七話:王子
開けっ放しのドアから顔をのぞかせたのはディー。
「なんだ貴様は、さては怪物が人に化けたな?姫を開放しろ!!さもなくば…」
王子は自身に酔って剣を抜く。
「何コイツ、頭逝ってんのか?でも、よかったなマリィ。王子が迎えに来て。」
そう告げるディーは何故か苛立っているようで頻繁に肩を揉み、首を回している。
「王子さんよ。」
ディーが王子に一歩ずつ近づくたびに王子は「ヒィッ」と声を漏らす。
弱ッ!!ポエマーでナルシスト、お伽噺狂でおまけに弱いの!?
この王子だけはないわ…。と、マリィは内心毒づきながら2人のやり取りをみることにする。
「マリィが嫌がってるのに手を離さないとは何事だ?俺は自己中心的な男が嫌いでね。そんな男にマリィは任せられないな。」
「ふ、ふん!!何を怪物の分際で…今まで彼女を閉じ込めておいた怪物が何を言っている!!」
「怪物?確かに俺は怪物だ。だったら何か?俺を倒すか?お前みたいなひ弱で弱腰な甘ったれた王子さんに倒せるかね?」
ディーはひとしきり挑発すると指を鳴らし、王子が持っていた剣を消した。
王子は勝ち目がないと思ったのか、「申し訳ありませんでした!!」と、ディーに土下座して謝る。ディーはボリボリと頭を掻きむしる。
「王子さん、名前は?」
「…アノール・シクワーズ。この国の第三王子です…昔からお伽噺が大好きで、その中でも一番好きな物語の『眠り姫』は絶対いるんだって世界中を探してて…」
アノールのある単語にいち早く反応したのはマリィだった。
「シクワーズ!?この国の王子!?他国の王子じゃないの!?」
「はい、つい先日まで護衛をいっぱいつけて、他国に『眠り姫』を探しに行っていたんですけど、みんなから見放されて今回は一人だったんですよ。だから、一人だと他国は怖いし、この国なら調べられるかなって思って…」
「つまりは…」
「はい、僕、この国の王子です。」
「はぁー、ということはアンタのお父さんかおじいさんってゼリル・シクワーズ?」
マリィは腕を組みながらやれやれと顔を振る。
「いや、ゼリル・シクワーズは僕の叔父さん。まあ、歳はお爺さんだけど何だかカッコいいんだよね。老紳士?ってやつっぽくて。」
「じゃあ、お母さんかおばあちゃんってパレット・シクワーズ?」
「うん。パレット・シクワーズは僕のお祖母ちゃんだよ。とっても優しいんだ。でも、ゼリル叔父さんとは顔を合わせるたびに喧嘩してるな。」
その言葉を聞いて、マリィは頭を抱える。
「大丈夫かマリィ。」
「…そうよね…私が母国に幽閉されてたら、その国の王族は血縁者よねぇ…」
「えっ?意味が分からないんだけど…」
「細かく説明したら長くなるけど、大まかにいうと私、マリィ・シクワーズはアンタの叔母よアンタより若いし、表現あってるか分からないけど…」
「…ああ、そうか。マリィが眠っている60年の間、戦争も革命も無ければただの血縁者になるのか。」
ディーは「なるほどなるほど。」といかにも楽し気に頷いている。
未だに困惑しているアノールには長くなるが一から私の今までの経緯を伝えようと床に座らせて話した。
アノールは終始気が抜けたように茫然と聞いていたが理解はできたらしい。
「はあ、もう…なんか疲れちゃったわ…もう王子様なんてこりごりよ…アノール、アンタ城に帰りなさいな。『古城に眠る姫なんてやっぱりこの世にはいなかった』ってアンタが言えば『ほら御覧なさい』ってみんな納得するわ。そうすれば私はただのマリィ姫に激似の人として多少は住みやすくなるし。」
「なんか…もうこの世には僕の御伽の姫様は居ないって分かったよ。探すのはあきらめるよ。またね、若いおばさん」
「おばさんいうな!!…たまに、遊びに来てね。ゼリルとパレットの話しも聞きたいし。」
アノールは「まかせて!」と元気にいうと乗ってきた白馬に乗って行ってしまった。アノールを見送り、見えなくなった途端マリィはディーの胸にすがり
「まだ…生きてた…」
と言葉を零し、顔を埋めて泣いた。
泣いているマリィをディーはそっと抱きしめ、ポンポンとあやすように背中をたたいてあげた。
_「王子!!二週間も居なくなって心配しましたよ!!近衛隊も派遣させてそりゃもう血眼になって!」アノールの臣下はカンカンに怒っている。
「あー…ごめんなさい。…最後にこの国の森を探検していたんだ。どの森にも姫はいなかったよ。…僕はもう、姫探しを諦めることにするよ。」
「ほう。それは懸命な判断です。」
臣下は蓄えた白く長いひげを引っ張るように触る。
「…森にいたのは、美しいおばさんだけだった。」
「?なんですか王子、それ?」
「なんでもない。叔父様とお祖母様は居る?僕今、凄く2人と話がしたいんだ。」
一人旅を終えて、少し大人の顔だちとなったアノールを見て臣下は、
微笑みを浮かべていた。