本風なのだな」
「そうだけど、悪い? 吸血鬼のくせに日本風の名前で」
リオはつんとそっぽを向く。
姿は十五歳ほどだが、精神面は年相応でないのか、元からそんな性格なのか。その仕草は、どこか子供じみている。
対して青年は困ったような表情になる。当然だろう。本人は思ったことを口にしただけなのに、見ず知らずの相手に拗ねられてしまったのだから。
「貴女は、こんなところで何を?」
「イキダオレってやつ? 血が足りないんだよね。このままなら、朝には消えるくらいには」
彼が来なければ、このまま為す術なく消えていくだけだった。何せ、ここには人間はおろか動物さえ見当たらないのだ。
しかし、誰かがいるなら話は別だ。襲うなり同情させるなりして血を貰えばいい。
血の匂いからして、どうやら彼も人間ではないらしい。ここは同情の方がリオにはやりやすいだろう。
「ねえ、少しだけちょうだい」
「すまないが、駄目だ。代わりと言っては何だが、家に泊まっていくといい。吸血鬼とはいえ、血でなくとも回復はするだろう?」
「そりゃそうだけど……。ま、いいや」
次の夕方には、リオはすっかり回復して、彼の家を後にした。
「じゃあね。あ、そうだ。名前教えてよ」
「花白緑 御空だ。縁があれば、また会おう」
そうして別れた、これがリオと御空の出会いだった。