1-4:赦しの代償
2月7日:改稿
「ご、ごめん! マリー」
「申し訳ありません、マリー様」
僕たちは部屋から出てきたマリーの顔を見ることなく、頭を下げた。マリーは今、一体どんな表情をしているのだろうか。それは僕たちには分からなかった。
5秒、10秒と経過しても返事はない。だが、頭を上げることはできないでいた。クルスも同じようだ。
少しの間沈黙が続き、その空気を裂くようにマリーの声が聞こえた。
「本当、最低なんだから。とりあえず頭、上げなさい」
僕とクルスは頭を恐る恐る持ち上げる。
マリーと目があったその瞬間、頰に電気のように強い衝撃が走った。
「痛っ!」
「くっ!」
突然のことだったので頰の痛みが叩かれたものだと理解するまでに少し時間がかかった。
驚いた僕とクルスは頰を手で抑えながら、マリーの顔を直視することしかできなかった。
「とりあえず、これで許してあげる。ありがたく思いなさい」
思いっきり力を込められたビンタ1発。この1発でとりあえずは許してもらえたようだった。
二人揃って、腰の角度を90度に折り曲げ、マリーに感謝した。しかし、何か変な気持ちだ。ビンタされて「ありがとうございます」って本当に変な状況だ。
(本当は悪くないのに、事故なのに……)
少し納得いかないが、まあ、これぐらいで許してもらえてよかった。もっと凄いことになるんじゃないかと想像していたため、拓真はホッと胸をなでおろした。クルスも先ほどの青ざめた表情から、なんとか生気が戻ってきているようだ。
頰はまだヒリヒリする。クルスの顔を見ると頰に赤く手の形がきれいに浮かび上がっていた。たぶん、自分の頰にも同じものができているのだと思う。
「少し、強すぎたかしら」
二人して頰をさすっていたため、心配してくれているのだろうか。自分でビンタしておきながら……。
「少し、強かったけど大丈夫……」
「平気です……」
「そっか……。まあ、待たせて悪かったわね」
謝ることに必死で部屋から出てきたマリーの格好を気にしていなかったが、服装がさっきとまるで違っていた。先ほどは男の子っぽい服装で半袖短パンといった感じだったが、その服装とは一変し、ワインレッドのワンピースを身に纏い、首にはキラリと光るペンダントを下げている。見た目がガラッと変わり、綺麗な女性へと変身し、大人びた雰囲気だ。
「いや、いいんだ。僕たちが早すぎたんだ。着替えてすぐに来たから。それより、すごく綺麗だ、よく似合ってるよ」
もちろん本心だ。先ほどの件があったから意図的に褒めているというわけではない。しかし、「綺麗だ」なんて、声に出すとは自分も考えていなかった。言ってから気づき、顔が熱くなるのを感じる。ビンタされていることもあり余計に熱い。
「そ、そう。良かった。あなたも意外に似合ってるわよ、その格好」
拓真は改めて自分の服装を見る。白いシャツに黒で統一されたジャケットとズボンを着るという、かっちりした服装だ。自分で鏡で確認した時はどうなんだろうと思っていたが、マリーに似合ってると言われて満更でもなかった。
「ありがとう」
一方、許しがでて安心している様子のクルスだが、拓真とマリーの様子を伺い、口を開いた。
「それで、どうなさいますか? ディナーまで少々時間がございますが……」
「そうね。微妙な時間だし、街の案内は明日にしましょう。それにディナーの前に父にあなたを紹介しておく方が良さそうだし、先に父のところに行くわ」
拓真はマリーに反対する事なく、彼女の意見に頷いた。
「では、そうしましょう。それで、私は現在、拓真様の従者なのですがご同行しても構いませんか?」
「いいんじゃない。でも、お父様の部屋には入れないかもしれないけど」
「構いません」
「そうと決まったら行きましょう」
「マリー様、しつこいようですが、先ほどのことは本当に申し訳ありませんでした」
「もういいのよ。さっきの事は無かったことにしましょ。お父様にも言わないから心配しないで。拓真も分かった?」
「承知しました」
拓真は了解という意味で即座に敬礼のポーズを取った。
「ありがとうございます」
クルスは心の底から安堵し、国王の部屋までの案内をするため歩き出した。
国王の部屋は五階らしいく、僕たち三人はそこに向けて歩みを進める。国王というのは一体どんな人なのだろう。怖い人でなければいいけど……そう願いながら、内心ドキドキしていた。
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