一話:古城へ帰還する主
俺は吸血人だ。
見た目、オジさんだ。
世の中のすべてが知りたくて世界を一周見てきたのだが…
「時間をかけすぎたな…」
もう細かくは覚えてはいないが吸血人として400年近くが経った。
その200年余りを世界旅行に費やしていたので俺の寝城、『忘れ去られた古城』は何か所か屋根が抜けているみたいだ。
古城といっても庭の塀も罪人を入れる塔も噴水も夜会会場もなくなり、森の中にポツンと立つやや大きめのお屋敷という感じなのだが、俺が住んでいたころより更に風化しボロボロになっている。
それもそうだろう、人の王で言ったら十代は代わっている時間だ。
俺は古城の壁に手を当て、昔を懐かしく感じてから古城の扉を開け、自室を目指す。
自室にだけは魔法をかけてあったはずと思い、自室のドアを開け、目の前に飛び込んできたのは見知らぬ美しい娘。
娘が己のベッドで寝ている。
ティアラをかぶり、控えめだが美しいデザインのネックレスをしている。
服も生地のいいドレス、姫様と思われるような恰好であった。
娘以外ではおかしな点はなく、魔法が効いているため自室は塵一つない状況が保たれていた。
俺はまず、娘は放置して己の城を掃除し、直すところから始めた。
とは言っても、部屋の真ん中に立ち呪文を唱えれば終わる掃除に城の修繕だ。
ものの30分で終わってしまった。
部屋を掃除してわかったことがある。
あの自室以外には人っ子一人おらず、あの娘一人で住んでいることが分かった。
しかし、各部屋の生活感のなさや埃の被り方からして、あの部屋から出た様子がない。
では、あの娘はどうやって食事をしているのだろう?
一瞬己と同じ吸血人ということも考えたが、他の部屋の埃があんなに沈殿するほど寝ていたらとっくに老いているはずであった。
…この娘は一体?もう一度自室に入り娘の顔を見る。
安らかに眠っている。
その場で匂いをかいでみると微かに魔法のにおいがする。
となると、この娘は魔法が使え窓から入ってきて、今はただ疲れて寝ているというのが一番無難な気がした。
ともかく起きるまで放っておいてやろうと思い、今日は綺麗にした客間で寝ることにした。
-それから二日後。
娘はまだ寝ている。
流石におかしいと感じた俺は今一度娘の傍により、顔に耳を近づけ、意識を集中させる。
すると、彼女ではなく彼女を覆っている魔法が【彼女にキスをしろ】と言っている。その声を聴き、俺は納得した。
これは『キスで目覚める』魔法だ。
彼女がいつから眠っているのかわからないが、眠っている間は歳も体力も衰えないという魔法がかかっている。
おまけに、この魔法は王子にしか聞こえないように細工してある。
この状況で俺には一つの疑問と好奇心が生まれた。
もしここで魔法が聞こえた、ただのオジさんがこの美しい娘にキスをしたら、この娘は目覚めるのだろうか?
自身この手の魔法は得意ではなく、また興味もなく知らなかった。
俺は好奇心から娘の唇にキスを落とした。
しかし、キスをしても何も起こらず、思わず失笑しながらその部屋を後にした。
次の日の朝、寝ているなら客間に移そうと娘のいる部屋に行くと、
娘がいなくなっていた。