5話 真実
そこにいたのは…
婆さんだった。村人が妙な空気に包まれる。
そこに婆さんがいるのだ。今王都にいるはずだと全員が思っていた。婆さんも何が起きているのかわからない。
婆さんは近くにいる、トゥーファンに問いかける
「なっなんじゃ?なんかあったんか?」
「え…だって今王都がドラゴンに襲われて…」
婆さんは理解する。村人全員が自分の身を心配して慌てていたと。
「なんじゃそういうことか」
「お前らその紙の左上をみてみぃ」
そういうと婆さんはにこりと笑う。村人がその紙の左上を見る。
「あっ…」
そこには『北歴328年1月4日』と記してあった。
今日の日ずけは『北歴328年1月14日』である。
つまり王都がドラゴンに襲われたのは10日も前の事である。婆さんが付け加えるように話始める。
「わしが行った時にはもう王都は火の海じゃった。わしはたまたま山の上から王都が見えての。引き返してきたのじゃ」
トゥーファンは少し疑問をもつ。確か、この村から王都までは山を登らずとも行けるはずなのだ。
だが婆さんが嘘をつくとは思えず。トゥー ファンはそのことを口に出さず。黙っておいた。
「ほれほれ!全員戻らんかい!仕事もあるじゃろー」
婆さんが合図をかけると村人は何事もなかったかのように帰っていく。村人は広場からいなくなり。
そこにいるのは、トゥーファンと婆さんの2人だけになった。トゥーファンは婆さんの目をしっかりと見る。
「話がある…」
「なんじゃぁ?急にかしこまって」
「あの『赤い魔法陣』について聞きたいことがある」
『赤い魔法陣』と言った瞬間。婆さんの様子がおかしくなった。急におどおどし出して、そのことを隠そうとしているのは明白だった。
「なんのことじゃぁ?わ、わしはそんなの聞いたことがないわ」
「隠さないでくれ婆さん、俺は知ってるんだ、それがどういうものかを」
もうフウさんに説明してもらって赤い魔法陣のことはだいたいわかっていた。トゥーファンは婆さんが何故そんなものを持っていたのか、婆さんの口から聞きたかったのだ。
婆さんは黙って歩き始める。その背中は付いて来いと言っているような気がした。
トゥーファンは婆さんについていく。婆さんの足取りが止まった。婆さんの家の前である。
婆さんはトゥーファンに今まで聞いたこともないような真剣な口調で喋り出した。
「トゥーファンよ。お前はこれから話すことを信じる覚悟はあるかい?」
「信じるも何も婆さんのいうことなら信じるぜ」
トゥーファンは婆さんのことを信じていた。
婆さんは幼き自分を育ててくれた母のような存在でもあるからだ。
そんな人を疑えるはずもない。婆さんは黙って家の中へと入っていく。
トゥーファンもそのあとを追い家の中へと入る。
婆さんが振り向いてトゥーファンにたずねる。
「お前はどこまで知っておる」
それが婆さんの第一声だった。その質問に対して、トゥーファンは知っていることを話す。
「まずその魔法陣からは使い魔が呼べるってこと。それと使い魔を呼ぶのには術者の血がいるんだろ?それと…」
ここでトゥーファンは一瞬ド忘れする。トゥーファンはそもそも記憶力があまりよろしくない。
それでも知っていることを絞りだしながら続ける。
「それとぉ…あっそうだ!召喚する際に1
番そいつが自信のあるものを取られるんだろ?」
これで覚えていることは全てだった。
「こんなもんだ。俺が知っているのは」
婆さんは少し黙ったまま考えている。何を考えているのかはわからないが。落ち着いた口調で話始める。
「まあ、大体合っておるわい。じゃがの、最後のは少しばかり違うのぉ」
最後のというのは『術者が一番自信のあるものを取られる』というものである。
「少しってのは何が違うんだよ」
トゥーファンは気になっていた。もしそれが取られずに召喚出来るのなら、召喚してみたいという気持ちがトゥーファンにはあった。
その思惑を婆さんは見抜いたかのようにその問いに答える。
「その術者にとって『一番自信のあるもの』というのが違うのじゃ」
トゥーファンの気持ちが高ぶる。本当に自分に召喚出来るのではないかと。もし召喚出来たならばかなり強い使い魔のはずである。
トゥーファンも年頃の少年である。その使い魔を使ってドラゴンを倒し大金を手にしたいという、完全に自分の欲のためであった。
「正確には何を取られるかなど決まっておらぬ」
幻想は打ち砕かれる。婆さんは話を続ける。
「あー坊よ」
婆さんの顔がかなり深刻になる。トゥーファンは魔法陣の話をしてから、見たこともないような婆さんを見ている。しかし、今の婆さんの顔は今までのどれよりも深刻だった。
「なっなんだよ」
「あー坊お前は何もしなければあと一週間もたたず死ぬ」
「なっ!!!!!」
言葉が出てこない。いきなり余命宣告をされたのだ。
冗談だと思いたかった。今まで婆さんはトゥーファンにたいして嘘などついたことがなかった。
信じたくはなかった。しかし婆さんが冗談を言っているとは考えられない。
トゥーファンの目から涙が溢れる。怖いのだ。死ぬのが怖いのだ。
トゥーファンは泣いている。婆さんはそれを遮るかのように話す。
「お前にはある呪いが付いている。かけたものにも解けない、かなり強力なやつじゃ」
「もうまともな方法では助からん」
「俺はどうしたらいいんだよぉ」
もう生きるのを諦めろと言われているようにしかし聞こえなかった。
泣きながら
トゥーファンはその場にへたり込む。
「じゃが…まともではない方法でなら助かるかもしれん。」
トゥーファンは未だに泣いている。だが、助かるかもしれないという言葉を聞き顔をあげる。
「助かる?…俺は助かる可能性があるのか…?」
「可能性はある。」
そう婆さんは断言する
そう言って婆さんは一枚の紙を手にする。
それはどす黒い血のような色をした赤い魔法陣の書いてある『あの』一度トゥーファンが婆さんのベッドの下で見つけた紙そのものだった。