リヨク、思い出す。
一番最初の記憶は、視界を埋める光。
あまりにも眩しいそれに目を開けて居られなくて、強く瞼を閉じた。
それでも訪れた闇は完全ではなく、僕は動かし辛い両腕で無理やり顔を覆う。
何故か、そうやって触れた僕の頬は濡れていて自分が泣いていることに初めて気が付く。
たったそれだけの、意味の無いと言うには些か気になる記憶が、僕が僕であることを認識するたった1つの道標である。
ーーーーーーーーーー
やあやあ初めまして。僕の名前はリヨク。
いわゆる情報屋のようなもので生計を立てている。
まぁ何処にでも居るような、ちょっぴりイケメンなお兄さんだ。
僕的にはもう少し自己紹介をしておきたいのだけれど、そうも言っていられないのだら世の中は上手くいかない。
実は、先程から愛しの我が家の前で何やら争い事が起きているらしいのだ。
まだ鶏も起き出していない夜明け前だと言うのに、はっちゃけているのは何処の誰なんだろうか。
傍迷惑にも程があるよ全く。
え?
助けにいかないのかって?
そうは言ってもどちらが加害者かも分からないからね。
いくら一方的な様相に聞こえようが、そいつが、例えば相手の男の妻を寝取ったとか、誰かの彼女のストーカーとかだったら助けた僕の方が悪者になってしまう。
確かに我が家の軒先に誰かの死体が転がるのは良しとしないが、門には以前付与のおばさんに不可侵の印を刻んでくれたからね。
僕のテリトリーは無事だ。
この五月蝿さでは寝直すことも出来ないだろうからゆっくりコーヒーでも飲ませて貰おう。
静かになったら役所に電話位はしてあげるから悪くは思わないでくれよ。
ドンドンドン
「……」
突如として家を揺らす勢いで扉が叩かれ、危うくカップを落としそうになる。
ドンドンドンドンドン
いやいやいやいや、不可侵何処行ったし。
何でここ3年1度も叩かれなかったマイドアが産声を上げているんだい?
え、普通に怖いんだけど。
僕は出来る男だから、慌てず今にも壊れそうな扉を観察しながら手元のコーヒーをしっかり飲み干し、序に机の上のパンを頂いた。
今でも思い出す。
そこまでしても、鳴り止まない扉を嫌々開けた時。まさにその瞬間から僕の人生は僕の掌から無慈悲にも奪われたのである。