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完璧な人なんていない



彼は、別に全てが完璧な訳では無い。



「 そのドレスで城に行くつもりか?……許さん、今すぐ着替えて来い 」

「 良いじゃないの、これくらい! 」

「 駄目だ! 即却下に決まってるだろう! 」


私の着る衣類には人一倍煩いし、理解不能な彼なりの基準は譲らないから、時々言い合いになったりもする。


「 ……ごめん、何が変わったのか全然私には検討もつかないけど 」

「 お前の目は節穴か? さっき迄とまるで違うだろう 」


騎士だからなのか、家系からなのか……研いだ後の全く違いが分からない剣を、小さな男の子の様に満足気に眺めたりもする。


「 無理だ、私には此処から先、一歩たりとも進むなど不可能だな……汚れが目立って仕方ない 」


潔癖症の彼は折角掃除した場所にだって、嫌悪感丸出しで私にいちゃもんをつけてくるし、こんな時は石像の様に頑固として動かない。だから隅々まで確認しなきゃいけない手間が増えたりもする。彼の掃除の手付きは熟練の職人並みに完璧だし、細か過ぎて煩いとも思う。


「 あら、椿……ラファエルと演奏会の鑑賞に出掛けるんじゃなかったの? 」

「 知らない、あの馬鹿は書斎から出て来ないですからね 」

「 もう……あの馬鹿息子はまた仕事熱が入ってしまったのね? 」


一旦スイッチが入ると、私とのお出掛けすら頭から抜け落ちて、休みだと言うのにひたすら仕事に邁進したりもする。 こういう時は結局時間ギリギリまで私の事なんてさっぱり忘れて、慌てて書斎から出て来て不貞腐れた私のご機嫌取りに邁進する。


「 お前は掃除をしていないのか? こんな所に椿の可愛い足を付けれるわけがないだろう? 一分だけ待ってやろう 」


潔癖症の彼は小さな頃からの友人にだって容赦しない。 私を抱っこしたまま、信じられないと言う風に怒るラファエルに、アドルフはそんな彼の潔癖症具合が信じられないと言う顔で掃除しながら呆れていたりもする。


「 アドルフは今日お城にいる? 」

「 さぁ、知らん 」

「 カロラナ様はお出掛けしたの? 」

「 さぁ、知らん 」

「 ……私の事、好き? 」

「 さぁ、知らーー⁉︎ 当たり前だろう? 好きに決まってる 」


人の予定なんて把握してないし、まるで興味無い時は、私の言葉にさえ時々適当に返事をして、引っ掛け問題に焦った様に訂正したりもする。そういう時は機嫌を伺う子供の様な目を向けて来て、許しを乞う。


「 ちょっと! キスマーク隠れ無いんだけど⁉︎ 」

「 何故隠す必要がある? 素晴らしい眺めだと思うが 」


何時の日か、自分は風紀を乱すからと断ってきた癖に、私の身体中に赤い花の跡をつけて、しかもワザと服でも隠れない所に残したりもする。 そういう時は劇団仲間や城の彼等に私が散々ひゅーひゅーと腹の立つ喧しい野次を飛ばされる。






彼は全てが完璧な訳では無い。




でも、だからこそ大好きで仕方ない。 この世に、全てが完璧な人間なんて存在しないだろう……そんな人と寄り添っていたらこっちが疲れてしまう。





彼は全てが完璧な訳では無い。

だからこそ、私と彼の二人で補って生きていけるんだと思っている。





彼は全てが完璧な訳では無い。

そして、そんな彼と寄り添う私だって同じ。






完璧な人なんてこの世に存在しない。










だから私は今日も、彼の短所も長所も全てを知りたいと願ってしまうのかもしれない。









〜完璧な人なんていない〜

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