序章:世界の物語
拙い文章ですが、ごゆるりとお楽しみください。
この世界は人間と吸血人がうまく共存している。
人が吸血人を確認した一番古い書物は3500年前、その当時では血だけを啜り、栄養を得るという人ならざる異形な者は受け入れられなかった。
しかし、吸血人達は血だけを啜るというだけで日陰で暮らすつもりはなかった。
吸血人は全員で屈託し、全員で人に受け入れられるような条件を考えた。
『人間の血は婚姻の儀を交わす者以外の血は飲まない。飲むとしたらやむを得ない理由か本人の同意が必要。』
この条件で全員が賛成するまで40年余りがかかり、再び人に受け入れてもらおうと行動し始めたのは最初の行動から50年が経った時だった。
どれだけの時が経とうが血だけで栄養を得る異形の者は受け入れられない。
そう行動を諦めかけたとき、一人の老人があることに気づいた。
吸血人のリーダーと思われる男は50年前から歳をとっていないことに…。
老人がまだ20代だったころに見た『吸血人人権運動』、その時にも今、目の前にいる吸血人のリーダーは若く美しかった。
そのことが瞬く間に人々へ伝わり、人はあっさりと吸血人を受け入れた。
理由は簡単、不老不死だ。
人は老いが恐ろしい。人は死が憎い。そんな欲を解決する希望が吸血人だった。
しかし、吸血人は生まれてから一滴でも人間の血を飲まなければ人と同じ速度で死に、不老となるためにはここで止めたいと思う歳で人間の血を飲むしかない。
吸血人といえども若返ることはできないということ。
そして、その形を留めるためには毎年12ℓ以上のどんな種でもいいが血を飲まなければならない。
飲まなければまた老いが始まる。
不死についてはもっと単純であった。
確かに、吸血人は寿命が長いし自然治癒能力も人のそれとは比べ物にならない。
しかし、自然治癒をするたびに命を使う。
人が死ぬほどの大怪我を5回でも経験したら命がすべて削れ、死んでしまう。
お伽噺に出てくる吸血鬼のように空を飛ぶことも姿を消すこともできない。
太陽が苦手ではなければ十字架では死なないが、寿命が尽きるまで火であぶったり、剣で心臓を死ぬまで貫けば簡単に死ぬ。
吸血人とは、ただ人よりも頑丈で長寿というだけだ。
それに吸血人には人とは決定的に違うところがあった。それは繁殖方法だ。
吸血人は長寿で身体が強いせいか子が出来にくい。
100年以上連れ添っても子が出来る事例は稀なのだ。
なので、手っ取り早い繁殖の方法は人を噛み、血を吸うことなのだ。
そうすると人の身体に人ではないモノの唾液が体内に流れ、人の身体を苦しめながら吸血人の遺伝子が人の遺伝子と反発しあい、殺していく。
そうして人が吸血人になるのだ。
聞いたほとんどの人は恐ろしくなり吸血人になりたいとは言わなくなったという。
伝えてもなお吸血人になりたいといった人は吸血人になった。
しかし、あまりに長すぎる生と子供のできない絶望、周りが老いていくのに自分だけ老いないという悲しみから吸血人になった人のほとんどは自害してしまった。
吸血人にも吸血人のつらさがあったことを身をもって知った人間は、人は人らしく、吸血人は吸血人らしく互いに生きようと決めた。
こうして二つの種族は共存の道を歩み始めた。
しかし、元々個体数が多かった人が寿命が長く身体の強い吸血人よりも少なくなりはじめ、人は人の数を減らさないようにモノを開発した。
魔法もその一つだ。魔法は人の技術の結晶である。
それぞれの個体によるが、持っている魔力という人智を超えた力は空を飛んだり、姿を消したりと様々なことができる。
そして、『対吸血人遺伝子用ワクチン』このワクチンを人に打つと吸血されても吸血人にはなることはない。
歳は取りたくないが吸血できる人がいない吸血人を保護するのにも役に立つ上に吸血人にはなりたくないけれど吸血人の役に立ちたいという人たちに重宝されている。
吸血人は理性を抑えられずに法を破って人を吸血する事件もたまにはあった。
けれど人も同様に非力な吸血人の女を捕まえ、中々子を孕まないのをいいことに強姦されるという事件もあった。
互いに異種ということもあり、すれ違いもあった。
しかし、双方は緩やかだが穏やかに繁栄して行き、今に至ったのです。
著者:ローレンス・デゥループ