九話:戦い
白銀の世界の中、大量の球が飛び交う。
アノールは悟ったように話し始めた。
「マリィ…僕がもし帰らなかったら、城に伝えてくれ…」
「待てアノール!!今出ちゃだめだ!!」
「止めるな!!」
アノールは勢いよく飛び出し、ガムシャラに走る。
アノールの目の前に赤い旗が見えてきた。
「あれだ!!」
アノールは旗にめがけてジャンプし、手でつかんだ。
はずだった。
なんとアノールが掴んだ赤い旗は、ディーが見せた幻影だったのだ。
アノールは倒れこんだまま、あっけなくディーに雪玉を投げつけられた。
あれから数週間後、突如猛烈な寒波が来てすぐに冬になった。
新雪が積もり、森の景色は銀世界になっていたのだ。
そんな中、大の大人4人は1対3に分かれて雪合戦をしていた。
ルールはいたってシンプル。
ブラッド、アノール、マリィの3人で魔法や作戦を駆使し、ディーの雪玉に当たらずにディーの陣地にある赤い旗を奪取するのである。
ディーは1人で3人を相手にしなくてはならないのだが、ディーは魔法で雪玉を剛速球で投げてくるわ、奪取するはずの赤い旗の幻影を見せるわと絶対に負けたくない大人の意地汚い部分が見えている。
まあ、何故ここまで必死かというと、この戦いに負けた方は魔法を使わずに町から古城への道を雪かきをしなければならないからだ。
「アノールがやられた!これで私とブラッドしか残ってないわ!敵は依然、速度を変えずに雪玉を投げ続けてきている!このままじゃ、私はこの木陰から出られない!」
「マリィ!こっちにこい!お前なら雪かき免除にしてやろうじゃないか!」
ディーはまるで絵本に出てくる魔王のように甘い言葉でマリィを唆す。
「なんて甘い誘惑…!あの言葉が嘘だと知っていても出ていく人は居るでしょう…でも!こちらにも魔法使いが着いてるんですもの。きっと大丈夫…」
「姫ちゃん。こっちは準備出来たよ。そっちは?」
ブラッドの声はどこからともなく聞こえてくる。
敵に悟られないようにマリィにも位置はバラシていないのだ。
「もう少し…あと一回…木陰に動いたら…」
マリイは素早く違う木陰に移動して、何やら魔法陣らしきものを書く。
「ブラッド!こっちもできたわ!!」
「よしっ!!」
ブラッドが指を鳴らすと、マリィが隠れていた全ての木がディーに向かって倒れる。
「…ッ!!小賢しい!!」
ディーの視界が雪煙で遮られる。
雪煙が無くなると、ディーの周りを円状に囲んでいたのは9人のマリィ。
ディーが呆気に取られ、固まっているすきを狙ってブラッドは素早く背後に回り込み、胴体をつかんだ。
「つーかまえたー。」
「やった!ディーさえ無力化できれば勝ったも同然だわ!」
歓喜する2人が余程面白いのか、ディーは聞いたこともないくらい高らかに笑う。
「…と、思うじゃん?」
つかんだと思っていたディーの身体が煙のように消え、ブラッドは驚いている間に後ろから雪玉を投げつけられた。
「!?なんで!?確実に捕まえたと思ったのに!」
「馬鹿め。最初からそこで雪玉を繰り出していたのは俺の分身だったのさ、さあマリィ。残るはお前だけだが、どうする?真っ向勝負で敗れ、雪かきをするか、俺のもとに下って一緒にお茶をしながら馬鹿どもを眺めるか…」
またも絵本で出てくるような魔王の言葉を使うディー。
「自分だけ裏切るなんて…敗れたブラッドとアノールに顔向けできない!」
と、マリィは猪突猛進してきた。が、ディーに慈悲などなく、マリィの顔に軽く雪玉をぶつけて雪合戦は終わった…
「さあ、寒いからお茶にしよう…3人は雪かきが終わってからお茶だ。いいな?勝負を仕掛けてきたのはお前らなんだから、ブラッドの魔法使わずにやれよ。」
「へーい。」
ディーは暖かい部屋で3人を見ながら茶を啜り、3人は寒空の下雪かきを進めた。
終わるころには体力は尽き、終わったと同時に現地解散となった。
「ただいま…」
「おつかれ、湯を沸かしてあるからまず風呂入ってこい。お前の好きな焼き菓子とお茶用意して待ってるから。」
そう言ってほほ笑むディーは、明らかに会った当初とは変わっていた。
出会った当初は生気のある人形のようで、何故か危なっかしいものを感じたが、今も頻繁に笑いはしないものの、内面から生き生きとしている気がした。
最初から怖くも嫌いでもなかったが、最初よりとっつきやすくて生き生きとしているディーが私は大好きだ。
こんなに明るくなったのも半分は彼ら2人のおかげだろう。
2人が分け隔てなくディーに接してくれたおかげ…。
少し熱めの湯が喜びとともにじんわりと心に浸みた。




