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ザワザワと甲高い笑い声と女の喧しい話し声が響き渡る。


「 ……めんどくせ 」

「 まぁまぁ、椿、折角だから楽しんで行ってくれ 」


私の包み隠さない本音に苦笑いで笑いかけて来て肩を叩くのはエドワードだったりする。


城と湖の前に広がるこの雄大な芝生の上と、芝生に繋がる城の大きな会場には、幾つものテーブルセットが並び、これまた何の映画だと言いたくなる様な煌びやかな男女達が楽しそうに微笑みあっている。 王族の主催する茶会に呼ばれるほどの人達なんだろうけど、些か興味が湧かない。


「 お久ぶりに御座いますエドワード王子殿下 」

「 おぉ、アドルフ随分久しいではないか! 」


その声に思わず振り返ると、ニコニコと胡散臭い微笑みを貼り付けたアドルフが突っ立っている。 アドルフを遠巻きに眺める女達は恍惚とした表情で頬を染めてこのエセ紳士を眺めている様だ。 そうか、アドルフも良いとこのお坊ちゃんだったな。 エドワードと他愛ない話をして、そのままエドワードは誰かに呼ばれて私達の前を後にした。 そんな王子に手を振ってると、チラッとアドルフが私を見下ろして来る。


「 椿、そう言えばラファエルと一緒じゃ無かったのか? 」

「 あぁ、あいつは多分カミーリィヤのところに居るんじゃないかしら 」


そう、結局蛇男は私を屋敷まで迎えに来て、そのままとんぼ返りでこの城までやって来た。 そして、先程までこの空間に居る女達の熱い視線を独り占めしていながらも、アッサリ何処かへ行ってしまった……そう、多分カミーリィヤの元に。


「 へぇ、それで良いの? 椿は 」

「 どういう意味? 」

「 まぁ、 それにしてもラファエルがこの場にいなくて良かった。 あいつが居ると女性達はラファエルに腰を抜かしてしまうからねぇ 」



ケタケタ笑うこの男の言葉通り、ここに居る女達は皆、酔狂しているような恍惚の顔で蛇男を見つめていた。 自身を着飾ったそれは蛇男に見染めて貰いたかったのかと疑うほど、熱い視線を幾多から一人で受けていた蛇男。アドルフも謙虚にそんな事を言わなくても良いほど美しい男だ。 と言うか、彼は女を漁るために此処に来たんじゃないか?


「 君くらい腹の黒い女が何処かに居たら有難いんだけれどね 」


見下ろして笑うその顔は妖艶で下心たっぷりの悪い笑顔だ。


「 君もこの場に居る男から熱い眼差しを受けているけれど、分かっててそんな挑発するような仕草をしているの? 」

「 ふふふ、だって暇だもの 」


少し顔を斜めにして、潤ませた瞳でアドルフに微笑みかける。熱っぽい妖艶な表情なんて私には簡単に作れるし、案の定遠くに居る男共はゴクっと生唾を飲んで私を獣みたいに焼き付けているようだった。


「 ラファエルに会場から外に出るなと言われなかったのか? 」


会場の中は、既婚者や婚約者の居る女達がそれぞれに鬱憤や惚気を楽しそうに吐き出していて。 そして、この芝生の上にいる男女は言うなれば交流会の様な事をしている。 そして、アドルフの言う通り蛇男には絶対に芝生の方には行くなと釘を刺された。 あいつは、本当に私の保護者らしい。


