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女優





何時にもまして柔らかな陽射しが降り注いだあの日の昼頃に、カミーリィヤの赤ちゃんが無事に誕生した。


「 ロビィリャどんな子だろうな 」


あの子の様に金髪碧眼の天使みたいな女の子なんだろうか。 あの王子様みたいに柔らかな笑顔の子なんだろうか……こういう時だけ、異様に発展した地球の技術が恋しくなる『 同じ名前が三人になったわね 』 あの子の手紙には綺麗な文字でそんな事が書かれていた。


「 会いたいな〜 」


思わず声が漏れる。

遠い異国の彼女達には中々会いには行けないけれど、近い内に必ずこの手に抱っこしてみたい。


ラファエルはその手紙をとても優しくて柔らかな眼差しで黙って読んでいた……小さな頃から全力で惚れていたあの子の、母になった報告の手紙。 あんな優しい顔をするのは、やっぱりカミーリィヤだからだろう。


ちょびっとだけヤキモチを妬いたのは、内緒。


でも、嫉妬なんて言う激しい感情よりは澄み切った海の様な気持ちにもなった。 だって、私にとってもカミーリィヤは……あの子は。


「 椿様? 」

「 あぁ、びっくりした 」


思いに馳せていた私の後ろから声を掛けて来たその子を振り返る。 不思議そうに私を見つめているその子は前にも増して綺麗になった。


「 良かったね 」

「 ……え? 」

「 幼馴染の僕ちゃんと恋人になったんでしょ? 濃厚なチューのご感想でも聞こうか? 」


ふざけた私の言葉に図星のこの子は耳まで真っ赤にして即倒しそうだ。 あぁ、可愛いなこの野郎。


「 椿様、大好きです! 」

「 それは僕ちゃんに言ってやりなよ 」


きっとこの子の幼馴染は、この可愛子ちゃんを幸せに出来るだろう。


「 そう言えば、椿様……今朝もまた王都に出向かれていらっしゃったんですか? 」

「 あぁ、そうなんだけどね、城に呼ばれたから今から城に向かうよ。 何か、王都の劇団が舞台公演するんだって 」

「 そうでしたね、ではお召し物をご用意致します 」


綺麗に微笑んで作法をとったその子が去って行く姿を微笑んで見送る。



妹を思う姉心って、こんな感情なのかな?



ーーー

ーー



「 あーあ、今日はディアナに会いに行きたかったのに 」

「 まぁ折角だから楽しんでいってくれ。 父上も君に是非見せてあげたいと仰ってね 」

「 演劇を見るのは結構好きよ。 国王様の慈愛に感謝しなきゃね 」


隣のエドワードにそう戯けると、優しい顔で頷く。 ラファエルは兎も角、ミシェルも真面目な顔で王子様の後ろを静かについて来ている。


「 あぁ、椿来てたんだ 」

「 お、おはようアドルフ 」


すっかり大臣のアドルフは城に居ることが前に比べて格段に増えた。癖毛の金髪はそう言えば少し伸びて、お洒落で彼にとても似合ってる。


「 アドルフ、それはスミーからの報告書か? 」

「 あぁ、今ラファエルに届けようと思ってたんだよ。 無事に山賊は解体したと取り急ぎの御礼状が届いてね 」


受け取ったラファエルが、真面目な顔でそれを広げて黙読している。 スミーは嵐の様に帰って行ったけれど、今後は此処に来ることも増えるとか最後にドヤ顔で言ってたな。


なんか、何時の間にか私は覚えてる名前が沢山増えたな……一人で居ることの方が格段に少なくなった。


大嫌いだった女優の仕事をしていた頃よりも、ずっと、ずっと。



「 ……だろう⁉︎ ……だ! 」



そんな時、中庭の方から誰かの焦った様な怒鳴り声が聞こえて全員がそちらを振り向く。


「 どうするんだ…… この演劇は国王様からのご依頼なんだぞ⁉︎ 」

「 どうするもこうすも…どうにかするしかねぇだろうが! 」


内容から察するに、劇団員の人だろうか? ……何だか余りよろしくない事が起きてしまった様だけど。


「 慌ててる 」


ミシェルのその感想に思わず吹き出してしまう……誰がどう見てもそうだろ。 なんでこんなに可愛いのこの子は。


「 おい、お前達どうしたのだ? 」


何気に優しいラファエルが、仏頂面で劇団員の元へ向かうと彼を含め、エドワードを見た彼等は慌てた様に敬礼をとる。


「 エドワード王子殿下⁉︎ ……も、申し訳御座いません! 王族の方並びに高貴な御方の面々で御無礼を 」


血の気が引いた様に許しを乞う彼等を、悲しそうに見るのはラファエルだった。 そうか、彼はこういうのされるの好きじゃないもんな。


「 楽にしろ、お前達の前に勝手に現れたのはこちらの方だからな 」


エドワードが穏やかな微笑みを浮かべて彼等の肩に手を置く。 何か、王族っぽい立ち振る舞いだな……今更だけど、冷静に考えたら日本の庶民だった私は本来こんな雲の上の人達と対等に話せないよな普通。 まぁ、此処は日本じゃないし、どうでも良いけど。


