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真ん中っ子の隣で




王都に出掛けて、歩き疲れた私達の前にちょうど雰囲気の良い素敵なカフェが見えたので休憩を兼ねて、テラスで美味しい紅茶を飲んでひと息。


こうやってひとつづつ小さな、でも大きな夢を叶えていく。



「 椿、そう言えば貴女に伝えるのをうっかり忘れていたわ。 今晩は馬鹿息子が集結する事になりそうよ」



カロラナ様が、言葉とは裏腹の嬉しそうな笑顔を向ける。



「 え! って事は…… 」

「 そうよ、オリフィエルとミシェルが帰って来るわ。 3人揃うのは2ヶ月半ぶりかしら? 」



あの二人を脳裏に思い浮かべると、嬉しくてつい頬が緩む。

カロラナ様もとっても嬉しそうだ。



今晩の夕食が、今から楽しみ。


ーーー

ーー



「 おぉ椿、また綺麗になったんじゃないか? 」


紺色で癖のある短髪を揺らして騎士装束を纏ったまま、人懐っこい笑顔で私に歩み寄ってくる。 あぁ、いつ見てもこの人は大型バイクが似合いそうだ。



「 ふふふ、おかえりオリフィエルお兄様! ……あれ、ミシェルは? 」

「 ただいま。そんなにソワソワしなくても一緒に戻ってきたよ。 多分あの子はまだ外に居るんじゃないかな 」



自分が来た方向の廊下を指差して笑うオリフィエルお兄様は、三兄弟の父と共に国王様の近衛騎士をしていて、三白眼の瞳も通った鼻筋も髪型もどことなくラファエルに似ている。 違うのは口髭を生やしてるくらいだろうか? 渋くてワイルドで何時見ても格好良い。 でも、初めて見かけた時は全然兄弟だなんて思わなかった。 多分、それは話し方や雰囲気が当時のラファエルとは正反対だったからだと、今となっては思う。


「 ラファエルが『 出迎えは良いから先に皆と夕食を食べておけ』だって。 本当ごめんな、あの子何時まで経っても愛想がないだろ? 」

「 そんな事ないよ? まぁ、お兄様のその愛想の良さには敵わないだろうけどさ 」

「 そりゃそうだ、男は愛嬌だよ愛嬌 」


私やラファエルと3つ離れたお兄様が、見上げる私の髪をわしゃわしゃと撫でて豪快に笑うから、私もつられて歯を見せてニッと微笑む。 そんな時、後ろから誰かが甘える様に私にギュッと抱きついて来た。



「 椿さん 」



三兄弟で唯一カロラナ様の瞳に似た、犬の様な瞳のその子が私を覗き込んでニコニコ笑ってる。


「 おかえり、ミシェル 」

「 うん 」



ずーっとニコニコしたままのミシェルも、同じ様に騎士装束をその身に纏って、べっちゃり私にひっついている。 エドワードと同い年であり、尚且つ親友であるこの子は、兄であるラファエルと一緒に親友の近衛騎士を務めている。 上の2人は三白眼の鋭い眼光で、この子は真逆のクリンとした可愛い瞳をしている。 ぽけ~っとしてて……何て言うか、うん、四六時中ぽけ~っとしてる。


「 お腹空いたでしょう? 」

「 うん、お腹空いた 」


ふにゃっと顔を崩して笑うミシェルは、兄のラファエルと髪質も長さも同じで紺色に近い髪を胸元まで伸ばしている。 日本で聞いたことある通り、末っ子らしい甘えん坊だと思う。


「 仕事疲れたの? 今日は何時もよりも随分甘えん坊ねぇ、貴方は 」

「 うん 」

「 今日は屋敷に泊まれるんでしょ?」

「 うん、泊まれる 」


常にふにゃふにゃと微笑み自分から率先して話して来るタイプの子ではないけれど、とても愛嬌のある世渡り上手。でも、兄のラファエルに負けないくらい返事の引き出しは少ない。 それが、可愛い。



「 フィエル兄様、笑ってる 」

「 何だその言い方は。ふふ、見たままじゃないか。 お前は相変わらずだと思ってな 」



私にベチャ~っと粘着剤のように抱き着く年の離れた末の弟を、包容力のある笑顔で見つめて豪快に馬鹿にしてるお兄様。

ただ、二人ともラファエル同様に名家の出身者に相応しい、この王国きっての指折りの精鋭騎士らしい。



ーーー



「 父上は椿に会えなくて残念そうだったよ。 そんな顔してた 」


侍女たちが晩餐の準備を始めているその中で、お兄様がケラケラと楽しそうに微笑むとカロラナ様が夫を思い出したのか、私に向かってクスクス微笑む。


「 あの人は、あんな仏頂面だけど、ああ見えて『 娘が出来たんだ』って周りに言い振らしてるのよ 」



そう、お兄様とミシェルは愛想のあるカロラナ様の性格そっくりで、仏頂面のあの人はお父様にそっくりだ。 何度か会ったことあるお父様は、三白眼の鋭い眼光で、口数も多くなくて、威風堂々で、亭主関白に見えて実は誰よりも家族を大切にしている。 本当に、お父様の性格はしっかりとラファエルが受け継いでると思う。



お父様、そんな風に思ってくれてたんだ……やっぱり、何か嬉しいな。



「 あーあ、ブチ切れてるな。怖ぇ 」


何かを察知したお兄様が、ブルッと身体を震わせて二の腕を摩ってる。

食器の音と運ばれて来た美味しそうな料理の香りが包む晩餐場の中を、大きな音が遮った。 突然と言うか……まぁ誰か分かってるけど、動作の細やかなあの人にしては珍しく乱雑に扉を開けたようだ。


「 ミシェル、貴様は私に何か謝罪せねばならん事があるのではないか? 」


物凄い低音の恐ろしい声で、コツコツと靴の音を鳴らし、青筋を立てて激怒してるラファエルが、私の隣に座っていた弟の前で般若も怯えるほど悍ましい顔で立ち止まる。 うげ、怖すぎるよこの人。 鬼だよ、鬼。


「 ラファ兄様、おかえり 」

「 あぁ、かえっーー 」



『帰った』 多分、そう言おうとした律儀で真面目なラファエルは、そんな自分を見損なったように眉をピクッと吊り上げてる。 この末っ子ちゃんの人を手玉に取る性格は多分、私以上に大胆不敵……こんな怖い顔の兄に全く動じもせず、ずっとふにゃりとニコニコしてる。完全にペースを持って行かれてる私の恋人は思わず自分の顔を手で覆い、長ったらしい溜息を吐いて、どうにか怒りを鎮めようとしている……けど、無理だったらしい。 部下には決して感情論で説き伏せないこの人も我が弟となると一切の容赦はしないみたいだ。




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