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うつ伏せになって眠る白髪巻き髪の美人さんに容赦なく近づいて行く彼。



「 起きろスミー、出番だぞ 」

「 ……っいってぇ‼︎ 何すんだよテメェ! やっと眠った所なんだぞ⁉︎ 」



え、あれれ、これって、夢?


「 起こすなら優しく起こせよ! コレでも一応他国のお偉いさんなんだぜ⁉︎ ケツ蹴るのはナシだろうよ!って、そもそもお前さっき帰ったばっかじゃねぇかよ! 」

「 そうだったんだがな、お前のその顔のせいで今朝の私はすこぶる機嫌が悪いんだ…… 何せ、大事な女を失い掛けたんでな。 八つ当たりで申し訳ないが、まぁ、笑って許せ 」

「 っ、……いってぇよ‼︎‼︎ 何の話だよ⁉︎ 」


仏頂面で、あの美人さんのお尻を蹴りあげる彼に思わず目がテンになる。 物凄く真顔で蹴り上げて、あの美人はニワトリみたいに叫んでる。どさくさに紛れたけど『 大事な女』ってそう言ってくれた彼に、自分勝手で申し訳ないけど、喜びが溢れて来る。


「 大事な女って……もしや!噂の椿ちゃんか⁉︎ 」

「 お前が椿の名を呼ぶな、椿が穢れてしまうだろうが 」


寝台に倒れ込んでたその人がコッチを振り向こうとしたその瞬間、ギュッーっと彼が私を抱き寄せて、美人さんから見えない様にマントで覆い隠す。


「 うっひょー!本物の椿ちゃんじゃん! テメェ顔隠すなよ! 俺達友達じゃねぇか! 」

「 ああ、確かに貴様は気の良い友人だが、そのアホ面を私の可愛い椿に見せたくなどないのでな。 お前の所為で椿を泣かせてしまったんだ、それ故貴様のそのアホ面が今は非常に気分が悪い 」


彼の騎士装束しか目に映らない今、そんなやり取りだけが耳に届く。 あぁ、私の可愛い椿だって、どうしよう涙がちょちょぎれちゃうかも。


「 自分の女を泣かせたのはテメェの責任だろうがよ! だからしつこくテメェに言ったろうが、椿ちゃんに会わせろって! 」

「 あぁ、完全に私の責任だ。 お前は一切悪くない……言ったろう? コレは完全な八つ当たりだと。 種馬のようなお前にだけは会わせたくなかったんだが、やむ負えん事情があって仕方なくお前の前に連れて来たまでだ 」

「 俺は一度も孕ませたりなんかしてねぇよ! 人を種馬呼ばわりすんじゃねぇ‼︎‼︎ 」



この人は、口が悪くてテンション高いバージョンのアドルフか? マントの向こうから聞こえるその声は疑い様のない低い男の声だ。 先程チラッと見えたその身体つきは重苦しい騎士装束で隠れていた時と違って、とても男らしい身体つきだった。


