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現実より、異世界生活⁉︎  作者: ちゃぐ
4/40

1–3:予期せぬ事態

2月7日:改稿

 着替えも終え、マリーと合流するため部屋を出た。外には、先ほど老人が言っていた通り、黒いスーツを身につけた男性が姿勢良くして待機している。


「お着替えは終わりましたでしょうか?」


 男性は身だしなみをしっかりとして、髪を綺麗に七三に固めている。好青年風で年は拓真より上のようだ。


「はい、何とか」


「それでは、行きましょうか」


 「こちらです」と、手で行く先を示すと、彼は案内のために拓真より2、3歩先を歩いていく。


「あなたはここで働いているんですか?」


「はい。私は従者をしています。先ほど拓真様を部屋まで案内したシルヴァさんは執事ですが、私はその下っ端みたいなものです」


「そうなんですね。よろしくお願いします……っとお名前は?」


「ああ、すみません。まだ名乗ってなかったですね。クルスと言います。以後、お見知り置きを」


「よろしくお願いします、クルスさん」


 弧を描いている廊下を進むと、先ほど一階から上ってきた際の階段が見えてきた。階段は上にも続いており拓真たちはさらに上へとその階段を一段一段と上っていく。


「クルスさんは何歳なんですか?」


 無言の時間もお互いに気まずいと思い、拓真は話を振る。しかし、会話のタネが思いつかなかった為、ごくごく普通の質問になってしまった。


「私ですか、つい最近19になりました」


 クルスはこちらを振り向くことなく、前を見据えながら淡々と答えている。


「ええー、おめでとうございます!」

「恐縮です……」

「じゃあ、僕の3つ上ですね」

「それでは16歳ですか、もう少し若いものかと思いました。幼く見えたもので……ああ、すみません。決して、悪く捉えないで下さいね。顔立ちが青年というより少年に近いと思ったもので」


 クルスは失礼なことを言ってしまったと思ったのか、階段の途中で足を止めて申し訳なさそうに拓真に頭を下げる。


「そうですよね、僕もそう思っているので気にしないで下さい」

 彼に頭をあげるように言い、先を急いだ。


 やがて、目的地に着き、彼は足を止めた。


「こちらになりますので、ここでお待ちください。私が確認してきますので」


 そう言って、クルスは部屋を軽くノックした。


       ※


「ふふーん、ふーん」


 浴室には陽気な鼻歌と水が流れる音が聞こえる。さらに霧で覆われているかのように湯気も立ち込めている。

 彼女は拓真と分かれてから自分の部屋へと向かい、今現在、シャワーを浴びているところだ。



 拓真と別れた後、私はすぐに自分の部屋に向かうことにした。部屋があるのは四階。

 階段を駆け上がり、まっすぐに部屋に向かおうとするが、肩からかけた布袋に先ほど弓で射止めたカラスを入れているのを思い出し、先に調理場へと向かった。調理場には、ディナーの準備があるからだろう、忙しそうにしている料理長が忙しなく動いていた。そんな彼を捕まえ、血抜きを済ませたカラスの首を手づかみして差し出した。


「カラスを獲ってきたの。食べさせたい人がいるから夜のディナーの時に調理してくれる」


 食べさせたい人物というのはもちろん拓真のこと。彼にカラスの美味しさを教えてあげたいと考えていた。


「かしこまりました。調理法はいかがいたしましょう?」


「任せるわ。あなたが一番美味しいと思えるもので。よろしくね」


 そう言って、調理場を後にした。調理場は三階にある為、マリーは急ぐ必要もないのに階段を一個飛ばしにして、4階にある自分の部屋へと駆け込んだ。

 服が多少汚れているため、着替えることにしたが普段ならこれぐらいの汚れなら着替えることはないだろう。しかし、今日は父親が帰ってきている。そして、何よりパーティーなので、こんな半袖短パンのような王女らしくない格好ではなく、品のある服装に着替えないと城へとやって来る客人に笑われてしまう。


(それに拓真に私の綺麗な姿を見せつけてやる)


 部屋には多数の洋服がクローゼットへとしまわれている。

 マリーはどの服に着替えようか悩んだ末、どうせ着替えるなら汗をかいた体を洗い流そうとシャワーを浴びてしまうことにした。


      ※


「ふふーん、ふーん」


 陽気な鼻歌を歌いながら、適度な暑さになったシャワーを浴びる。髪や体を綺麗に洗い、泡をシャワーで流す。そうして、湯船に溜めていたお湯に体を落とした。


「はあ〜、気持ちぃ〜」

湯に浸かりながら腕を上へと持ち上げ、伸びをした。

 のぼせるのも良くないので適度に浸かって上がることにした。浴槽から上がると純白のふわふわとした雲みたいなタオルで体を拭いていく。


(久しぶりに楽しくなりそう)

