十話:美女
_「アノール王子、またフラフラと森へ出かけたらしいぜ?」
「ああ、あの噂本当なのかもな。」
「…どんな噂だ?」
自分が敬愛するアノール王子の話とあらば、どんな些細なことでも聞いておかなければ。
「ああ、魔法使い殿。いつの間に?いやね、アノール王子が最後にこの国の森へ姫を探しに向かってからというもの、たまにというかしょっちゅうその森へ行くんですよ。」
「今まで部屋から出ることさえあんまりなかったのに…」
「そうなんですよ。おまけに最近帰ってきてないはずなのに、いつの間にか部屋に居たり、身体中冷えていて風邪をひいて帰ってきたり…」
「民衆の者の中には悲鳴を上げながら空に浮かぶ王子を見たって人もいるって話しですし。」
「ですからね、最近まことしやかに言われているのが、森に魔女が住んでいて、魔法にかけられたんじゃないかって…」
話しを聞く限りだとおかしなことばかりだ。
確かに、アノール王子は最近になって突然魔法に興味を持ち始めたり、話したことなど皆無に等しかったであろうゼリル様やパレット様に興味を持ち始めている。
今までは、私が魔法について語っても興味がないの一点張りだったのに、今では興味深く私の話を聞いていて、嬉しいんだがこういうことを聞くとおかしいなと思い始める。
「調べる必要がありそうだ…幸い今日は時間があるからな。早速調査に行ってくる。」
そういうと、魔法使いは空を飛んで森の方へ向かった。
日に日に寒さが強くなる今日この頃。
今日はディーが仕事で居らず、アノールもブラッドも来ていない。
何もすることもしたいこともありはしないので本を読んでいると、窓が突然大きな音を立てて開く。
ブラッドが来たのかと窓の方を見ると、そこにはスレンダーな美女が腕を組んで立っていた。
唖然としている私に「フンッ」と鼻を鳴らす美女。
「なんだ、ただの人ではないか。しかし、上手くごまかしているのかもしれん。」
美女はどこから取り出したのか、決闘用の剣を2本床にたたきつける。
「決闘を申し込む!!貴殿が王子を誑かしていることは分かっている!勝負しろ!」
何が何だかわからない私はとりあえず黙っていることにする。
この手の人に何を言っても聞かないことは今までの経験上知っているからだ。
「ルールは簡単、『参った』と言えば終わり。私は平和主義者だからな、命までは取りはしない…。」
平和主義者は戦いを挑みに来ないと思う…。
とも言えないので黙って話を聞く。
「これは女と女の戦い…魔法も逃げも禁止だ…そして!この戦いの敗者が王子の前から姿を消す。これは温情だ、もし貴殿が負け姿を消せばお咎めは無しにしよう…しかし!もし貴殿が負けても王子の前から姿を消さなかったら、その時は…私の魔法で貴殿を消す!!よろしいな?」
一通り語り終えた美女に「あのぉ…」と申し訳なさそうに質問する。
「…あの、もし私が決闘に勝ったらどうなるんですか?」その言葉がよほど面白かったのか、美女は豪快に爆笑している。そんなに笑うことないじゃないか。
「ハハハ…確かに、万が一のことを考えてな…もし、貴殿が勝ったら…私は王子の前から姿を消そう。」
全く人の意見を聞こうともしない美女だ。
それが一番正しいと思っているのかな…。
「いや、そういうのはいいんで、美女さんのお友達になりたいです。」
とりあえず思い切っていってみる。このくらいのことなら言っても大した問題ではないだろうと踏んだからだ。
「はぁ?」
「まあ、きっと今は何を言っても聞かないだろうから、すべて終わってから説明するけどね…」
しかし、こういうタイプの人に起きてからよく会うな…と半分呆れ、ため息をつく。
「…何言ってるかわからなかったが…よろしい。では、決闘を始めよう。」
美女さんが指を鳴らすと辺りは野原に変わった。
「ハハハ、目を丸くしているようだな。どうだ。『場所転移』の高度魔法だぞ。貴殿には扱えまい。」
少し歩き回っても壁にぶつからないところから、本当に転移したことが分かった。
「『幻影魔法』の応用かと思ったけど本当に転移してるね。」
今度ディーにもっとすごいの見せてもらおう…とか思ったのは内緒である。




