十一話:混乱
「怖気づいてももう遅い!行くぞ!」
とびかかってくる美女さんに対し、まあ何とかなるよね?と思いながら剣を交えてから30分が経った。
あんなに大口をたたいていた美女さんは物凄く弱く、私は飛びかかってくる美女さんを圧倒的な強さであしらっている感じだ。
だが美女さんは意外としつこく、まだ『参った』と言わない。
「なぜ!?何故貴殿はそんなにも強い!?」
「いやぁ、習ってたしなぁ…」
姫としての嗜み、防衛術程度には習っている。
最も、私は身体を動かすことが好きだったので実践も少し齧っているのだが…。
「ッ…ハコンヴェアヘドゥ…」
美女さんは呪文を唱え始めた。すると私の周りに赤い円が出来、光を放つ。
「えっ!魔法無しでしょ!?美女さんそう言って…」
「うるさい!これも王子、ひいては民衆や国のため、負けてはいけない!ハコンヴェアへドゥ…ゾミヴカユウィアジェ…ハコンヴェアヘドゥ…ゾミヴカユウィアジェ…」
美女さんが独特の呪文を唱えるたびに私の周りの円が小さくなり、そしてさらに光り輝く。
「ハコンヴェアヘドゥ…ゾミヴカユウィ…」
流石に命の危機を感じる。逃げようと試みるも赤い円が怖くて動けない。
「フハハハ!!どこか見知らぬ異国へと飛んでいくがいい!!」
呪文も終わり、美女さんが片手を空高く上げると、どこからともなくパンパンと手を叩く音が聞こえる。
「はーい。君の負けだよナタリア。」
突如私と美女さんの間に現れたのはブラッド、その人だった。
「ブラッド!?邪魔をするな!私はこの女を飛ばす!」
「君は本当にそれが正しいと思っているのか?」
「ああ!決闘のルールに反してでもやるべきことだ!それが王子のため民衆のため、ひいては国のためだ!!」
自分が正しいと思い込み、周りが全く見えていないナタリアにブラッドはやれやれといった顔つきでデコピンをくらわす。
そのデコピン一発でナタリアは気絶してしまった。
「やれやれ、本当に手のかかる弟子だよ…大丈夫?姫ちゃん。」
ナタリアが気絶すると周りにあった赤い円が消えていた。
「大丈夫、ブラッドとアノールの一件でこういう自己中心的な人には慣れたから。それよりもその美女がブラッドの弟子ってホント?」
自己中心的な人物にマリィ本人は入っていないんだねという言葉は飲み込み、ブラッドは「…そういうことは、とりあえず戻ってからね。」と答える。
ブラッドが大きく口笛を吹くと、一瞬にして自分の部屋に戻り、まずナタリアを私のベッドに寝かせ、周りに『魔法断絶結界』の防壁を作った。
「これならコイツが魔法で暴れようが肉弾戦で暴れようが出れないぞ~」
防壁の出来栄えに満足していると、ナタリアが覚醒し、すぐさま私に飛びかかろうとした。が、見えない防壁のおかげでナタリアはベッドに隔離されている。
「貴殿が悪い…貴殿が…」
「落ち着けナタリア。物事をしっかり見極めろ。」
珍しく大人らしい口調で喋るブラッドに、ナタリアは怒られた子供のようにビクついていた。
「ナタリア、マリィから話は聞いたのか?王子の身体は調べたのか?物事を一方からみて決めるなと何度言ったら分かるんだ?だからお前の魔法は未だ不完全なんだ。反省しろ。」
怒るブラッドにも驚いたが、ナタリアのしょげっぷりにも驚いた。
これだけでも、この二人が特別な絆で結ばれていることが見て取れる。
「あのぉ…すみませんでした…頭の冷えた今なら、彼女と話せると思いますので、話しをしてもいいですか?」
「ああ、もちろん。」
そう言ってブラッドは一歩後ろに下がり、私は背中を押され、一歩前に出た。
「先ほどは本当に申し訳ない…」
「そういうのいいから。別に気にしてないし、慣れてるし…あの…こんにちは?
えっと、ナタリアさんはきっとアノールの何かよね?前に奴が話していた城の魔法使いかしら?あってる?」
どぎまぎしながらの質問にナタリアは「…はい。」と小さく答える。
「どうして私に決闘を?」
「それは…」




