十八話:終結
今回長めです。
「ちょっと!離しなさいよ!っていうか攫ったの誰よ!!もうロープ痛いしお腹すいたし家に帰して!!」
ギャーギャーと一人騒ぐマリィ。
「私をお忘れですか…姫様…」
突然暗闇だった部屋が明るくなり目をつむる。
目が慣れ、そこに現れたのは毎年誕生日に愛らしい人形をくれていた人形作りのサルヴァ。
最後に会った誕生日パーティーの時には確実に父と同じか父より少し上の年齢だったはずだ。
「どうして貴方が…しかもずいぶん若いし…」
目の前にいるサルヴァは私と同じくらいの年に見え、しかもこの前あった軟派男のように生気が感じられなかった。
マリィは若干引き気味にサルヴァを見る。
「勿論魔法で若返ったのでございます!もっとも、若返ったのではなくて記憶をそのままに人形になったのですがね。嗚呼、覚えていらしたのですね姫様!嗚呼、姫様!ずっと貴方を私の人形にしたいと思っておりました!出会った当時の少女のころから…」
「そ、それはどうもありがとう…でも、生憎私は人形になる予定はないのよ?このまま生を全うする予定なの。」
マリィの話を聞いた途端、サルヴァは人が変わったように冷たい目をマリィに向ける。
そして冷たい微笑みを湛えながらゆっくりと手を近づけてくる。
「何をおっしゃっているのですか姫様…姫様の美は一生保たなければもったいない…そうだ。」
サルヴァはしゃがみ、どこからともなくよく切れそうなナイフを取り出した。
「まずはその瞳をくりぬいて差し上げましょう。今のままでも素晴らしい青色ですが、もっともっと澄んだ色の義眼を入れて差し上げます…安心してください。魔法で痛みは無くしてあげますからね…コロッと変わりますよ。」
マリィが恐怖でガチガチと歯を鳴らしていると目の前のナイフが瞬時に一輪の花へ変わった。
「…早すぎますよ?魔法使いども。」
サルヴァは振り向き、憎々しげに立っている3人を睨む。
「ディー!ブラッド!ナタリア!…アノールは居ないね…」
いつもの4人ではなく3人だったマリィはどう反応していいかわからず
とりあえず困った顔をした。
「間に合ってよかった…」
「無駄口を叩いている暇はありませんよ!」
サルヴァは瞬時に3人に近づき、見えない弾を撃つ。
恐らくは空気弾のようなものなのだろう。
3人は四隅に吹っ飛んでいった。
それからの時間は、一瞬にも数時間にも思えた。
まず、ナタリアが私のスグ傍によって結界を張って私を守り、結界の外ではディーとブラッドがサルヴァと戦っていた。
サルヴァは人形だと言っていたがその通りのようで、いくら攻撃を受けても痛みを感じていないようにディーとブラッドに反撃するのだった。
しかし、終結は訪れた。
サルヴァの身体が文字通り崩れ、壊れたのだ。
予兆も見せずに突然頭と胴体、足と手がばらばらになり、柔らかいもので出来た胴体はボロボロで骨組み部分が見え、陶器のようなもので出来た頭は半分無くなっていた。
四肢が動けなくなり、戦いは終わった。
ナタリアが結界を解いたので、私は真っ先にディーではなくバラバラになったサルヴァの元へ向かう。
サルヴァの頭を恐る恐る拾い上げ、話しかける。
「…サルヴァ、どうしてこんなことをしたの?貴方は人形が好きだったけど、こんな狂ったものじゃなかった。どうして?」
「言イ訳みたいで申し訳なイですが、長年人形に魂ヲ預けテいたら…人形に意思ヲ持っていかれテいまシた。」
苦しげに笑うサルヴァは何かを隠しているようであった。
「本当に?私は知っているのよ、貴方にかつて家族があったことを…そして馬車の事故で死んでしまったことを…小さいころ話してくれたじゃないの。私、貴方のことを毎年楽しみに待っていたのよ?お城での少ない退屈しのぎの一つだったから。」
サルヴァは少し黙ったのち、口を開く。
「姫様二は敵いマせんね……似てタノデス。姫様は死ンだ娘二…もう、娘ヲ失いたくなかっタノデス。娘ダケでも幸せになって欲シかった…そう思うたビに姫様が死ンだ娘二見えてキて…姫様が死ぬまで私は見届けようと決めたのです…姫様の幸せは娘の幸せだと思イ…姫様が攫われ、眠っているのを見た時に、器である人形が私を乗っ取ったのでしょう。理由はなんとなくわかります。娘の幸せをと言っているのに、誰にも渡したくないという親心に似た気持ちが芽生えて心に隙が生じたのでしょう。それでこのようなことに…」
全て語り終えるとサルヴァは「ヒューヒュー」と喉で息をしている。
「ようは、死んだ娘の代わりにマリィを愛でて、子離れできずにいるところを人形に魂を持っていかれたと?」
悲しそうな目でそう訳すディーに寂し気に「ハい…」と答えるサルヴァ。
「サルヴァ…」
マリィは壊れかけたサルヴァの頬にキスをする。
「なっ…姫…さま…」
「今までそんなに私のことを思ってくれて…ありがとう。」
マリィは、サルヴァの命が短いと悟ったのと今までの感謝を込めて、
飛び切りの笑顔でサルヴァに微笑む。
その微笑みに答えるようにサルヴァは薄く笑い、動かなくなってしまった。
サルヴァはそのまま動かなかった。
「…恐らく操っていたという人形の方も勝つ気は無かったんだろう。戦った感じで分かったが、人形の身体の方も老朽化してたし魔法も全く殺意を感じなかった。ゲームもずさんで行き当たりばったりだったしな。きっと、主の生の最後にマリィとゆっくり話をさせてやりたかったんだ。本気で乗っ取っては居なかったんだ。主思いの良い人形だったと思うよ。」と、ディーは言った。
私が生きていた時からの知人に初めて会ったからか、私は彼が死んだことがとても悲しかった。
考えれば考える程悲しかった。
私の旧友は、彼を筆頭にもう殆どいないのだ。
皆歳を取り死んでいったのだ…私を置いて。
今まで目を背けていたが、涙がとめどなくあふれてくる。
やるせない思いがこみ上げる。
起こしてもらったことを悔いてはいない、呪われたことを悲観したりはしない。
けれど、やはり知人が死ぬことは悲しかった。
帰ってから古城の暗いリビングで一人メソメソと泣いているとディーがスッと隣に座り、肩を抱いてくれた。
暖かい。
それだけでも随分と心が落ち着く。
ディーが傍にいると胸が掴まれたように苦しくなり、好きだという気持ちでいっぱいになる。
今まで考えていたことなど忘れて…事実、私はディーが好きだ。
ディーの匂いが、ディーの横顔が、ディーの性格が…。
でも、私から告白なんてしてやらない。
だって、彼はまだ秘密を一人で抱えているから…それを私に話してくれるくらい仲良くなったら、「愛してる」って言ってあげるのだ。
そんなことを考えながら、涙でかぴかぴになった顔をディーに近づけて無精髭にキスを落とす。
まだ少し心細く、精神が安定しないのでマリィからもディーに抱き着く。
もう少し…もう少しだけ…。
甘えられるディーの気も知らず、
マリィはディーを抱きしめながら愛らしい寝息を立てるのであった。