「 そもそもお前のそのふざけた髪型が余計に物事を厄介にしているんだ」

「 癖毛を馬鹿にすんじゃねぇよ! テメェ今癖毛を敵に回したぞ⁉︎ アドルフもクルクルパーじゃねぇかよ! 」

「 馬鹿になどしておらんぞ、私の兄もその様な癖毛だからな 」



ーー凄まじい程、私の勘違いだった。


「 ねぇ、……マント退けて? 」

「 やべぇ! めちゃくちゃ可愛い声してんじゃねぇか椿ちゃん! 」

「 スミー! 貴様は落ち着きと言うものを覚えろ、耳障りだ! 」



うん、物凄く私の勘違いだ。


「 挨拶させて、朝押し掛けた事も謝りたいし…… 」

「 そうか、分かった 」


渋々と言った苦い顔で、マントを剥ぎ取った彼を見つめてから前を向くと、美人さんが私を見つめてポカンとしている。


「 スミーさん、初めまして。ごめんさい、仕事終わりで疲れてるでしょうに 」


口を開いて黙ったままのスミーさんの頬と耳まで、突然ボッとのぼせたように真っ赤に染まる。


「 ……え、椿ちゃん? 」

「 はい、そうですけど 」


ラファエルがムッとした鋭い顔で、ギュッと私を抱き寄せて、スミーさんから距離を確保する。


「 やべぇ……、極上の美人さんじゃんかよ‼︎ おい、ラファエルお前狡いだろ‼︎‼︎ 何でもっと早く紹介しねぇんだよテメェは! 」


テンション急上昇のスミーさんが、子供みたいにはしゃぎ出す。


「 俺スミーってんだ、宜しくな椿ちゃん! …ったく、こいつ俺が滞在中にどんだけ頼み込んでも、椿ちゃんには絶対会わさないって頑固拒否してたんだせ? 」

「 ……そう、だったんですか 」

「 そうそう! 飛び乗っても抱き付いても蹴っても絶対頷いてくんねぇの! 」


あぁ、それってあの日見た光景だ。

……そうだったんだ、あの日のあの行動の真相には私が絡んでたんだ。


「 その癖ずーっと椿ちゃん椿ちゃんって言うんだから世話ねぇよな? 俺の国でも絶対三日で終わらすって寝食も忘れて没頭してたんだからな 」

「 スミー、貴様の脳みそは装飾か? 考えて物を話す事を少しは覚えろ 」

「 照れんなよ、ラファちゃん! 俺は本当の事しか言ってねぇぜ? 」


ラファエルを見てゲラゲラ笑うこの人の二重まぶたを見ても、女じゃ無いと分かった瞬間なぜか羨ましくなくなってしまった。 何故だろう?


「 俺の事、女って勘違いしたんだろ? 祖国でも女神って変な名前がついてんだよ。 ごめんなぁ、俺は正真正銘の男だから安心してくれ 」


私を見て二カッと笑うスミーは、確かに今見ても女顔で人間離れした美貌だけど、もう男にしか見えない。


「 ラファちゃんも説明が足りねぇからなぁ〜、理由も言わず俺と会わせないって椿ちゃんに言ったんだろ? そりゃ不安にもなるわなぁ! あ、でもな俺の祖国に来てくれたのも俺の手違いで起きた問題を解決する為にだったんだよ、良い男だろ? 」


そうか、やっぱり何だかんだ優しいんだな。 うん、スミーさんの言う通り良い男だ。 と言うかなんか、気さくなおっさんみたいで親しみやすい人だな…それに、さっきからちょっと気になってたんだけど。


「 ふふふ、ラファちゃんだって。 それ、なんか可愛いね 」


クスクスと口に手を当てて笑った私の表情を見て、またスミーがポカンと口を開けて凝視してくる。


「 ちょっと本気でヤバイわ……え、可愛過ぎだろ椿ちゃん 」


自分の顎を抑えて舐め回すように凝視してくるスミーに、彼の俊敏で正確な蹴りが入ってスミーは床に転げ落ちる。


「 テメェ! 愛の鞭にしては多過ぎんだろうがよ‼︎‼︎ 」

「 すまないな、八つ当たりだ 」


なんて愉快な人だろう。

見たこと無いけど、17世紀の海賊とかに居そう……こう言う人。


ギャーギャー騒ぐスミーに淡々と言葉を返す平常運転の彼を見てると、何だかんだかなり仲良しさんなんだろうと思う。


「 貴様は救い様のない遊び人だからな、そんな男に気安く椿を会わせれぬ 」

「 ひでーな! アドルフは会ってんだろう⁉︎ あいつだってダラスマでも名が知れるくらいの遊び人だぜ⁉︎ 」


ちょっと待って、隣国にまで?

アドルフの事舐めてた……あいつ、そんなにハイレベルな女泣かせなの?


「 アドルフは聡明な男だからな、椿に手を出したりはせぬ。 しかしお前は違う、お前は……馬鹿だ 」

「 テメェその真顔で言うのは辞めろよ……俺だって繊細なとこもあるんだぜ? 」

「 繊細なんて言葉は、貴様の様な男が一番使ってはならない 」


ガクッと項垂れてショボンとした顔のスミーさんを見てると、何だか憎めなくてこの人は愛されキャラなんだと短時間でわかる程に懐っこい。 だって、そんなこと言いながらも隣の彼は何だか楽しそうだ。



ーーー



あぁ、とんだ勘違い思い違いで、朝から彼等を振り回してしまった。


彼はスミーさんの祖国で、スミーさんと共に寝食を後回しに三日間も職務に没頭して、疲弊困憊して帰って来た四日目の昨日に思わぬハプニングがあって戻ってきてからすぐに、城に篭ってその修正の為に二人で夜通し奔走していたそうだ。屋敷に連絡する時間も取れないくらいに………あぁ、何てことだ。


彼からして見れば4日目も睡眠不足で奔走して、いざ憔悴し切ってクタクタで帰って来たら自分を待っていたはずの恋人からいきなり理由も把握出来ないまま別れを告げられて、身に覚えのない浮気疑惑で散々罵られた挙句、二度と会わないと絶縁を言い渡された。



私って、なんて最低なんだろう。


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