アドルフだけは中庭に出て来ることもなく、向こうから塀に凭れてボーッと此方を見ている。


「 大丈夫? 凄く顔色悪いけど 」

「 異邦人様……お、お初に御目に掛かります! 私共はーー 」


長くなりそうなその台詞に、手を降り牽制するとキョトンとした顔で此方を見て来る。


「 もう、良いよそんなん。 私、結構王都もフラフラ出歩いてるよ? 椿で良いから。 私こいつらと違って普通の人間だし 」


親指で王子様達を指す私に、サッと血の気が引いてる。やっぱり城の中に居るとこんな事が時々起こるから嫌になる。 屋敷に住んでると、王都の皆が気さくに話し掛けてくれるのに。


「 で、どうしたのさ 何かあった? 」

「 ……じ、実は 」



彼等はポツポツと話し始めた。



ーーー



簡単な話が、今日の舞台の主役を務める女優さんが国王の前で主役を務めるなんて大役に、余りの緊張からか高熱でダウンして欠員が出た。


「 ありゃ、それは困ったわね 」

「 この演目は他に主役を務めれる女優が居ないのです……台詞も、役柄も難しい物ですから 」


ガクッと項垂れる彼等は、見てるこっちが可哀想になるほど追い詰められている。


「 演目を変えることはできないの? 」

「 今からでは間に合いません… 」


確かに、あと30分で予定の時間になってしまう。 国王様も楽しみにしてるだろうし、代役も見つからない、か。



『 ポチ! 舞台の主役するんでしょ? 良いな、脇役でも良いからさ私も出れる様に監督に頼んでよ 』

『 うん!勿論だよ! 』

『 わーい!ありがとうポチ、大好き! 』



私は、女優として行きてる自分が嫌で仕方なかった。



『 ポチさ、あいつ調子ノリ過ぎじゃない? 絶対監督と寝たでしょ? テレビ黄金時代を彷彿とさせる女優とか言われて天狗になってんじゃん? 』

『 ほんと、死ねば良いのに。 ま、今のうちは媚売っときゃ間違いないっしょ! 』



あの女優仲間達は、本当に居なくなってしまった私をどう思ってるんだろうか……あの世界は泥水の様に穢く濁ってて足の引っ張り合いで、嘘に塗れた地獄だった。



「 その女優さんのする予定だった主役の台詞本って、今あるの? 」

「 あぁ、コレです。 台詞が多いので、かなり分厚いですが…… 」


確かに、普通の何倍もありそうなその台詞本はズシッと重みが手に伝わってくる。 私はそれをパラパラと捲る。


「 これ、どんな内容? 」

「 簡単に御説明すると、男勝りの亡国の姫君が国を滅ぼした宿敵に復讐する演目です……宿敵の正体が小さな頃から側に居た筈の兄の様な護衛騎士だったと 」



悲劇のメルヘンの王道っちゃ王道なのかな。 正直、あんまり好きな演目では無い……だって、この主役のお姫様めちゃくちゃ性格良さそう。


「 うわ、私この悪女したかったな〜。 主役を裏切る親友でしょ? こういう役の方が楽しいわ 」

「 ……え? 」


私が笑いながら言ったその言葉に、ぽかんと口を開けてる劇団員達。 後ろで状況を見守っていた皆も、ラファエルもキョトンとしている。


「 金髪の姫君ってとこだけなら変えれるでしょ? 支障もないだろうし 」

「 椿、どうしたんだ 」


ペラペラと台本を捲る私のそばに、ラファエルがしゃがみ込んで顔を覗かせて来る。 あれ、私ってこの人に言ってなかったっけ?


「 ねぇ、私で良かったら引き受けるけど? この台本なら、20分貰えれば叩き込める 」


状況が把握出来ないようで、劇団員達は開いた口が塞がらない。



「 椿、これは多分素人の私達が口を出して良いものでは無いと思うが… 」


エドワードが私のそばに歩み寄って来てそう言うから、私はそんな彼を見上げてから同じく側でキョトンとしているままのラファエルも振り返って、首を傾げる。


「 あれ、やっぱ言ってなかったっけ? 」

「 ……何をだ? 」


顔を顰める彼を見るに、やっぱり言ってなかったようだ。



「 私は、女優なの 」



見上げた先の皆の顔が驚いている。 ラファエルも目をポカンとさせて固まっていた。



「 女優なのよ私 」




ただ、その言葉に不思議に思った。

『 女優だった 』ではなくて、どうして現在進行形で女優だとそう言ったのか、自分でもよく分からなかった。

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