二十八話:過去のすべて
昔々、この国のある施設にとても頭の良い少年が居りました。
少年は頭の良さを買われ、城で魔法使いとして働くことになりました。
少年は二年ですべての魔法を使えるようになり、五年で国の利になる魔法を開発しました。
彼は神童と呼ばれ、みんなから頼りにされました。
彼にはひそかな趣味がありました、それは城に住む吸血人に話を聞くことです。
吸血人も世の中の人々にもっとよく吸血人を知ってもらいたいと思っていたので快く質問に答えていました。
彼は何本も論文を書き、本を出しました。
しかし、悲劇が彼を襲いました。
吸血人に誤って血を吸われてしまったのです。
この時少年は13歳になったばかりでした。
吸血人になった少年は元は魔法使いです。
基本魔法使いが吸血人になることは許されていません。
力のバランスが崩れるからです。
魔法使い自体強力な力を持っているので吸血人になりたいという人はまずいませんが、彼は国に消されるか消されないかの瀬戸際でした。
しかし、彼は国に身勝手に拾われ、国のために働かされ、国のせいで吸血人になりました。
死ぬのも国の身勝手というのは心が痛んだのでしょう。
城の偉い人たちは少年に少しのお金と一頭の馬を持たせて城から追い出しました。
何故か彼に城へ対する憎悪は全くありませんでした。
それどころか彼は吸血人になったことを少し内心喜んでいました。
自分の身体で色々と研究できるからです。
そして、世界中にどのくらい自分と同じ魔法使いであり吸血人である禁忌の存在がいるのか、それが知りたくて西廻りに世界を旅し始めました。
聞いていた通り血を飲まないと身体は大人に成長していきました。
20年程経ち、少年は成熟した男に変わり、世界の9割を旅し終えました。
しかし、自分と同じ身体の人は居ませんでした。
それはそれでいいと思い、懐かしい故郷であるこの国へ帰りました。
長旅で疲れ、とある旅館で休んでいると下から物音が聞こえたので飛び出して駆けつけました。
その時から男の運命は変わりました。
下に居たのは倒れている男と悲鳴を上げている従業員。
男は倒れて虫の息になっている男を助けようと一心不乱に噛みつき、血を啜りました。
するとみるみる男の怪我は治り、男は気が付き起き上がりました。
ホッと安堵のため息をついていると男は生きていることに困惑して発狂し始め、頭を掻き毟り、涙を流しながら壁に何度も頭を打ち付けました。
すかさず男を押さえつけて状況を説明すると、男は「そんなことは頼んでいない。俺はこの世から逃がれるために死にたかったんだ。」と言い、そのまま暴れてその場から逃げだしました。
そして自殺を図った男は、助けた男の前で死にました。
一度、二度と死ぬたびに笑いながら、泣きながら、謝りながら死んでいきました。
自殺男をまた助けることもできましたが、また助けたところで死ぬと悟っていました。
なので、男は自殺男が死ぬまでずっと見ていました。
ずっとずっと見ていました。
そのあと聞いた話、自殺した男は妻に浮気をされ、友人に裏切られ多額の借金を抱え、職をクビになり、もう生きているのが嫌だったそうです。
男はその話を聞いて心に決めました。
もう二度と人を吸血人に変えることはしないと、そして、不運な人生をたどってしまったその男「ディーク」のためにも自分の生を「ディーク」と自分の二人分謳歌しようとまた旅へ出ました。
鎮魂の意味を込めて共通のあだ名であろう『ディー』という名を使って…それから約150年ディーに二度も自殺させてしまったという罪悪感と世界を全て知りたいという探求心だから故郷へ近寄ることもしていませんでした。
時が経ち、過去から目をそらすのをやめ故郷へポツポツと帰るようになったとき、
その時に見つけたのがこの古城でした。
男はこの古城がとても気に入りました。
誰にも見つからないところにあり、大きく雰囲気が大昔に住んでいた城に似ていたからです。
そして旅へ行って帰ってきてを繰り返して200年余りがたち、半年程前に男はまた故郷へ帰ってきました。
休もうと自室へ戻ると一人の美しい娘が眠っていました。
娘は眠らされていた本物の姫でした。
姫を起こしてしまった男は最初は少しの罪悪感と情けで接していました。
しかし、姫の明るさや姫の周りに集まる人々のおかげで長い間忘れていた人とかかわる楽しさや嬉しさを取り戻していきました。
そして、男は段々と姫が好きになりました。
喉の渇きも徐々に増し、血に抗うのも段々と困難になってきました。
そろそろ姫と離れなくては彼女も吸血人にしてしまうと思っていながらも彼女を誰にも渡したくない、彼女を悲しませたくないとずっと離れることを先延ばしにしていました。
そんな矢先に姫から告白をされました。
男の心は揺れました。
姫と幸せになりたい一方、このまま一緒に居ては姫の血を啜って人では無くしてしまう。
それに男は、姫に過去の話をずっとしてきませんでした。
男は心の中で沢山葛藤しましたが、話をして姫に嫌われることを恐れるのもあり、姫をうやむやに突き放しました。
そうしましたが、男は結局姫を突き放しきれずに城から飛び出していった姫を連れ戻し、すべてを打ち明けましたとさ。
おしまい。
「…どうだった?面白くない話だっただろ?これが俺の人生のすべてだ。」




