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「 で、後は此処を見直せば完璧だと思いますよ 」

「 ほぉ……ポチは随分博識だな。それに、我が国家が望んでいた知識ばかり君は詳しい様だ 」


テーブルに広げられた設計図を指差して、訂正箇所を示していた私に感心のため息を着くのはエドワード様。 私は建築や医学に加え政治などのあらゆる知識をこの国に献上した。 仕事上、詳しく知る必要があったその知識がこんな所で役に立つとは。


「 ポチは素晴らしいわ! こんな博識な女性がこちらの世界にいらっしゃると思う⁉︎ 貴族の女性達は宝飾や殿方にしか興味がありませんのよ? 」


テーブルに手を置いて身体を乗り出し、キラキラした笑顔で私を見つめるのはカミーリィヤ王女だった。愛に溢れて育った王女は年齢の割りに何処か無邪気で少女みたい。


「 カミーリィヤ、品がない事をするな 」


そう言って王女の肩に手を添えたのは、あの蛇男だった。 やはりその顔に表情を作る事はないし声だって感情の起伏は感じられないけど、私にでもわかるほどその人は優しくカミーリィヤ王女を見つめていた。


「 ねぇ、だってラファエル信じられる⁉︎ ポチは無邪気で可愛らしいのに、女神の様に美しいと思ったら、見たこともない知識を有する博識なのよ! 貴方が来てくれて本当に嬉しいわ 」

「 ふふ、王女様、くすぐったいです 」

「 ねぇ、名前で呼んでくださらない? 距離があるようでとても淋しいですわ。 もう何度も言っているのに 」


ギュッと私に抱きついて来たその無邪気なカミーリィヤ王女。 あぁ、本当に少しも穢れていなくて、触れ合う肌が私のせいで穢れてしまう気がする。


「 姉上、ポチが困っているでしょう? ポチは遠慮しいの性格なんだから、王女の姉上が無理にお願いすると困惑してしまいますよ 」


なんて、和気藹々とした空間なんだろう。 何故か王女に気に入られてしまった私は最近何かに付けて王女様にお呼びだしされてはこんな時間を過ごしている。



ーーそれが、苦痛で堪らない。


「 そうよね…ごめんなさいポチ。 私ったら本当に見境が無くなってしまうから…… 」

「 ふふふ、謝らないで下さい。 私は王女様とこうやって過ごすのが今、一番に楽しくて仕方ないんです 」


蛇男は無表情だけど、やっぱりこの王女のそばに居る時は瞳が温かくて優しい。 生まれた時からそばに居るらしいこの人達は、俗に言う幼馴染なんだろう。


「 カミーリィヤ王女様! やはり此処にいらしたのですね⁉︎ ご衣装の採寸とお見立てがまだ終わっていないでしょう⁉︎ まったく目を離すと直ぐにポチ様の所に行ってしまうのですから 」


侍女長が困って泣きそうな顔の侍女二人を連れて、部屋に入ってきた。 きっと二人の侍女はお見立てと採寸を任されていた人達なんだろう。


「 ラファエル様も甘やかさないで、きちんとお叱りくださいませ! 」

「 ……こいつは一度決めたら頑固だろう。 私の言うことなど聞かぬ 」

「 あら、ラファエルったらまたそんな意地悪を言うのね? 」


鈴の様な声でクスクス喉を鳴らすカミーリィヤ王女。 彼女は控えていた二人の侍女を軽く抱き締めてお茶目に謝っている。


私はこの王女のこう言う所が大嫌い。 甘やかされて、立場が下の人の迷惑も考えず蝶の様に自由奔放にして、その癖微笑んだら周りも微笑んじゃうようなそんなこの人が苦手で嫌いで仕方ない。


ーー愛しか知らないようなこの女が大嫌いだ。


「 ねぇポチも良かったら、私の部屋へいらっしゃいな。 御一緒にドレスを選んで下さらない? 」

「 え、 良いんですか? とっても嬉しい! 王子様、宜しいですか⁉︎ 」


無理って言え、頼むから却下してくれ。笑顔に隠したそんな捻くれた本音をこのまだ青い青年が気付くはずもなく。


「 あぁ、勿論だよ。 やはり女性はそう言うのが好きなんだな。 いっておいで 」

「 そうと決まれば直ぐに参りましょう! とても素敵な色が多過ぎて迷っていたの、ポチが選んで下さるととても嬉しいわ! あ、ラファエルは来てはダメよ? 貴方は訓練があるのですからね 」


キラキラと花の様に戯けるその王女の言葉に、何か返事するわけでもなくフッと小さな声で呆れた様な音を出したけど、その音はとても優しい。


「 何度もしつこいかもしれないが、姉上とポチはやはりそっくりだ。 無邪気で少し抜けてて小さな女の子みたいな所が 」

「 まぁ、ポチとそっくりだなんて嬉しいわ! でもねエドワード、私達は小さな女の子では無いわ立派な女性よ? ねぇ、ポチ 」


私の手をお上品に両手で包み、無垢な笑顔を向けてくるカミーリィヤ王女。 そんな彼女に私も同じ様な笑顔で戯けて頷く。


一緒? まさか、そんな訳ない。

ポチの本性は自分でもフォローの仕様が無いほど捻くれて屑で荒んでいる。 この人は違う、本気でこの性格なんだ。 私はボロ布を縫い付けただけの継ぎ接ぎだらけの女。 この人は正真正銘の無垢で慈愛に溢れた蝶の様な女。


ーー私はどう足掻いたってこんな女にはなれない。


だから嫌いなんだ、 羨ましくて仕方ないから。 どうしても憧れてしまうから。 けれど絶対にそうなれないから。



ーーニセモノは本物には勝てないから。



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