1–6:条件の提示
2月16日:改稿
「——なるほどな」
僕たちはとりあえずこれまでの事をひと通り、話し終えた。マリーと出会った時、ここがどこだかわかっていないという事など、事細かくに話した。
「怪しい人ではなくて、ーーだから、少しの間だけでもいいの。ここに置いてあげることってできないかな? 行く当てがないから……」
マリーは必死に身振り手振りで考え込んでいる父親に同意を求めてくれている。
今まで気にしていなかったが考えてみればそうだ。自分には行く当てなんてない。彼女の言葉で気付かされた。このままだと、ただただ、その辺で死んでしまうことになりそうだ。夢ならいいが夢だと思っていて、もし違えば最悪死ぬことになる。そうなることはできれば阻止したい。
何とかならないかと考え、自分自身でもお願いしてみよう、そう思っていると国王が呆気なく了承してしまった。
「わかった、いいだろう」
その言葉にその場にいた国王以外の僕を含めて4人は突然すぎる答えに驚きを隠せなかった。
「本気か、クラント!」
「あなた!」
鎧の男ともう一人の女性が驚き、納得いっていない様子だ。
確かにこの二人の反応は普通だと思う。もう少し、話し合いが必要だと思っていたので正直拍子抜けだ。でも、僕からすると簡単に話が進むことに越したことはない。
「本当に! 良かったわね拓真」
マリーは自分の事の様に喜んでくれている。しかし、その場に居る大人二人は納得していない。
「簡単に決めていいことではないぞ、クラント。話を聞いたとは言え、こいつの事はほとんど知らないと言ってもいいほどだ。そんな奴をここに置いても大丈夫とは、到底思えないが」
「そうよ! 何も知らないなんておかしいわ。もしかすると、そう装っているのかもしれない……もし娘たちに危害を加える様な人だったらどうするの!」
二人の反論はもちろんだ。こんな怪しい奴を自分たちの生活領域に入れておくなんてリスクが高すぎる。こんな危険を負わなくてもいい、それが正しい判断だろう。
そんな中でこんなに早く判断をするとは、国王はどこか変わり者ではないかと思ってしまう。しかし、彼には考えがあるらしかった。
「もちろん、お前たちの言うこともわかっている。しかし、私が見る限り怪しい奴ではない様に思う。そこでこちらも条件を出すことにして、それを飲んだ上でここで面倒を見るというのはどうだ? 娘もこの者を好いているみたいだしな」
「その条件とはどういうものですか? 」
現状、僕は話についていけていなかった。勝手に話がどんどん進んでいる。ここら辺で質問でもしておいた方がいいか、そんな考えをしている内にまた話が進んでいく。
「そうだな。まず一つ目はこの者に見張りを付けておくことだ。そして、二つ目はここで下僕として仕事に従事すること。これが条件だ。お前の言っていたことだが、見張りを付けることで娘たちが危険になることはないのではないか?」
——この人はいつも自分でどんどん決めてしまう。私が妻として意見したことはほとんどない。しかし、今回は母としての反対。娘たちのことがとても大切が故の反対だった。
「わ、私はそれでも反対です。こんな素性のわからない人——」
女性は声を震わせている。彼女は視線を拓真へと持っていき、じっと睨む。それを受け、直視する目線に耐えられず、拓真は軽く目線を落とした。
「お母様。大丈夫よ、拓真は危険な人じゃないわ」
お母様? マリーはこの女性を見て、そう言った。ーーという事はマリーの母親であり王妃。
確かに先ほどの会話を思い返せばその様に推測できたかもしれない。しかし、マリーはこの部屋に入って母親に挨拶らしき事はしていないはず。父親である国王だけだったように思う。
「マリーは黙っていなさい! 決めるのはあなたではないのよ」
母親に強く言われてしまったことにより、あからさまに落ち込むようにしてマリーはそのまま下を向いて黙ってしまった。
「そうだ。マリーが決めることではない。しかし、それは妻であるエイリシュ、お前でもあるまい。この私が決めることだ」
この大きな部屋の中がピリピリとした空気に包まれる。国王は強引に決断する勢いだ。
王妃は国王に強く言われ、そのまま黙って部屋を足早に出て行ってしまう。出て行く姿は怒っている様で、どこか寂しそうにも思えた。
「クラント、行かせてしまってよかったのか?」
「お父様、いいのですか?」
「いいんだ。最終的には私が決めるのことだ。それにあいつの言うことも考慮しての条件を付けている」
部屋の中央まで歩いてきていた国王は話し合いとはとてもじゃないが言い難い会話を強引に終え、自分の王座へと引き返していく。
「それで、お前はどうだガウェイン。賛成か?」
「反対って言っても、お前の中ではもう決まっているんだろう」
「そうだな」
ここまでのやりとりに拓真は一切口を出していないが、話が良い方向へとまとまりつつあった。
「少年、こちらに来い」
王座に座る国王に近くに来るよう呼ばれた。隣でマリーが小さく「早く行きなさい」と呟いている。
「はい、国王様」
目の前まで来ると流石の雰囲気というのだろうか、少し怖くなった。
「先ほどまでの話は大体聞いていたな。悪いがこの条件でならお前を置いてやれる。どうする、この場で決めろ。それとマリー、お前もこちらに来い」
見張りが付き、下僕として働く、これぐらいの条件なら平気だ。むしろ、ありがたい。何より、外に出てその辺で死ぬことを考えると答えは決まっているようなものだ。
気付くとマリーが横に並んでいた。僕はマリーの方を向いて笑うと、彼女も僕の方を向いて笑い返してくれた。
「はい。よ、よろしくお願いします!」
国王に向け、深くお辞儀をした。そうして、これからここで働く覚悟を決めた。
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