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あの日から、私は信じられないほどの手厚い破格の待遇を毎日受け続けた。 それは多分、あの王子様の命令で、きっと私が故郷に帰りたいと言えない様にする為に恩を押し付けて来た。 案の定、あの日から数日経った今、王子様は申し訳なさそうな微笑みを貼り付けながら、断る事は許さないと眼力で私を覗き込んでいる。


「 各所を当たって君が元の世界に戻れるか調べたんだが、どうも過去に来た異邦人は誰も元の世界に帰れなかったみたいなんだ……本当にすまないが、故郷に帰ることを諦めてくれるか? 」


ほら、やはりそうだった。

元々帰す気なんて更々なかった……ポチは間抜けだから線密な交渉を練らなくても簡単に掌で転がせると踏んだのだろう。 この数日で『 過去に3人だけ元の世界に帰ることを選択した』と言う情報を私は手に入れていた。 過去の異邦人は舞い落ちた国に、持ち合わせていた知識で沢山の貢献をしたことや、その時代に1人しか現れない為、他の国への政の王手として凄まじい力を持つらしい。


簡単に入手出来たそんな情報を隠してそんな事を言われるなんて、余りにも舐められていると思うが別にどうでもいい。 私は別に故郷に帰りたいと願ってもない。


「 帰れない、んですね…… 」

「 あぁ、力不足で本当に済まない 」

「 家族にも、もう逢えないんですね……そうですよね 」


落胆した表情と声は私の得意分野でもある。 大体こうしていれば皆が可哀想にと手を差し出す。


「 ……本当にすまないポチ、 その代わりこの国で生きていく為に必要な全てを私達王家が保証するよ 」


ほら、王子様は私の顔を見て心底罪悪感が湧き出て来たらしい。 ぬるい男だ、そこで情が出てしまうなら最初からはっきり方法はあると言えば済む話で。 私が今、彼の良心に訴えかけて今後も破格の待遇を受ける事を望んでいるなんて気づきもしない。


「 でも、私…貴方様にはこの数日で本当に良くして頂きました! ……っ、私、頑張ります! この世界で皆様のお役に立てる様に出来ることで恩返しします! 」


両手を絡め、瞳に涙を溜めて笑顔でそう言えば王子様は安堵した様に優しく笑う。 腹黒い策略家の狸と言ってもまだ19歳……まだまだ、隙があると言うか完璧に自分の感情を押し殺せないのだろう。 ひどく浅はかな男だと思う。


「 ポチはとても素直で純粋な女性なんだね、 侍女長も君の世話係に任命されてとても誇らしげだったよ。 すっかり君の明るさに虜になってしまったようだ 」

「 明るさですか……ごめんなさい。 いつも私は落ち着きがないと良く呆れられていたんです、気を付けなきゃ 」


頬を染めて照れ臭そうな顔をした私にエドワード様は、すっかり自分の罪悪感が消えてしまったようだった。 とにかく、現状この王宮に留まって何か此処で生きて行く力をつけなければいけない。 私に与えられた手段はそれだけだ。 後々、この王宮から出てどうにかして1人で生きて行こう。


「 恩人の貴方様の御迷惑にならないように目一杯頑張りますっ! 」



ーーそれまではお互いにその存在価値を存分に利用し合おうじゃないか。



私にとってこの麗しい美貌の王子様は、生きて行く上で必要な手順を与えてもらう生き物としか認識出来ない。


「 ラファエルの事、怒らないでやってくれるか? アレは無愛想で冷たい男に見えるかもしれんが、悪い奴ではないんだ 」

「 そんな! あの方に怒ったりなんてしてません、だって私がいきなり現れたのが悪いんです。 あの方は何も間違ってはいません 」


いや、あいつは間違えた。

いきなり私の首に怪我を負わせたことは一生根に持ってやる。


「 ポチ…君は本当に優しい心の女性だね。 礼を言うよ、アレは彼の一族の中でも飛び抜けて聡明で優秀な私達の近衛騎士なんだ。まぁ、本当に無愛想なんだかね…君に怪我を負わせたことはきっと心の底ですまないと思っているはずなんだ 」


眉尻を下げて私の髪を撫でるエドワード様は、あの蛇男が大好きなんだろう。 身内が身内を庇うなんて表情に鳥肌の立つ光景だ。 あいつが私に謝るのが常識で世の筋ってもんだろ。


「 あの方は本当はとても優しくて素敵な方だって、私はわかってます! 」


どんな心理状態だって、張り付けた私の笑顔は自分でも感動するほど最高の微笑みだった。


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