1–7:ありがとう
1月4日:改稿
先ほどの条件を飲むことになり、その場で少しだけこれからの事の話し合いが行われた。
「見張りはこちらで選ぶって事でいいか?」
鎧の男が国王に提案していた。
「ああ。念のためだ、腕の立つ者を頼む」
目の前で自分が危険人物として扱われるのに良い気持ちはしないが仕方のないことだ。実際、他人から見たら怪しい奴だし……。
「承知した」
「そして……仕事の方は明日からだな。——ええ、名前はなんと言ったかな?」
さっき名前も一緒に言ったんだけどなと思いつつも「拓真です」ともう一度聞こえるようにはっきりと名乗った。
「おお、そうだ。拓真だ、拓真。明日でいいな、拓真?」
「いつでも大丈夫です!」
「そういう事だ。これでいいな、マリー」
「うん、ありがと。でも、お母様とケンカになってしまって……」
確かにそうだ。そうなった原因は僕と言ってもおかしくないので悪い気がしてならない。
「いいんだ。母さんはお前たちのことを過保護にし過ぎるんだよ。——しかし、お前たちはこの後どうするつもりなんだ」
「夜のパーティーに一緒に行くつもりだったのだけれど、やっぱりだめかな?」
困った表情を見せるマリーだったが、僕も内心パーティーは楽しみにしていたので行けなくなってしまうのはとても残念だ。
「そうだな〜? 見張りを付けてなら大丈夫だろう。二人は外で待っていてくれ。見張りをここまで来させよう」
そう言われ、僕たちは部屋の外に出て行くことなった。よかった。無事、パーティーには参加できそうだ。
部屋を出るため扉に近づくとマリーが去り際に振り返って、鎧の男に話しかける。
「そういえば、ガウェイン。今日、あなたの息子のエトスに会ったけど急に睨んできたわよ。何かあったの?」
今日、睨んできた人……ああ、あの人か。すごい睨んできてマリーのことを無視した奴か。その父親がこの鎧を着た人……全然、似ていない様な気がする。父親は厳つく、息子は爽やかな感じで親子だと言われなければわからない。
「本当申し訳ありません……。キツく言っておきます」
ガウェインは息子の無礼を親として深く詫びている。
「いいえ、別に構わないわ。最近あいつ変わったなと思っていたから、何かあったのかと思っただけよ」
頭を上げてとガウェインに促し、彼は深い詫びを終えて頭を上げ、もう一度すみませんと謝っていた。
「そうなのか、ガウェイン。親子仲良くやっているのか?」
国王も心配なのだろう、会話を聞いて、ガウェインに近寄ると肩を叩いている。
「あまり、仲が良いとは言えないですかね……」
「まあ、話し合いがだい……っと、お前たち二人は外で待ってていいぞ」
プライベートのことで聞かれたくないのだろう。でも、確かにこのままこの場に留まっていても気まずいだけなので、礼を言って外で待つ事にした。
僕とマリーが部屋を出るタイミングで国王とガウェインの会話は再開された。
部屋から出ると、扉を開けてくれた門番が当たり前なのだが以前と同じく立っていた。
僕とマリーは見張りを待つようにと言われているので、近くにあった椅子に腰を下ろし待つことにする。
「でも、本当に良かったわね。お母様が反対した時はどうなるかと思ったけど、何とかなって」
「ありがとね、マリー。君が居なかったら、その辺で彷徨う事になってただろうし、最悪死んでたかも。——本当、ありがとう」
マリーの手を握って、最大限の感謝をした。しかし、感謝のあまり危うく抱きつきそうになり、寸前のところで思い留まった。いきなり抱きついたりしたら、どうなる事か。また、思いっきりのビンタを食うことになっていたかもしれない。いや、それより酷いかもしれなかった。
「ど、どう致しまして」
マリーは照れているのか、少し顔を赤らめている。照れているマリーがもじもじとしていて、とてもかわいく見える。
しかし、条件を飲んでここでお世話になれる事になったのはいいが、マリーの両親が喧嘩別れになってしまったのことには僕自身、責任を感じずにはいられなかった。
「でも、ごめんね。僕のせいでお父さんとお母さんが……」
「仕方ないわ。どうせ、すぐに仲直りするはず……。拓真は気にしなくていいよ」
一瞬のことだが、マリーはどこか悲しそうな表情をした様に見えた。「気にしなくていい」そう言われても、全く考えないなんて出来そうになかった。
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