「 えぇ、どうして分かったの? 」

「 どうせ『 お前は暇だからと男を誑かしに行くだろう。その餌食になる男が可哀想だ 』とか言われたんじゃない? 」


驚いた。 まさしくその通りの言葉を蛇男は私に投げかけて来たから。そして、その言葉の後に、絶対に此処で大人しくしていろと散々釘を刺して、何処かに行ってしまった。


「 そして『 すぐに戻って来る』って言って慌ただしく君の側を離れたんだろうねぇ 」

「 凄いわねアドルフ。 まさにその通りよ 」


感心して見上げた私に眉を下げておかしそうに微笑むアドルフ。


「 君が、言うことを聞かないのも分かってるだろうから気が気ではないだろうね。 きっと急いで戻って来るさ……案の定、ラファエルの悪い予想は当たっている様だし? 」


私を見下ろすその顔は何処か余裕そうにケラケラ笑ってて。


「 まぁ、でもちゃんと唾は付けてるみたいだけれど。 椿に男が寄り付かない様にね 」


そして、私が首に付けている首飾りを見て口に手を当て含み笑いをしている。


「 ラファエルも言葉が足らない割には少し捻くれているから厄介だな 」


そう言ってアドルフが首飾りに触れるーー蛇男が私に無理やりつけた、蛇男の耳飾りと同じ宝石で出来た首飾り。


「 何言ってんのアドルフ。 この首飾りに何か意味でもあるの? 」


キョトンとした私にただ首を傾げて濁しながら笑うアドルフ。何かを隠してそうな悪い企んだ笑顔だけど、なんだかんだ結構こいつの事が好きだ。


そんな時、突然女達がザワザワと淀目き始めた。 それは分かりやすいほど誰か来たのか教えてくれる。



ーー颯爽とマントを風に多酔わせる蛇男が歩いて来た。



私の首にあるのと同じ宝石の耳飾りが、ユラユラと風に靡いて心地良さそうに揺れている。 そんな彼の耳飾りと、私の首飾りを見比べて目をひん剥いて驚き悔しそうに歯をギリギリさせているのは、この場にいる女どもだった……なんなんだ?一体。



「 あーあ、憤慨してるよ 」


きょろきょろと女達を見て居た私は、チョンチョンと肩を叩かれて、アドルフが指差す方に視線を向けた。 すると、青筋を立てて眉を吊り上げている蛇男とバッチリ目が合う。 あいつは怒った顔で城の会場を指差して口を動かした。


” 早く中へ戻れ ”


そう動く口に、何だか呆れてしまう。 だって、私のことに構ってる暇なんか無いはずなのに。 それよりも大事な事があるでしょう?



ーーだって、折角カミーリィヤの側に居るっていうのに。



カミーリィヤは中年くらいの騎士に付き添われて、来客者達と握手を交わしていて蛇男はその一歩後ろで何やら誰かと小難しそうに話をし始めた。 私をチラッと気にしながらも。


あれ、そう言えば蛇男が話している相手の騎士装束はこの国の騎士達とは違う……そうだ、アレはあの優しい王子様の国の騎士が着ていた装束だ。 紺色の髪と言うことは、蛇男達の一族の人間なんだろう。 でも、なぜあの王子様の国の人が居るの? あ、カミーリィヤが蛇男に振り向いた……うん、二人は穏やかに話をしていて、前みたいなぎこちなさは無くなっている。と言うか、カミーリィヤも憑き物が取れたみたいに晴れやかで清々しい顔をして蛇男に微笑みかけている。 あ、二人の楽しそうな笑い声が聞こえてきた…やっぱり上手く行ったんだろうな。 なら何故、あの異国の騎士はやって来たのだろう? 穏やかな顔でカミーリィヤに何かを手渡して、あの子はそれを見て喜んでいる様だった。


カミーリィヤが焼ける様な視線に気付いたのか、此方を見てそこで初めて私に気付いた様だった。 ポカンとしている私の首飾りを見て、目を見張った後、何故かその目を三日月に細めて表情を緩める。



ーーそれはあの無邪気で少女のような笑顔ではなくて、優しさと喜びに溢れた慈愛が篭っていて、一回り大きく成長した大人の女性の微笑み。

余りにも綺麗で晴れ渡ったその満面の笑顔は、此処にいる誰もを魅力する。


「 へぇ、良い女になったんだね 」


アドルフがツンとした顔で、ニヤリと舌を舐める様に笑ってて。


「 おい、狙うな狙うな 」


戯けた私とアドルフが顔を破綻させて笑ってると、鋭い視線が突き刺さってそちらを振り向く。



” 早く中へ戻れ ”



そう、蛇男がさっきよりも凄い剣幕で口を動かして怒っていて、アドルフがそれを見てお腹を抱えて喉を鳴らしていて。



心配なんか、しなくて良いのに。

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