六話:来る者
そんな迷惑な訪問者が来てから二週間余りが経った。
マリィが籠を持ちながら山菜を取りに勤しんでいると、前方数十メートル先に人が倒れている。
あまり興味がなかったのでゆっくりと近寄ってみる。
するとそこには、上質な服を着た金髪の男性が眠っていた。
こんなところで寝ていては獣に襲われてしまうと考えたマリィは持っていた水を顔に浴びせ、様子を見た。
それでも気が付かないので、諦めたマリィはフードを深く被り、スタスタと町のほうへ歩く。
この二週間の間に仕事がしたいとディーに頼み込み、フードを深く被って山菜を売るくらいならしてもいいと許可をもらったのだ。
売って出来たお金が私の手取りにそのままなるので、最近は専ら山菜を取っては売っていた。
今日も籠いっぱい取れたので、ウキウキしながら町の方へ進んでいると、先ほどの金髪の男性がどこにあったのかわからないが、白馬に乗って訪ねてきた。
「ねえ君、この森に古城はあるかい?」
「はい、ありますが…何か御用ですか?」
怪しい人に余計なことは教えてはいけないので、用件を聞いてみる。
「そこにいると思われる眠る姫君を助けに行きたいのだが…」
マリィは「姫君」という単語を聞いた瞬間、籠をその場に落として古城へ走った。
馬よりも、風よりも、沈む太陽よりも早く走った。
来た王子のために…急いで扉を開け、ディーに事を説明する。
ディーは全く興味が無く何故か少しイラついているようで、部屋への通り道であるリビングから退こうともしない。
「ちょっと!!王子が来るのよ!!せめて自室に戻って!!」
「えっ、なんで?ここ俺の家だし…しかも俺の部屋って今マリィが使ってる…」
「ゴチャゴチャ言ってないで早くリビングから出て!!」
マリィは大声でディーを一喝したのち、現在のディー自室に押し込んだ。
その後、急いで元着ていたドレスに着替え、頭にティアラ、首にネックレスをし、寝たふりを決め込んだ。
寝たふりから大分時間が経ち、ようやく「姫君!!」と、隣の部屋を直撃している音が聞こえる。
隣よ隣、早く迎えに来て…。
心待ちにしていると、ようやく「姫君!!」と、部屋の扉が勢いよく開く。
「おお、なんと美しい…まるで花のよう…いや、花ではたとえ切れない。まるで天女のよう、…天女では人ではなくなってしまう。…ともかく私は恐るべき怪…いや、怪物はいなかったから、森の果て…森の果て?結構あっさりみつけたから…」
うるせぇ、なげぇ。早くキスしろ。
そう思っていても王子のポエムまがいのセリフは続く。
----数時間後
「ああ、美しく愛しい人よ、貴方はこの美しい僕にピッタリ…この美しい僕の傍がよく似合う。今、ここに真実の愛のキスを…」
「いやぁああ!!!!」
流石に数時間自分自身の良さや私の容姿について語る人と結婚するなんて嫌だった。
金髪に青い目…性格さえ残念じゃなければ理想の王子様だったのに…
「少し物語が違うけどまあいいか…ああ!!僕の愛の力で目覚めた!!よし、今すぐ城へ帰り、結婚式を挙げよう!!」
「えっ!!っちょ、イ、イヤ!!」
「なんて謙虚な姫なんだ…でもいいんだよ?僕はもっとわがままな姫でも受け入れるからね?そういうお伽噺もあったし…」
「違うから違うから。いいから離して!!」
お伽噺狂のキモい王子だが、男ということに変わりはないようで、凄い力で私の腕を引っ張る。
「もう!!痛いし!!離して!!」
「僕の天使、さあ、進もう!!僕たちの新居、白亜の城へ。」
「おい、なんの騒ぎだ?」