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ーーー


「 また寝ちゃった… 」


腕を組んで、今度はいびきをかいて寝てるスミーを見てると何だか小さな子供みたい。 マーガレットも喉を鳴らしてお上品に笑ってる。


「 話逸れちゃってごめんね、で、貴女は何を言おうとしてたの? 」


向かいに座るマーガレットは緊張気味に姿勢を正して、ドレスを握りしめている。


「 私が初めてエドワードに会ったのは、彼も私もまだ小さかった頃にこの国で近隣諸国の5ヶ国会議が行われた日でした 」


ポツポツと話すその内容は、その会議に共に連れて来られたこの子が庭園で騎士と遊んでいると、突然目の前に現れて花を差し出してくれた小さな頃のエドワードとの初対面の話だった。


「 『 私と貴女の国が良い関係に戻れれば良いね 』と、可愛い笑顔で一輪のお花を下さって……今思えば一目惚れに御座いました 」


結局、険悪な関係は改善するどころか悪化を辿る一方で、その後何年も緊張が張り詰めた両国は交流する事も2人は会うこともなく、数年前の国交復活宣言までマーガレットは青年になったエドワードと逢える日が訪れる事を指折り数えて祈っていたらしい。 よく聞く王道ラブロマンスだなと、そんな風に思う。


「 良かったわね、その王子様と貴女は結婚するんだから。 で、いつ結婚するの? 」

「 まだ婚約すら結んでおりませんから……本当にそんな夢が叶うのかどうか 」


あぁ、だからこの子はずっと不安そうな顔でこの馬車に乗ってるのか。


「 私はずっと素直になれなくて、彼は私を一度だけ、好きだと仰ってくれましたが、その後に縁談を沢山受けていることに私は心が張り裂けそうで……」


可哀想に……あの策略家の罠に完全に惑わされてる。 エドワードも、この子は純粋だから真心込めて捕まえりゃ良かったのに。まだまだあの子も修行が足りないな。


「 焦りから、私となら互いの国のより強固な関係を結べますと言ってしまって……『 なら、君が私の妻になってくれ 』とエドワードはそう仰って 」


あぁ、成る程ね、この子からしたらエドワードは殆ど政略結婚なのかも知れないって思ってるのか。どうしてもこの子を妻に娶りたくて内心必死だったんだろうに。


「 私、この国の民を愛し護り抜く覚悟はとうに出来ております……ただ、彼から一度だけでも良いので言われてみたいのです 」

「 ん、何を? 」


真っ赤な頬が、とても可愛い。



「 『愛してる』と言われてみたいのです。 椿なら男性にそれを言ってもらえる方法を御存知なのではと思いまして…… 」





ーー呼吸が止まったのかと思った。





「 ねぇ、マーガレット……ごめんね、私には何の力添えも出来ないわ 」

「 ………え? 」




この子の可愛い夢を叶えてあげれる力は私には少しもない……だって。




「 私ね、その言葉を言われたことなんて生涯で一度もないの 」




ーー男性だけじゃなくて、本当に誰にも言われた事なんて無かった。



「 ふふふ、なんちゃって 」

「 椿は猫の様な御方ですわね…… 」


私の事情を知らないこの子に取り繕った笑顔で微笑みかけて、場を流すと降参した様にマーガレットが笑う。


「 椿は、この国の騎士団長様と良い仲だと伺ってますが…… 」

「 えぇ、私は彼の恋人よ 」


私には心から大切な恋人がいる……初めて、自分以上に大切だと思えたたった一人の大切な、人。 彼を想うこの『 大好き 』と言う感情が、いつかその言葉に形を変えるのか、それとも変わらないのか……こんな私には予想さえつかない。これ以上に凄い気持ちの事を『愛』と呼ぶのだろうか?


でも、今彼を想うこの感情以上の感情なんてこの世に存在するの? ……そんなの私には俄かに信じられない。だって、爪の先まで彼への想いで溢れかえっているのに。


彼は『 愛 』を教えてくれると言った。彼はもうそれを手に入れてるんだろうか?……私は愛された事がないからそれを受け入れる器が存在しないのだろうか。 この年月の中で、彼は私に一度もその言葉を掛けたことは、ない。


どうなんだろう……彼は、私を『 愛して 』くれているんだろうか。



ーーそして、私は彼を。



「 ……何よ、スミー 」

「 いやぁ、丁度いい高さの足置きが目の前にあると思ってな! 足が長いと苦労も多いんだぜ⁉︎ 」

「 スミー⁉︎ 麗しき女性の膝に汚れた靴を乗せるなどと……っ、貴方は何をしていらっしゃるの! 」


憤慨して怒るマーガレットの隣でケタケタと笑うスミーは何時から起きてたのか随分機嫌良く、私の膝に足を置いて腕を組んで歯を見せて体を揺らす。


「 もうそろそろ城に着くぜ 」

「 そうね 」

「 足を下ろしなさいスミー! 」

「 良いのよマーガレット、このままで 」


乗せられた足を軽く引っ叩いて、目の前のスミーに微笑むと彼はフッと微笑んで小窓の外を静かに見つめ始めた。彼は、とても優しい人。



ーー想いに耽って苦しくなった私を、その思考からワザと遮断してくれたんだ。


考えるのは、止そう。

私はただ、ラファエルが隣に居てくれればそれだけで充分だ。


「 椿、私は考えたのです……偽装の誘拐でも実行すればエドワードは颯爽と私を助けに来て下さって、誘拐犯に『 私の愛するマーガレットに何をする! 』と仰って下さるのではないかと 」


その言葉にギョッとする。

スミーは些か呆れた顔で溜息をついて、多分何度も聞いてるんだろうと言う反応を示す。


「 何言ってるの貴女……この国でそんな事が起きてご覧よ、また両国が険悪になるわよ? 」

「 そう、ですよね…… 」


お姫様ってのは大抵頭の中がお花畑で作られているのだろうか。 あの頃の私なら一瞬でこの子を嫌いになっていただろう。 でも、不思議な事に今はそんな気持ちにはならなかった。


「 そんな思い詰めた顔して、本当にそんな事実行しちゃダメよ? 」



どうしよう、この顔ならやりかねないかも。



ーーー



「 お待ちしておりましたマーガレット王女殿、並びにスミー近衛騎士殿。 エドワード殿下は……椿⁉︎ 」


恭しく敬礼をとって話す彼はそう言えば公の場では、一応立ち振る舞いを一介の騎士らしくするのを今更思い出した。


「 おう、ラファちゃん! 来る途中でお前の可愛い野良猫ちゃんを拾って来てやったぜ⁉︎ 」


この人は、公の場なんて関係ないらしいけれど。 ラファエルはキョトンと私を見てから固い表情を緩めた。


「 行こうかマーガレット、おい! 悪りぃが此方まで運んで来てくれるか? 」


スミーが、嬉しそうに頷いたマーガレットを優しく見つめた後に自分の部下らしき騎士様に何かを頼んでいて、その光景を見た私はやっとエドワードの行動の真相と心の葛藤が分かった気がした。



そして、何故スミーだけが毎回この王女様の代わりにこの国にやって来ていたのかも。




なるほど、そう言うことか。





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