二話:目覚める姫君
娘はいなくなっているが、浴場から美しい声がする。
とりあえず部屋から出て頭を整理する。
俺は魔法で眠っていた娘にキスをして、起きなかったためその場を離れた。
そして、自室確保のため娘を移動させようとしたら、今度は娘は起きていた?
ただ今入浴中…?
急いで下の厨房へ降り、料理作りにとりかかる。
いくら魔法で眠っていたとはいえ寝起きで腹が減っているに違いない。
簡易的な料理を持ち娘の部屋をノックする。
中から小さく「どうぞ。」と聞こえる。
歳甲斐もなく胸が高鳴る。
一息ついてからドアを開けるとそこには凛とした美しい娘がベッドに座っている。
ベージュ色のショートボブにブルーの瞳、後ろの窓から光が差しより神々しく見える。
「…お食事ですか?ありがとうございます…ところで、王子様はどこですか?」
「へっ?」と間抜けな声を出す。
「ですから王子様です。私は魔法使いにより、この古い城に眠らされていたマリィ姫。貴方は王子様の召使いか何かでしょう?」
「あの…姫…」
「ああ、貴方の主と結婚するんですから、これからはマリイ王女と呼んでくださいまし、ところで王子は美男子?美少年?それとも美丈夫?私、眠りから覚めるときに顔を見ていないの。」
「あの…えっと…」
「何?言いたいことがあるなら言ってごらんなさい?今の私は機嫌がいいから聞いてあげますわ。」
「あの…まず、王子は…いません。目覚めさせたの…俺です。…なんか、すみません。」
「えっ?」
「俺、この古城の主なんですけど久々に帰ってきたら姫さんが寝ていて、姫にかかってる魔法の声を聴いたら『キスしろ』っていうもんですから、好奇心でしてみたらこんなことに…すみません。」
姫は笑顔から一瞬にして顔を真っ赤にして怒った。
「冗談じゃないわよ貴方!!私はお姫様なのよ!?しかも、お伽噺のように眠らされていた姫!!どうあがいても王子がキスするところでしょう!!というか、貴方私にキスしたの!?私のファーストキス返せ!!」
姫は俺の肩を強く揺さぶりながら叫んでいる。
どうやら少々ヒステリックなお姫様のようだ。
一通り俺の不満や悪口(主に髭について)とこの状況に喚くと落ち着いたようで穏やかに話しかけてきた。
「さっきは取り乱してすみませんせした…それで?貴方、名前は?」
「名前?」
「そうよ?だって私、ここで暮らすもん。私を眠らせた魔法使いはボコボコにしたいし、王子が迎えに来るまでここに居なきゃ。」
マリィは少し伏し目がちに「それに…」と続ける。
「それに…私が眠ってから何年経っているか分からないんだよ?今、城に帰って混乱させたら嫌だし…父様や母様、弟や姉が死んでたらもっと嫌だ…」
自分勝手に眠らされ、自分勝手に起こされた姫は居場所を失い、途方に暮れている。俺は少し同情した。
「…姫さん一人なら養えるし、好きなだけいてください。半分は俺が悪いですし。」
「当たり前でしょ?まったく、この落とし前は無精髭剃ったら許してあげる。嘘よ、もう気にしてないから。」
「どうしてそんなに姫さんは髭を気にするんですか!?」
「だって!!絶っっっ対髭を剃ったら王子様なんかより絶対カッコいいわよ!!今のままだとダンディーなオジ様って感じだけど、主っぽくはないわ。」
「…余計なお世話です。」
「それと!敬語は無し。今日から私はただのマリィ、しかも貴方の城の居候。貴方は家主なんだから。」
「わかった。」
「よろしい、あれ?そういえば名前は?」
「ああ、俺は…ディー。」
「ディー?変わった名前ね、私はマリィ・シクワーズ。よろしくね」
マリィは満面の笑みでディーに手を差し出す。
ディーはマリィの差し出した手を少し見つめてから強く握った。
ヒロイン登場