 

 拓真というこの世界のことを何も知らないと言う、変な奴が目の前に現れた。彼の存在がこれからの生活を楽しいものにしてくれるはずだ。それに、なんだか彼とは仲良くなれそうな、そんな気がしていた。

 長い金色の髪をタオルで挟んで叩くように拭いていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。しかし、服も選んではおらず、着るものが手元になかった。仕方なくその場にあるタオルを体に巻いて、返事をしてから扉を開けた。


「はーい。どなたですか?」


 マリーは内心、従者だろうと考えていた。

 それは、今日、城を抜け出す際に従者が付いてこようとしたので、いつもの事だが従者を撒いて外出した。そして、誰かから聞いて、私が帰ってきたのを知り、部屋へとやってきたのかと思い、扉を開けてしまった。誰なのか、何の用なのか、ちゃんと確認するべきだった。マリーに仕える従者は女性だ。しかし、ドアを開けると外に立つ人物は、従者は従者でも私に仕えている従者ではなく男性の従者だった。そして、その従者の後ろには見覚えのある人物がもう一人立っていた。


「マリー様、拓真様をお連れ……⁉」


 頭を下げ、用事を説明すると共にゆっくり頭を上げて、彼女と視線を合わせる。


「どうしたの、クルス……⁉」


 拓真はクルスの少し後ろで待機していたが、彼の動きが急に静止したので、どうしたのかと覗くようにして一歩前に歩み出た。


「っ!」


 驚きと共に軽く息を呑む。目の前にはタオル一枚でそれ以外には何も身につけていていない女性がいた、というよりマリーだった。体にタオル一枚だけを巻いて立つマリーだ。

 風呂上がりなのか、マリーの顔は紅潮し、体からは湯気が出ては消えていた。その姿はとても色っぽく、自分の顔が熱くなったのがわかる。そして、反対に彼女の顔はどんどんと青ざめていくのが目に見えてわかった。


「うそ……てっきり従者だと……。ちょ、ちょっと何つっ立って、見てんの!」


 僕とクルスは突然の出来事でその場を動くことができなかった。

 ものすごい勢いで扉がしまり、クルスの鼻先をかすめる寸前だった。


「す、す、すみません! わ、私は……」


「ご、ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」


 従者のクルスと拓真は二人揃って弁明する暇もなく、扉は閉まり、マリーの姿は見えなくなった。

 タオル一枚巻いているとはいえ、マリーの露出度の高い格好を見てしまい、どうすればいいのか分からない拓真とクルスはその場でたじろいでいた。特に従者という立場のクルスは顔があからさまに青ざめていった。


 とても恥ずかしい格好を彼らに晒してしまった。最悪だ。

 外にいる二人は申し訳ないと謝ってきているのが聞こえてくる。正直、私が確認しなかったのが悪いのだが、あんな格好を見られたということの恥ずかしさから、自然と怒りへと切り替わっていた。


「とりあえず、着替えるからそこで待ってて!」


 従者だと思っていたし、拓真たちがこんなに早く来るなんて思ってもいなかった。部屋で着替えて、ゆっくりしてから来るとばかり。

 とりあえず、体に付いていた水滴を拭き終わり、服を選ぶことに。外では二人を待たせているが、ゆっくりパーティーに着ていく服を選んだ。


 部屋の外にいる拓真とクルスは大人しく待つことに。

 僕は壁に背中を預け、クルスは扉から少し離れた所で、体は直立不動にして顔は真下を向くようにしている。反省しているのだろうか。でも、冷静に考えるとクルスは悪くない、そして僕も。完全に不意打ち、誰も予期せぬ事態だ。それでも、マリーが部屋から出てきたら謝って許してもらおう、そう考えた。それが正しい判断だろうから。


「クルスさん、マリーが出てきたら一緒に謝りましょう。それしかないです。正直に謝ればきっと許してもらえますよ」


「そうですかね。そうだといいですけど……」


 すごい落ち込みぶりだ。

 無いとは思うが可能性の話、マリーが国王にでも言ったらどうなるかなんて事を考えると彼が落ち込むのも納得できる。

 拓真とクルスの間に会話はなく、マリーが部屋から出てくるのをただ待っていた。


 マリーが怒って扉を閉めてから十分〜十五分ぐらいが経った頃ぐらいだろうか、準備を終えたマリーが扉を開けて出てきた。


(即座に謝る)


 僕はその事だけを考えていた。たぶんクルスもそうだろう。

お読み頂き、ありがとうございます


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