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コレは、どういう類の感情なのだろうか……妻から伝えられたその言葉に、私の胸が喜びに詰まって息が出来なくなった。


「 前は私なんかが本当に愛せるのかなって悩んでたの。 でもね、そんな心配全然要らなかった……だって、ここに居るんだって知った瞬間、愛情がそこら中から溢れて来たのよ 」


喜びの涙で頬を湿らす妻が、愛おしそうに自分の腹をさすっている。


「 生涯かけて沢山の愛情を注いで、命懸けで守ろうって……貴方と、私で 」


腹を摩る妻の手に自分の手を重ねると、もう抑え切れないほどのその感情が、情けなくも瞳から溢れ出した。


「 母親の愛って凄いのよ。 あの女がこの感情を知らなかったなんて、本当に可哀想で同情するわ……まだ顔を見てないのに、こんなに愛しいの。 私と貴方の可愛い子 」


何故か上手く前が見えなくなる。

そうか、私は父親になるのか……最愛の妻との可愛い子供が。

そうか……これは何と言う感情なのだろうか? 愛情と喜びが抱え切れんこの気持ちを何と比喩すれば。


「 ……っ、ラファエルって私との事になると泣き虫だよね 」


そうか、私は今泣いていたのか。

妻が私の手を強く握りしめて、その濡れた妻の頬に重ねてくれたのは、それでだったのか。


「 沢山不安にさせてごめんね……もしかしたらって思ってて、お母さんには言ってたんだけど、私の思い違いで貴方を落胆させたく無かったから……結果が出てから伝えようと思ってて。 今朝お母さんと聞きに行ったばかりだったの 」

「 ……っ、そうだったか 」

「 貴方が見た男の人は、助産婦さんのお弟子さんなんだって。 私が貧血になってないか確認するの忘れたからって、走って追いかけてくれたの。 目の下を見たら分かるんだって 」


そうだったか。

妻が伝えてくれたその事実で、全てに合点が行った……私達の子供を守る為に自身の行動を制限してくれていたのか。


「 安定期に入る迄は気が抜けなくて……長風呂も出来ないし、馬車も出来るだけ避けたいの。 本当はね、貴方と一緒に寝たいし、湯浴みもしたいけど、お腹の事を考えるとーー 」

「 構わん、私が寝ている間にお腹を蹴ってしまったらと思うと恐ろしい…… 」

「 ふふふ、ねぇ、でもそこまで慎重に抱き締めなくても大丈夫よ? 」


恐る恐る抱きしめた私を見て、クスクスと可愛く喉を鳴らす妻が私との子を宿してくれたと思うと…もう、言葉に出来ん。


「 寝台は寒くないか? 何か不便はないか? そうだ、口に入れてはならん食材や、食べた方が良いものは有るのか? それに、あぁ、なんだ。 それに、他に何が有る? 椿、私には何がーー 」

「 ちょっと、落ち着いてよラファエル 」


顔を覗いて問いかけていた私を見て、心底おかしそうに笑い声を立てた妻。 その誰もが見惚れる笑顔を見ていると、いつも本当に心が落ち着く。


「 ラファエルは絶対そうなっちゃうだろうなぁって思ってたの。 でも、やっぱりいざ本当にそういう反応してくれると、すっっごく嬉しい! 」


あぁ、私の妻はいつからこんな風に笑うようになったんだろうか。

素直に思いの丈を伝えてくれるようになったんだろうか。

これ以上の幸福などきっとこの世に存在しない……唯一愛する女性が妻となり、私との子を宿してくれた。


「 早く会いたいね 」

「 ……っ、あぁ 」

「 ラファエル泣き過ぎ 」

「 ……っ、 」


戯けて笑う妻が私を抱き寄せたらしい。 温かい妻の香りが鼻を掠める。

そうか、笑われるほど泣いてるとは……子供とは凄まじい力を持つらしい。 そうか、我が子……私と、椿の、二人の子。


「 ……っ、椿 」

「 ん? 」

「 お前達を必ず護り抜く……三人で幸せになろう 」

「 あのね、ラファエル? 」


名前を呼ばれて、妻の顔を見ると、本当に幸せそうに頬を緩ませた妻が、私の手をお腹に添えて言葉を繋いだ。


「 双子なのよ。だから、四人ね! って、また泣くの⁉︎ 」


妻の大笑いが聞こえて来たが、どうにも感情が制御出来なくなったらしい。 私に抱きついて来た妻をお腹に当たらぬよう目一杯抱きしめ返すと、妻の声にも涙が混じって来た。


妻ほど人を上手に愛する人間を、私は見たことがない。

辛い境遇を生き抜いて来た人間にしか見出せぬ聖母のような優しい心を持つ妻の事を私は一人の人間として心から尊敬し、愛している。


椿はやはりその名が誰よりも相応しい。 いつか、我が子に教えてやりたい……お前達の母が如何に素晴らしい女性かと言うことを。


どんな子達なのだろうか。

きっと、髪の色はこの家の色を受け継ぐのだろう……だが、瞳は妻の様に美しい漆黒が良い。

私の様に無愛想に生まれたら、妻にその愛想の良さを教えて貰おう。

妻の様に少し口が悪いところがあれば、私が言葉遣いを教えてやろう。

いや……少し口が悪くとも、妻の様に凄まじく愛くるしいのなら、そのままでいて欲しい。

椿と私に似た子が産まれる……なんて、愛おしいのだろうか。


なんだって良い。

目つきが悪くても、言葉遣いが悪くても、猫かぶりが上手でも、愛想が悪くても、無事に生まれてくれれば。


子供達はきっと私達に新しい愛を、教えてくれるだろうから。


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