四話:来客者
会話過多
男はニタニタと笑いながら「やあ。」と軽く話しかけてくる。
ディーの方をちらと見ると眉間にしわを寄せている。
「何故だ。正面の玄関には魔法がかかっていたはずだぞ?どこから入った。」
「うん。正面玄関の魔法は強すぎて解けなかったから、空を飛んで窓から入ったんだ。一か所開いてたよ?」
開いていた部屋の場所を指す男の指が私の部屋の方向と一致したので、私はディーに睨まれてしまった。
確かに開けっ放しにしたが、こんなことになるなんてディーだって予想してなかっただろと内心で悪態をつく。
「そんな怖い顔で姫ちゃんを睨まないであげてよ。入った俺が悪いんだから。」
男はケタケタと笑いながら、悪びれもせずに話を続ける。
「まあ、こんな古い城に寄ったのはさ、他でもないよね?姫ちゃん。君が理由だよ。」
「えっ」
「なんで起きちゃったの?それが知りたくてね。」
「えっ、この人なんでそれを知って…」
「それは言えないよ」
と笑う男にイライラしたのか口を開いたのはディーだった。
「見た時から分かっている。お前がコイツに魔法をかけた魔法使いだろ?お前の体臭か知らないが、お前の魔法はほんのりと甘いにおいがする。」
「ご名答!魔法の天才と言われる俺の魔法が分かるなんて凄いね!!もしかして、王子にしかきこえない『あれ』も分かっちゃったの?」
「ああ。」
「だからチュ…キスして目覚めさせちゃったんだ!!自己満足で!!それが彼女の幸せだと思って?」
アハハハと馬鹿にしたように笑う男。
「やい、てめー」
「えっ?」
ドスの効いた声で呼ばれたので振り返ると、そこにあったのは白くしなやかな足。マリィが男にしびれを切らし、スカートということを忘れて魔法使いの顔面に回し蹴りを食らわせたのだ。
何が起こったかいまいちわからない魔法使いは女座りで頬を抑えながらポカンとマリィを見ている。
それはディーも同様で、腕を組みながら目を瞬いている。
「黙れよお前。その問題に関しては寝ざめてすぐに終わったんだよ。ていうか、魔法をかけた張本人なんだよね?」
男は高圧的な態度のマリィに、本能的にコクコクとうなづく。
マリィはため息をつき、続ける。
「そんなお前にどうこう言われたくないし、とりあえずお前がムカついたから蹴った。悪いと思ってないし、これから色々聞きたいこともある。ディー、出来たらコイツを逃げないようにしてくれる?」
「…あ、ああ。」
未だにポカンとしている魔法使いの男を丹念に縛り、逃げぬように対魔法使い用『魔法断絶結界』を男の周りにかけてくれた。
ようやく我に返った男は自分の置かれている状況を見て観念したようで「どうぞ」とだけ言う。
「マリィは何が聞きたい?」
「そうね、まず何故私が狙われたのか、目的は何だったのかは聞きたいわね。ディーも聞きたいことがあるの?」
「ああ、コイツのことなんだがな。」
そういうディーは魔法使いを指さしている。
「で?何から話せばいいの?俺の武勇伝?」
そう答える男は楽しそうに揺れている。
「そんな話は聞きたくないわ。じゃあ、まず名前からお願いしようかしら?」
「わかったよ。えっとね、俺の名前はファルズ。」
「嘘だ。」
ディーは食い気味に会話を止め、そう告げる。
「真実だけを話せ。お前くらいの魔法使いの嘘なら、見抜くのは息をするよりたやすいぞ?」
「…アンタ何者なの?」
「質問返しなんていいから名前を答えてよ!!」
いい加減イライラし始めたマリィは声を荒げていう。
「…ブラッド。」
「どうして私を狙ったの?」
「可愛かったからだよ。」
ディーが反応していないのを見ると本当なのだろう。マリィは照れ隠しに「ヤダ、正直。」と言いながらディーの肩をバシバシと叩く。
まだ照れているマリィに代わってディーが問う。
「目的があるだろう?目的は何だ。」
「それは…」
口を濁す魔法使いに『強制』という尋問の時に使う魔法を使う。
「…ど、……ど…」
「ど?」
「…童貞を…卒業したかった…」
魔法使いがあまりに突飛な発言をした瞬間、あたりは水を打ったように静かになった。
「…誕生パーティーの姫ちゃんは、あまりに可愛くて、姫ちゃんになら、俺の童貞を上げてもいいかなって思って、ここに眠らせて…」
「えっ!?ということは私もう…乙女じゃないの…?」
震え声で泣きそうになりながら問うマリィに「違う!!」と大声で反論するブラッド。
「眠っている可愛い姫ちゃんを前に緊張しすぎて何もできなくて…でも、城に返すのは嫌だったから、この古城に置いて、最初に訪れた王子に姫ちゃんをあげようと…」
「私…そんな遊び感覚でこの城に置き去りにされたんだ…」
マリィは深いため息をつくとその場に座り込んだ。
「お前、歳は?」
「ん?ああ、180歳。」
見た目は15、6にしか見えない魔法使いは物凄いカミングアウトをしてきた。「クソ童貞だな。」
「本当、クソ童貞。6倍の魔法使いね。早く卒業しなさいよ魔法使い。」
眠らせたダサい理由や180歳で童貞というヘタレさから、2人は冷ややかな目でブラッドを見つめる。
「でも、凄いね。魔法で私が起きたのが分かったから来たんでしょ?」
「いや、全然。」
「…えっ。」
「ただ俺は半年の周期で姫ちゃんが無事か確認してるから来ただけだよ?あ、でも今回はもう一つ理由があった!!」
突然顔に笑顔が戻り話を続ける。
「そうだよ姫ちゃん!!お伽噺好きの第三王子がお伽噺のような古城を探しているから、この森に入ったら迷わずこの城に来られるように案内しようと思ったんだよ!!」
「えっ!?本当!!姫君(自分のこと)起きてるけど大丈夫かな?」
「あ、でも、何時着くかもわからないし、今は海を越えた大きな大陸の古城を巡ってるみたいだし、どうなんだろね。」
ブラッドはまた楽しそうに身体を揺らしている。
「ならしばらくは来ないかな?半年に一回じゃ心もとないから、ちょくちょく情報持って来てね?ブラッド。」
「…あれ?俺、パシリ?」
「だが、これで万事解決だな。さあ、マリィ。食事の支度をしてくれ。この魔法使いも招かれざる客とはいえ客は客、持て成すのが俺の流儀だ。3人分用意してくれ。」
ディーは何故か少し機嫌が悪そうで、イライラしているときに見せる癖をしている。機嫌が悪いディーにはかかわらない方がいいのですぐに「わかった。」と告げて
部屋を出た。