五話:魔法使い
_「またですか王子!?もういい加減正気に戻ってください!!」
「僕はいつだって正気さ。正気じゃないのは君たちの方だよ。怪物の住む城に眠る姫君を助けずに何が王子だ!!」
「そういってもう何か国巡りましたか!?」
「何か国だって巡るさ!!彼女のためなら!!止めたって無駄だよ!!僕は一人でも行く。」
「いや、王子一人でなんて行ったら二日目で行倒れるでしょ!!」
「う、うるさい!!」
王子は一人、馬にまたがり、遠い森を目指してかけていった。
「王子ー!!!!無理だから帰ってきてくださーい!!」
臣下の叫びはむなしく木霊するばかりだった。
_マリィがパタパタと走っていくのを確認すると、ブラッドが口を開き始める。
「貴方本当に何者?俺さ、この世界で一番強い魔法使いだと思ってたのよ。それがどうよ?俺の魔法より遥かに強烈な魔法を使うし、貴方老けてないよね?」
「それはこちらのセリフだ。マリィに知識がなかったから良かったものの、何故魔法使いが180年も生きている?普通は人と同じ寿命のはずだ。」
「言ったよね?俺はこの世界で一番強い魔法使いだと思ってる。その理由の一つだよ。俺は自力で『老けない魔法』『長寿の魔法』を見つけたの。だから老けないし、長生きなの。でも、この魔法は常に発動していなければならない。貴方が言っていた体臭というのもこれのことだろう。そんなことはどうでもいい。問題なのは貴方、貴方は俺が使っている魔法と同じものを使っているのであれば、常に発動していなければならない。しかし、貴方は発動している気配がない。と、いうことは俺が見つけた魔法とは別の魔法で長寿と若さを手に入れたということになる。どう?あたり?」
ブラッドの話を聞き終えたディーは、薄く嘲笑ったのち、自分のことには触れずに話し始めた。
「…『老けない魔法』に『長寿の魔法』?くだらないな。死ぬからこそ生に意味があり、老けるからこそ今が愛おしいんだ。」
「貴方には言われたくないけど?それで?どうやって長寿と若さを手に入れたの?」
ディーの顔には何とも言えないような顔が浮かぶ。怒っているような、悲しんでいるような、不思議な表情。
「お前なんぞには言わない。…これは…俺の贖罪だ。」
そう嘲笑いながら眉間にしわを寄せ、泣きそうな顔で言い放つと、ディーは『魔法断絶結界』を解く。
「早く俺の城から出ていけ」
冷たいその言葉にブラッドはため息をつく。
「…わかった。出ていく。また、来るよ。」
ブラッドはそう告げると煙のように消えていった。
すれ違いにマリィがリビングにやってき、手には美味しそうな料理、服は動きやすいエプロンドレスに着替えていた。
「ほう、今日はまた一段とうまそうだ。また腕を上げたか?」
「ディーのおかげでね。あれ?ブラッドは?」
「ああ、用事があるそうで帰った。さあ、冷めないうちに食べよう。」
ディーはブラッドの話になると途端機嫌が悪くなるのは…気のせいかしら?